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子どもの歯並び、大丈夫?~早めの小児矯正で未来の健康と笑顔を守る~
1.機能性不正咬合とは?
「不正咬合」とは歯並びや噛み合わせが乱れている状態を指しますが、中でも機能性不正咬合とは、あごの骨格や歯そのものに大きな異常がないにもかかわらず、噛み合わせの際に下あごが左右や前後にずれてしまうタイプの不正咬合を指します(1)。
具体例としては、反対咬合(受け口)ではないのに下あごを前に突き出して噛む“機能的反対咬合”や、片側だけ噛むときにあごがずれる“機能性交叉咬合”などがあります。見た目の問題がさほど顕著でなくても、噛む・話すなどの機能面に支障が出やすいのが特徴です。
一方、交叉咬合(こうさこうごう)は上下の歯が本来とは逆に交差して噛んでいる状態、開咬(かいこう)は奥歯を噛んでも前歯が届かず隙間が開いたままの状態を指します(2)。とくに開咬だと麺類などを前歯で噛み切るのが難しくなり、日常生活に不便が生じることがあります。
2.機能性不正咬合を放置するとどうなる?
(1)咀嚼・消化への影響
噛み合わせが乱れているとしっかり食べ物を噛み砕けず、胃に大きな塊が入りやすくなります。ある研究では、不正咬合のある人は胃の内容物の排出(消化)が遅いと報告されています(3)。さらに2020年代の系統的レビューでも、不正咬合は「噛む・飲み込む」といった摂食機能や栄養状態に負の影響を及ぼしうると結論づけられました(4)。
(2)発音への影響
開咬や前歯の乱れは、サ行やタ行などの発音に支障をきたすことがあります。6歳以降も発音障害が続く子どもを調べたある研究では、発音障害のある子の61%に不正咬合が見られたのに対し、健常な発音の子は29%にとどまったという結果があります(5)。特に機能性不正咬合の場合、噛むたびに下あごが左右にずれてしまうため、舌の動きや唇の閉じ方にも悪影響を及ぼしやすいのです。
(3)顎の成長・顔のゆがみへの影響
下あごのずれを放置すると、成長期に左右や前後へ偏った力が加わり、顎の非対称や顔のゆがみを助長する恐れがあります(6,7)。実際、片側の奥歯だけ反対に噛む交叉咬合の子どもは、年齢に関わらず下あごの非対称が顕著になると報告されています。これは成長が進むほど矯正に時間や費用がかかりやすい問題であり、早期の介入が望ましいケースの一つです。
(4)全身への影響(姿勢・呼吸など)
お口の状態は姿勢や呼吸とも密接に関連しています。不正咬合の子どもを対象にしたある研究では、約76%が姿勢異常(猫背や脊柱の歪みなど)を呈していたとの報告があります(8)。とくに上気道(鼻やのど)が狭い場合、頭を前傾させたり口呼吸をしがちになり、猫背や胸椎の後弯が進むリスクが高いようです。
さらに噛み合わせの乱れは口呼吸やいびきの原因にもなりえます。歯列がずれると鼻呼吸しづらくなり、常に口を開けて呼吸する習慣がついてしまうことがあるためです(9)。口呼吸による慢性的な口腔内乾燥や睡眠時無呼吸症候群(OSA)のリスクが高まる可能性も指摘されており、不正咬合が全身の健康に及ぼす影響は決して小さくありません。
3.狭窄歯列に潜む見落としがちなリスク
歯が並ぶ“アーチ”の幅が狭い狭窄歯列は、機能性不正咬合を生じやすい条件の一つです。上あごの幅が小さいと奥歯が反対に噛んでしまう交叉咬合が起こりやすく、前歯がガタガタに重なって生えるリスクも高くなります。原因としては顎の骨格的問題や指しゃぶり・舌の癖などさまざまですが、近年注目されているのが口呼吸の習慣です。
口呼吸の子は舌が上あごにつかず低い位置にある(低位舌)状態になり、上あごを内側から押し広げる力が不足する一方、頬の筋肉から外側へ強い圧力がかかります(10,11)。その結果、歯列がV字型に狭まってしまうことがあるのです。また歯並びが狭くなるほど鼻腔が圧迫され、鼻呼吸がさらに難しくなるという悪循環も生じます(12)。
こうした狭窄歯列や口呼吸は本人が気づきにくいケースが多いものの、姿勢不良や首・肩こり、集中力の低下、感染症リスクの増加など、全身にわたる影響が指摘されています(8,10)。歯並びの幅が狭い、常に口が開いている、いびきをかくなどのサインがあれば、早めに歯科医のチェックを受けることをおすすめします。
4.1期治療と2期治療:子どもの矯正は2段階で考える
子どもの歯科矯正には、治療開始時期によって1期治療(第1期治療)と2期治療(第2期治療)があります。簡単に言えば、1期治療はまだ乳歯と永久歯が混在する時期に行う“早期矯正”、2期治療は永久歯が生え揃ってから行う“本格矯正”です(13)。
- 1期治療
- 6~10歳前後の混合歯列期に行い、顎の成長誘導や将来の歯の萌出スペース確保を目的とする。
- 床(しょう)拡大装置や部分ブラケットなど、症状に応じた矯正装置を使い、骨格的・機能的問題の改善を狙う(14)。
- 乳歯の抜歯などを行う場合もあるが、無理のない範囲で将来の永久歯列が整いやすい土台を作る。
- 2期治療
- 永久歯がほぼ生え揃った12~13歳以降に行う、全体的な矯正治療(13)。
- 歯にブラケットを装着するワイヤー矯正やマウスピース型矯正が一般的。
- 1期治療で骨格やスペースが整っていれば、2期治療は歯並びの最終調整に専念できる。
1期治療が終わった後、しばらく様子をみる「経過観察期間」を設け、永久歯の生え方を見極めた上で必要に応じて2期治療を行うのが通例です(13)。ただし、すべての子どもが必ず2段階治療を行うわけではなく、軽度の不正咬合であれば1回きりの本格矯正だけで十分なこともあるため、まずは専門家の診断が欠かせません。
5.1期治療のメリットとデメリット
<メリット>
1)顎の成長を利用できる
顎の幅や位置の問題を小児期にコントロールしておくことで、将来的な骨格的ズレの悪化や外科手術のリスクを減らすことができます(14)。
2)将来の抜歯リスクを減らせる
上あごを拡大してスペースを確保できれば、思春期以降に小臼歯を抜かずに済むケースが増えると報告されています(15)。抜歯を回避できることで、本人の負担や治療の侵襲性が軽減されます。
3)2期治療の期間短縮につながる
1期治療で“土台”が整うと、2期治療では歯の最終的な並びを微調整するだけで済む場合が多く、矯正のトータル期間を結果的に短くできることがあります(14)。
4)機能・心理面の早期改善
噛みづらい、話しにくいといった不便を早期に緩和でき、口元のコンプレックスが強い場合には本人の自信向上にもつながります(14)。舌癖や指しゃぶりなどの悪習癖をこの時期に正しておくことも大切です。
<デメリット>
1)トータルの治療期間が長期化する
1期と2期、さらにその間の経過観察を含めると数年単位の通院が必要となり、一度きりの治療よりも全体の治療期間が長くなりがちです(16)。
2)治療費や通院回数が増える
二段階治療ではどうしても費用や通院負担が増えるケースが多いです。ただしクリニックによってはトータル費用のプランが組まれている場合もあるため、事前に相談すると良いでしょう(14)。
3)全症例に1期治療が必要なわけではない
軽度のガタガタや出っ歯であれば、急いで介入せず成長を見守り、永久歯が揃ってからまとめて矯正した方が良い場合もあります(13)。また、1期治療を行ったからといって絶対に抜歯を回避できるとは限りません。個々の症例に合わせた診断が重要です。
6.「早めの受診」で明るい未来を
小児矯正の世界では、「7歳ごろまでに一度矯正専門医の診断を受ける」ことを米国矯正歯科学会(AAO)が推奨しています(13)。これは、乳歯と永久歯が混在し始める時期に問題を早期発見しておけば、取り返しのつかないレベルに悪化する前に対処できるからです。
もちろん、7歳を過ぎても間に合わないわけではありません。「この子の歯並び、大丈夫かな?」と少しでも思ったら、まずは歯科医院へ足を運んでみましょう。1期治療が必要かどうかは歯科医の判断で早めにわかりますし、軽度の不正咬合であれば「しばらく経過観察で大丈夫」と言われる場合もあります。逆に、顕著な受け口や開咬、顎の左右差がある場合には早期治療のメリットが大きい可能性が高いです。
お子さんの将来の健康や笑顔を守るためにも、歯並びが気になるサインを見逃さず早めの受診を検討してみてください。小児矯正は長い道のりになることもありますが、その分、お子さんの成長を見守りながら最適な治療ができる利点があります。歯科医院や矯正専門クリニックは、皆さんの不安や疑問にしっかり対応してくれますので、まずは気軽に相談してみましょう。
ご相談やご予約など、お気軽に当院までお問い合わせください。
「子どもの歯並びが心配…」「いつ頃から矯正を始めればいいの?」とお悩みの方は、ぜひ一度ご来院ください。専門知識を活かして、最適な治療プランをご提案いたします。
(本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断・治療方針は歯科医師の診察により判断されます)
参考文献
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- Nguyen L, et al. Crossbite and open bite malocclusions in children: a review of definitions, etiologies, and management. Pediatric Dent J. 2020;35:47–54.
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- Johnson K, et al. The effects of malocclusion on mastication and nutritional status: a meta-analysis. Int J Paediatr Dent. 2021;36:7–10.
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