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院長のとっておきの話 その35 その牛乳、お腹の不快感だけじゃない? A2ミルクに関する3つの意外な新事実

牛乳を飲むとお腹がゴロゴロする、なんとなく不快感がある…。多くの人が経験するこの悩みに対して、「A1ミルク」と「A2ミルク」という言葉を耳にしたことがあるかもしれません。お腹の不快感の原因とされるA1 β-カゼインを含まないA2ミルクは、その解決策として注目されています。

しかし、A2ミルクの話は、単なる「お腹に優しい牛乳」で終わらないようです。近年の科学研究は、消化の快適さを超えた、もっと意外で興味深い物語を明らかにしています。この記事では、最新の研究結果に基づき、A2ミルクに関する3つの驚くべき新事実をご紹介します。消化器系への影響から、脳や筋肉、そして科学の複雑な真実に至るまで、あなたの牛乳選びが変わるかもしれません。

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1. やはりお腹に優しい?善玉菌を増やし、不快感を減らす可能性

牛乳を飲んだ後のお腹の不快感は、牛乳に含まれるタンパク質の一種「A1 β-カゼイン」が消化される過程で生成されるペプチド(BCM-7)に関連があると考えられています。このA1 β-カゼインを含まないA2ミルクが、実際に消化器系にどのような影響を与えるのか、複数の臨床試験が明らかにしています。

牛乳による消化器系の不快感を自己申告した人々を対象とした2つの無作為化比較試験(Choi et al., 2024およびSong et al., 2025)では、参加者が2週間にわたってA2ミルクを摂取した結果、通常のA1/A2ミルクを摂取した場合と比較して、腹痛、便意切迫感、腹鳴(お腹のゴロゴロ鳴る音)が有意に少ないことが示されました。
さらにChoiらの研究では、腸の炎症の有無を測る指標(マーカー)である「糞便中カルプロテクチン」のレベルにも着目しました。その結果、A2ミルクを摂取した後では、この数値が減少、または上昇度合いが少ないことがわかり、A2ミルクが腸の炎症を軽減する可能性が示唆されました。

もう一方のSongらの研究では、腸内細菌叢への影響が調査されました。驚くべきことに、A2ミルクの摂取は、ビフィズス菌(特にBifidobacterium longum)やブラウティア属菌(特にBlautia wexlerae)といった有益な善玉菌の著しい増加につながったのです。

これらの研究結果を総合すると、A2ミルクがもたらす好循環の可能性が見えてきます。A2ミルクは腸の炎症を抑えることで、ビフィズス菌のような善玉菌が繁殖しやすい環境を作り出します。そして、このより健康な腸内環境こそが、お腹の張りや不快感の減少につながっているのかもしれません。
つまり、これらの研究が示唆しているのは、A2ミルクが単に刺激物を「避ける」だけでなく、善玉菌を積極的に「育て」、炎症を「抑える」ことで、より健康な腸内環境を育む可能性があるということです。
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2. 脳と筋肉にも影響?高齢者の認知機能と生活の質を向上させる可能性
A2ミルクの潜在的なメリットは、消化器系だけにとどまらないかもしれません。軽度認知障害(MCI)を持つ高齢者(65~75歳)を対象とした二重盲検無作為化比較試験(Zhang et al., 2025)から、非常に興味深い結果が報告されました。

この研究では、参加者が90日間にわたって毎日A2ミルクまたは従来の牛乳を摂取しました。その結果は驚くべきものでした。従来の牛乳を摂取したグループと比較して、A2ミルクを摂取したグループは、認知機能のパフォーマンス、主観的な生活の質(QoL)、そして筋力の指標となる左手の握力において、より優れた改善を示したのです。

しかし、この研究の最も興味深い点は、その効果の源泉にあります。研究者たちは当初、これらの効果は抗酸化物質であるグルタチオン(GSH)の増加に関連していると仮説を立てていましたが、結果はそうではありませんでした。代わりに、A2ミルクグループで血清中の25-ヒドロキシビタミンD3レベルがより大きく増加したこととの関連性が示唆されています。
これがなぜ重要なのでしょうか?この発見は、A2ミルクの潜在的な利点が消化器系をはるかに超え、高齢期の認知機能や身体的な健康をサポートするための簡単な食事選択肢となり得る可能性を示唆しているからです。
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3. 「A1が悪でA2が善」は単純すぎる?科学が明らかにする複雑な真実
では、「A1 β-カゼインは体に悪く、A2 β-カゼインは良い」という単純な物語がすべてなのでしょうか? 最新の非常に詳細な科学的分析は、現実がもっと複雑であることを示唆しています。近年の科学は、このシンプルなストーリーに2つの側面から疑問を投げかけています。一つは、そもそも「悪役」とされてきたものは何なのか(BCM-7というペプチドそのものなのか)を問い直す研究で、もう一つは、A1かA2かという違いが、本当にすべての人にとって最も重要な要因なのかを問う研究です。
Cairaらによる2024年の驚くべき研究では、牛乳を摂取した後の人間の血液を分析しました。その結果、消化器系の不快感の原因とされる最終的なペプチド「BCM-7」そのものは血液中から検出されませんでした。代わりに検出されたのは、BCM-7の「前駆体(プレカーサー)」であり、しかもそれらはA1タンパク質とA2タンパク質の両方に由来していたのです。簡単に言えば、血液中から完成した「ケーキ」(BCM-7)は見つからず、その材料である「小麦粉と卵」(前駆体)が見つかったようなものです。そしてその材料は、A1とA2の両方の牛乳に由来していたのです。
この研究の重要な結論は、以下の通りです。
これらの発見は、BCMがβ-CNA1からのみ放出されるという信念に疑問を投げかけ、従来の牛乳の栄養上の安全性を支持するものです…

さらに、Mannilaらによる2025年の別の研究では、新たな視点が示されました。この研究では、乳糖耐性(ラクトースを消化できる)を持つ人々において、特別に加工された(タンパク質が加水分解された乳糖不使用の)A1/A2ミルクは、A2ミルクと全く同じように許容されることがわかりました。これは、一部の人々にとっては、タンパク質の種類そのものよりも、乳糖の含有量やタンパク質の加工方法の方が、体感に影響を与える重要な要因である可能性を浮き彫りにしています。
これまでの研究で見てきたように、A2ミルクが多くの人々にとって明確な利益をもたらすことは事実です。しかし、その「なぜ」という理由は、単一の「悪役」タンパク質に帰結するほど単純ではないようです。これは、栄養科学がいかに常に進化しており、個人の体質が重要な役割を果たしているかを示しています。
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まとめ


A2ミルクの科学を巡る旅は、栄養に関する私たちの理解がどのように成熟していくかを示す、非常に力強い教訓です。それは、単純な「善玉 vs 悪玉」というヒーロー物語で終わることはめったにありません。代わりに、よりパーソナライズされ、よりニュアンスに富んだ現実へと進化していくのです。最も情報に基づいた選択とは、もはや単に「より良い」タンパク質を選ぶことではなく、タンパク質の遺伝的特徴、乳糖の含有量、あるいは加工方法といった要因のうち、あなたの独自の体にとって何が最も重要なのかを理解することなのです。


【動画で知りたい方はこちら↓】(一部読み方がおかしい部分がありますが内容は正確です)
引用)
