来院者専用ブログ
院長のとっておきの話 その42 妊娠中の食事、その「常識」は正しい?赤ちゃんの将来のアレルギーを防ぐ、驚きの3つの新事実

はじめに:赤ちゃんのアレルギー、妊娠中の食事で何ができる?
妊娠おめでとうございます。赤ちゃんの誕生を心待ちにする一方で、「自分の食事が、お腹の子のアレルギーリスクに影響するのでは?」と不安に感じている方も多いのではないでしょうか。「アレルギーが心配だから、妊娠中はナッツや牛乳、卵は避けたほうがいい」といった話を耳にしたことがあるかもしれません。
しかし、赤ちゃんのアレルギーを予防するための食事法については、これまで多くの議論が重ねられてきました。そして最近の科学研究では、アレルギーの原因となりうる食品をただ避けるだけでは不十分で、むしろ逆効果になる可能性さえあることが示唆されています。実は、赤ちゃんの免疫システムは、お腹の中にいるときから「学習」を始めています。そして、アレルゲンを避けることは、その大切な学習機会を奪ってしまうことになりかねないのです。
この記事では、最新の研究論文(Maria Zofia Lisiecka著)から明らかになった、妊娠中の食事に関する3つの衝撃的な新事実をご紹介します。これまでの「常識」を覆すかもしれない、赤ちゃんの未来の健康を守るためのヒントがここにあります。
新事実①:アレルゲン食品を「避ける」と、逆にリスクが上がる?

多くの方が驚かれるかもしれませんが、この研究で最も意外だった発見は、「アレルギーが心配で特定の食品を避ける」という行動が、かえってお子さんのアレルギー発症リスクを高める可能性があるという点です。
研究では、妊娠中にナッツや牛乳などの一般的なアレルゲン食品の摂取を控えていたお母さんから生まれた赤ちゃんは、それらの食品に対するアレルギー感作(アレルギー反応を起こしやすい状態になること)のリスクが、逆に高くなるという結果が出ました。具体的には、妊娠中期から後期にかけてナッツの摂取が週に1回未満だった場合、食品アレルギー感作のリスクが1.76倍に、牛乳の摂取量が1日150ml未満に制限されていた場合は1.93倍になるという関連が見られました。

なぜ、このような逆説的なことが起こるのでしょうか。その鍵は「免疫寛容(めんえきかんよう)」という仕組みにあります。これは、私たちの免疫システムが特定の物質を「敵ではない、安全なものだ」と認識し、攻撃しないように学習するプロセスです。お母さんの食事は、いわば赤ちゃんにとって外の世界の最初の「テイスティングメニュー」です。赤ちゃんはお母さんのお腹の中にいる間に、胎盤を通して様々な物質に触れることで、この免疫寛容を育んでいきます。アレルゲンとなる可能性のある食品にもこの時期に触れることで、「これは食べ物だから攻撃しなくて大丈夫」と学習する機会を得るのです。研究では次のように述べられています。
胎児期にアレルゲンを避けることは、経口および経腸的な寛容の形成を妨げる可能性があります。正常な条件下では、発育中にアレルゲンにさらされることで、赤ちゃんの体は寛容を発達させる機会を得ます。これが、将来の適切な免疫応答の基礎となるのです。
つまり、お母さんがあえてアレルゲン食品を避けることで、赤ちゃんがその食品を「安全なもの」として学ぶ貴重な機会を失ってしまい、生まれた後に出会ったときに過剰な免疫反応、すなわちアレルギー反応を起こしやすくなる可能性があるのです。
新事実②:アレルギー予防の強力な味方、「オメガ3脂肪酸」と「プロバイオティクス」
では、積極的に摂るべきものはあるのでしょうか。もちろんです。同研究では、赤ちゃんのアレルギーリスクを大幅に低減させる2つの強力な栄養素が特定されました。それは「オメガ3多価不飽和脂肪酸(PUFAs)」と「プロバイオティクス」です。

まず、オメガ3脂肪酸についてです。 脂肪の多い魚(青魚など)や一部の植物油に含まれることで知られるオメガ3脂肪酸。この研究では、1日の摂取量が13.5gを超えるお母さんから生まれた赤ちゃんは、アレルギーを発症するリスクが著しく低いことがわかりました。具体的には、オメガ3脂肪酸の摂取量が多かったお母さんの子どもは、アレルギーを発症するリスクが58%も低かったのです(オッズ比 = 0.42)。

次に、プロバイオティクスです。 ヨーグルトやケフィアといった発酵乳製品に含まれる善玉菌、プロバイオティクスもまた、非常に有効であることが示されました。妊娠中期から後期にかけて、ヨーグルトなどの発酵乳製品を1日に1回以上摂取していたお母さんから生まれた赤ちゃんは、アトピー性皮膚炎や呼吸器系のアレルギーの兆候を示す可能性が45%低いという結果でした(オッズ比 = 0.55)。
これは、プロバイオティクスがお母さんの腸内環境を整えることで、短鎖脂肪酸(特に酪酸)のような有益な物質が作られるためです。この物質が胎盤を通して赤ちゃんに届き、免疫システムのバランスを整える遺伝子のスイッチを効果的にオンにしてくれるのです。
アレルゲンを闇雲に避けるのではなく、こうした体を守る働きのある栄養素を積極的に食事に取り入れることが、より効果的なアプローチと言えそうです。
新事実③:食事は赤ちゃんの免疫を「プログラミング」している

なぜ、妊娠中の食事がこれほどまでに赤ちゃんの将来に影響を与えるのでしょうか。その答えは、私たちの遺伝子の働きを調整する「エピジェネティクス(免疫プログラミング)」という仕組みにあります。

これは、食事などの環境要因によって、遺伝子そのものを変えることなく、その働きをオンにしたりオフにしたりする「スイッチ」が取り付けられるようなものです。部屋の照明を明るくしたり暗くしたりする調光スイッチをイメージすると分かりやすいかもしれません。妊娠中のお母さんの食事は、まさにこのスイッチを操作して、赤ちゃんの免疫関連遺伝子の働きを「プログラミング」しているのです。
今回の研究では、この仕組みが具体的に示されました。
- オメガ3脂肪酸を多く摂取すると、アレルギー反応を抑えるのに重要な役割を果たすFOXP3という遺伝子のメチル化が減少し、スイッチが「オン」になりやすくなることがわかりました。
- プロバイオティクスを摂取すると、免疫のバランスを整え、寛容を促すIL-10という遺伝子のメチル化が減少し、スイッチが「オン」になりやすくなることが示されました。
つまり、メチル化が「減少する」ということは、アレルギーを防いだり、免疫のバランスを取ったりするのに役立つ重要な遺伝子の活動が活発になる(スイッチが「オン」になる)ことを意味します。

お母さんが摂る栄養素は、赤ちゃんの遺伝子レベルにまで働きかけ、アレルギーになりにくい、バランスの取れた免疫システムの土台を築いているのです。妊娠中の食事は、単なる栄養補給ではなく、赤ちゃんの生涯にわたる健康を設計する、きわめて重要な役割を担っていると言えるでしょう。
まとめ:これからの妊娠中の食事で、本当に大切なこと
最新の研究が示すメッセージは明確です。赤ちゃんの将来のアレルギーを予防するために大切なのは、特定の食品を過度に避けることではなく、バランスの取れた多様な食事を心がけることです。特に、オメガ3脂肪酸やプロバイオティクスのような体を守る栄養素を積極的に取り入れつつ、不必要にアレルゲン食品を排除しない食生活が、お子さんの健康な免疫システムを「プログラミング」する鍵となります。
妊娠中の食卓は、ただお母さんの体を満たすだけでなく、赤ちゃんの免疫システムの最初の「設計図」を描く場所です。今日、その設計図にどんな未来への希望を書き加えますか?


——————————————————————————–
※健康に関するご心配事は、必ずかかりつけの医師にご相談ください。
