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ボツリヌス療法による歯ぎしり治療とスマイルラインの改善
ブラキシズム(歯ぎしり)へのボツリヌス療法
効果とメカニズム
ボツリヌス療法(ボツリヌストキシン注射)は、ボツリヌス菌由来のタンパク質を過度に働く筋肉に注射することで筋活動を一時的に抑制し、症状を軽減させる治療法です。歯ぎしり(ブラキシズム)では咬筋や側頭筋などが過度に収縮するため、ボツリヌス療法によって噛みしめの強度を弱め、歯や顎への負荷を軽減する効果が期待できます[1][2]。また、筋活動を抑えることで顎の痛みやこわばり、顎関節周囲の不快感なども緩和されることが報告されています[1][3]。
適応と対象患者
ボツリヌス療法によるブラキシズム治療は、従来のマウスピース(スプリント)や噛み合わせ調整などで十分な効果が得られない、あるいはマウスピースの装着が難しい患者さんなどに適しています[2]。また、咬筋の肥大によるエラの張りが気になる方や、審美面から顎のラインをすっきりさせたい場合などにも応用されることがあります。なお、妊娠中や授乳中の方、神経筋疾患をお持ちの方などは施術が推奨されないケースがあるため、医師や歯科医師との十分な相談が重要です[3]。
副作用やリスク
ボツリヌス療法は比較的安全性が高いとされていますが、医療行為である以上、以下のようなリスクや副作用が生じる場合があります[1][2]。
- 注射部位の痛み・腫れ・内出血
- 一時的な頭痛や倦怠感
- 筋力が抑制されることで硬いものを噛む際のだるさ
- 薬剤が周辺の表情筋へ拡散した場合に生じる笑顔の左右差や口唇の動かしにくさ
いずれも多くは一過性であり、効果が切れるとともに徐々に改善することがほとんどです。アレルギー反応など重篤な副作用は極めて稀ですが、万一異常を感じた際は早めに施術を受けた医療機関に相談してください[3]。
最新の研究やエビデンス
近年、歯科領域におけるボツリヌス療法の有効性を調べた研究が増えており、ブラキシズムに対する一定の効果が報告されています[1][2]。特に、最大咬合力の低下や顎の痛みの軽減などについては、多くの研究で施術前後の比較データが有意差をもって示されています[2][3]。効果の持続期間は個人差があるものの、概ね3〜4か月程度とされ、継続的な改善を希望する場合は定期的な追加注射を受けることが一般的です[1]。総じて、歯ぎしりの頻度や筋活動の強度を下げ、患者さんのQOLを向上させる治療手段として有望視されています[2]。
審美目的での口角下制筋ボツリヌス療法(スマイルラインのコントロール)
口角下制筋の役割とボツリヌス療法の作用
口角下制筋は、下顎の骨付近から口角(唇の両端)につながり、口角を下に引く働きをする筋肉です。加齢や生活習慣などでこの筋肉が過度に活動すると、口角が常に下がった状態になり、不機嫌そう・老けた印象を与えがちです。そこで、口角下制筋に少量のボツリヌストキシンを注入すると、筋活動が弱まり、相対的に口角を引き上げる筋肉が優位となって口角が少し上向きに安定しやすくなります[4][5]。これにより“への字口”の改善やマリオネットライン(口角から下にかけての線)を軽減させ、柔らかな表情を作りやすくなるのが特徴です。
スマイルラインの審美的改善例
口角下制筋へのボツリヌス療法(通称「口角ボトックス」)を行うと、施術前は無意識でも口角が下がりがちだった方が、施術後は自然な表情で口角がやや上がりやすくなります[4]。その結果、顔の印象が大きく変わり、明るく若々しい印象を与えることができます。また、マリオネットラインが深く刻まれていた場合にも、筋肉の引っ張りを抑えることでしわやたるみを緩和する効果が期待されます[4][5]。口元の微妙な変化であっても、全体の印象や笑顔の魅力に大きく影響するため、美容・審美領域でも広く利用される施術となっています。
効果の持続期間とメンテナンス
口角下制筋に対するボツリヌストキシン注射の効果は、一般的に3〜4か月程度持続するとされています[4][5]。徐々に筋活動が回復し、施術前の状態に戻っていくため、効果を持続させるには定期的な追加注射が必要です。複数回にわたり施術を受けるうちに、過度な筋緊張が改善していくことで効果の持続期間がやや延びるケースもあります。いずれにせよ、施術間隔や注射量については担当の医師や歯科医師と相談しながら、口元のバランスを見極めつつ調整していくことが大切です[4]。
まとめ
歯科口腔領域でのボツリヌス療法は、ブラキシズム(歯ぎしり)による筋肉の過度な緊張を抑制して症状を軽減し、さらに審美目的として口角の下がりを改善し笑顔の印象を向上させる、二つの側面を持つ治療法です。どちらも短時間かつ低侵襲で施術が行え、適切な量と部位を選ぶことで自然な仕上がりが期待できます。持続期間には限りがあるため、必要に応じて定期的な追加施術を受けることが一般的ですが、術後の満足度が高い治療の一つとして認知されています。気になる症状やお悩みがある方は、ぜひ歯科医院や医療機関で相談してみてください。
参考文献
- Jaspers GW, Pijpe J, Jansma J. The use of botulinum toxin A in the treatment of bruxism: systematic review. Oral Maxillofac Surg. 2013 Sep;17(3):229-36. [PubMed: 23456407]
- Long H, Liao Z, Wang Y, et al. Efficacy of botulinum toxin on bruxism: an evidence-based review. Clin Oral Investig. 2012 Feb;16(1):35-41. [PubMed:21318362]
- Guarda-Nardini L, Masiero S, Marioni G. Treatment of myofascial pain of the masticatory muscles with botulinum toxin A: a placebo-controlled study.Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol Endod. 2008 Jun;105(6):e70-6. [PubMed: 18504158]
- Gassner HG, Brissett AE, Otley CC, et al. Botulinum toxin A for facial wrinkles: an effective, minimally invasive treatment. J Oral Maxillofac Surg. 1999Oct;57(10):1228-33. [PubMed: 10519742]
- Kim NH, Hong SP, Song M. Botulinum Toxin A for Lower Facial Wrinkles: A Two-Center, Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled Study in KoreanPatients. Ann Dermatol. 2019 Dec;31(6):659-665. [PubMed: 31897369]