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院長のとっておきの話 その77 「お口の中のカビ」が、がんの原因に?知っておくべきカンジダ菌との意外な関係

はじめに:身近な真菌に隠されたリスク
私たちの口の中には、何百種類もの微生物が共存しています。そのほとんどは無害ですが、中には特定の条件下で、隠れたリスクとなりうるものも存在します。

この記事で焦点を当てるのは、カンジダ・アルビカンスという酵母(真菌の一種)です。この菌は多くの人の口の中に普段から存在していますが、近年の研究で、口腔がんという深刻な病気との関連性が指摘されています。

この記事では、この身近な真菌と口腔がんの意外なつながりをわかりやすく解説し、最も重要な「自分自身を守るために何ができるか」についてお伝えします。
1. 驚きの事実:カンジダ菌は健康な人の口にもいる「常在菌」
まず知っておくべきなのは、カンジダ・アルビカンスは外部から侵入してくる特別な病原菌ではないということです。この菌は、健康な人の約50~70%の口腔粘膜にも生息している、ごくありふれた「口腔内フローラ(細菌叢)」のメンバーの一員です。
しかし、カンジダ菌は「日和見感染症」を引き起こす病原体でもあります。これは、普段は無害でも、体のバランスが崩れたときに過剰に増殖し、問題を引き起こす性質を指します。特に、がん治療などで免疫力が低下した人では、口腔カンジダ症(口の中に白い苔のようなものができる病気)などを引き起こすことがあります。
普段は無害な微生物が、時として重大な健康問題の原因になりうるという事実は、私たちの体内の生態系のバランスがいかに重要であるかを物語っています。
2. 最大の黒幕:「慢性炎症」ががんへの道を開く
カンジダ菌ががんと関連する最大の理由は、「慢性炎症」を引き起こすことにあります。これは、短期間で治る痛みや腫れとは異なり、長期間にわたって持続する、低レベルの刺激が口の中で続く状態を指します。この状態が、がん細胞が育ちやすい危険な環境を作り出してしまいます。

その破壊的なプロセスは、以下の段階を追って進行します。
- バイオフィルム形成と免疫回避:カンジダ菌は、粘膜の表面に「バイオフィルム」という強力なバリアを形成します。これは菌が身を守るための「盾」のようなもので、免疫システムからの攻撃をかわし、抗菌薬を効きにくくさせます。これにより、菌は口の中に居座り続け、感染が慢性化します。
- 慢性炎症とサイトカイン:しつこいカンジダ菌の存在に対し、体は免疫細胞を絶えず送り込み、炎症反応を続けます。このとき、IL-6、IL-8、TNF-αといった特定の炎症性サイトカイン(細胞間の情報伝達物質)が過剰に放出され続け、炎症をさらに悪化させます。
- 酸化ストレスとDNA損傷:この終わりのない炎症は、活性酸素(ROS)や活性窒素(RNS)といった有害な分子を大量に生み出し、「酸化ストレス」(体がサビつくような状態)を引き起こします。これらの分子は、口腔内の健康な細胞のDNAを直接傷つけます。
- 発がん性代謝物の産生:さらに、この炎症環境の中でカンジダ菌は、アセトアルデヒドやニトロソアミンといった発がん性を持つ代謝物を自ら産生することが知られています。
- 腫瘍の発生:DNAの損傷が蓄積し、ゲノムが不安定になると、細胞が異常な増殖を始め、腫瘍の発生につながる可能性があります。

要するに、カンジダ菌が口の中に居座り続けることで、がん細胞の発生と成長を助ける「発がん促進的な微小環境」が作られてしまうのです。これは、がんの「種」が芽吹き、育つための「肥沃な土壌」を口の中に作ってしまうようなものです。しかし、この環境は偶然に生まれるわけではありません。私たちの生活習慣が、その引き金となるのです。
3. リスクを増幅させる「悪の相乗効果」:生活習慣との関係

カンジダ菌が単独でがんを引き起こすことは稀です。その危険性は、特定の生活習慣によって著しく増大します。不衛生な口腔環境や喫煙、アルコール摂取といった要因は、口の中の自然な防御機能を弱め、カンジダ菌が定着し、バイオフィルムを形成しやすい環境を作り出します。これは「相乗効果」と呼ばれ、リスクを掛け算のように増幅させます。
- 不衛生な口腔環境
- 喫煙
- アルコール摂取
特にアルコールとの関係は深刻で、カンジダ菌は二重の脅威をもたらします。 第一に、カンジダ菌には、アルコール(エタノール)をアセトアルデヒドという強力な発がん性物質に代謝する能力があります。つまり、アルコールを飲むことで、口の中でカンジダ菌が直接的に発がん物質を生産してしまうのです。 第二に、カンジダ菌はアルコールが存在しなくても、ニトロソアミンという別の種類の発がん性物質を自ら産生することがあります。

どの微生物が口の中にいるかを自分でコントロールすることはできません。しかし、その微生物の振る舞いに影響を与えるこれらの生活習慣は、私たち自身が管理できる重要な要素です。
4. 口腔がんの「前兆」を見逃さない:カンジダ感染と前がん病変
口腔白板症(はくばんしょう)という病気をご存知でしょうか。これは、口の中にできるこすっても取れない白い斑点で、稀にがん化することがあるため「前がん病変」とされています。
研究によると、この白板症とカンジダ菌の間には、見過ごせない関係があります。カンジダ菌に感染している白板症は、感染していないものに比べて、がん化する確率が著しく高いことが示されています。ある信頼性の高い25年間にわたる長期的な観察研究では、カンジダ菌に感染した白板症のうち、実に28.6%が悪性化したと報告されています。
これは非常に重要な事実です。口の中にできた消えない白い斑点、特にそれがカンジダ菌に感染している場合、それは深刻な警告サインと捉えるべきです。このような病変を早期に発見し、適切に対処するためにも、定期的な歯科検診が不可欠なのです。
まとめ:あなたの口の健康は、あなたの手の中にある

最後に、この記事の重要なポイントをまとめます。
カンジダ・アルビカンスは多くの人の口にいる常在菌ですが、慢性的な炎症や不適切な生活習慣と結びつくことで、口腔がんのリスクを高める一因となり得ます。
しかし、悲観する必要はありません。リスクを減らすために、今日から実践できることがあります。
- 徹底した口腔衛生を維持する
- 禁煙し、過度なアルコール摂取を避ける
- バランスの取れた健康的な食事を心がける
- 定期的に歯科検診を受ける

毎日の歯磨きは、虫歯予防だけではありません。それは、より深刻な病気から身を守るための、最も身近で重要な防御策なのです。今日から、あなたのお口の環境を見直してみませんか?


【動画で知りたい方はこちら↓】(一部読み方がおかしい部分がありますが内容は正確です)
引用)
