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院長のとっておきの話 その83 歯ぎしりは癖じゃない?ストレスがあなたの脳と身体に引き起こす5つの意 【アドバンス】外な真実

朝、目覚めたときに顎がだるい、なんだか疲れている。あるいは、家族やパートナーから「夜中に歯ぎしりをしているよ」と指摘された経験はありませんか?多くの人が、歯ぎしりを「ただの癖」や「悪い習慣」だと考えがちです。しかし、近年の神経科学的研究は、この常識を覆しつつあります。最新の研究では、歯ぎしりが私たちの脳やストレスと深く関わる、身体からの重要なサインであることがわかってきました。この記事では、その驚くべき5つの真実を解き明かし、あなたの身体が発しているメッセージを読み解くお手伝いをします。
1. 歯ぎしりは「癖」ではなく、脳が関わる「無意識の運動」です

歯ぎしりは、単に歯をこすり合わせる習慣ではありません。専門的には「非機能的で不随意な筋肉活動」、つまり、噛む・話すといった本来の目的とは関係なく、無意識に起こる筋肉の動きと定義されています。その背景には、中枢神経系、すなわち脳の働きが深く関わっているのです。

これを理解するために、脳の交通整理システムを想像してみてください。ストレスは、脳内で筋肉の動きを精密にコントロールしているこのシステム(神経伝達物質)を混乱させるようなものです。ドーパミンやセロトニンといった信号が正常に機能しなくなると、顎の筋肉に「動け」という誤った指令が送られ続け、無意識の歯ぎしりが始まってしまうのです。つまり、歯ぎしりはあなたの意志とは無関係に、脳がストレスに反応して起こしている身体的な現象なのです。

2. ストレスの悪循環:歯ぎしりが、さらなるストレスを生み出す
ストレスが歯ぎしりの原因になる、というのは想像しやすいかもしれません。しかし、衝撃的なのはその逆もまた真実であるということです。歯ぎしりはストレスの結果であると同時に、新たなストレスの原因にもなり得ます。

このメカニズムは、脳のストレス応答回路であるHPA軸(視床下部-下垂体-副腎系)の活性化によって説明できます。歯ぎしりという行為そのものが身体的なストレスとして脳に認識されると、このHPA軸が刺激され、ストレスホルモンとして知られるコルチゾールの分泌が促されます。つまり、「ストレスを感じる→歯ぎしりをする→歯ぎしりという物理的ストレスが脳を刺激し、さらにコルチゾールを分泌させる→心身の緊張が高まる」という悪循環が生まれてしまうのです。ある研究ではこの状態を、以下のように的確に表現しています。

歯ぎしり自体が、自らを永続させる『悪循環』と化す。

このループにはまり込むと、自分でも気づかないうちに心身の緊張状態が永続してしまう可能性があるのです。
3. 顎の健康が記憶力に影響する?

このストレスの悪循環が、単に心身の緊張を高めるだけでなく、脳の最も重要な機能の一つである「記憶」にまで影響を及ぼすとしたら、どうでしょうか?ここからは、さらに意外な関連性についてお話しします。歯ぎしりを含む「噛む」という機能の問題が、脳の認知機能にまで影響を及ぼす可能性が指摘されているのです。
動物実験の段階ではありますが、噛み合わせの不調や歯の喪失によって正常な咀嚼ができなくなると、空間を認識する記憶力や学習能力が低下するという結果が報告されています。さらに驚くべきことに、これらの機能障害は、記憶を司る海馬の神経細胞そのものが減少したり、その構造が変化したりするなど、物理的な変化を引き起こすことまで示唆されているのです。このことから、お口の健康を保ち、しっかりと噛むことは、単に食事を楽しむためだけでなく、私たちの脳の健康を維持するためにも極めて重要であると言えるでしょう。
4. あなたも無自覚な一人かも?驚くほど多くの人が経験しています
これほど深刻な影響を及ぼす可能性のある歯ぎしりが、実は驚くほど多くの人々の間で見過ごされているとしたら、どうでしょう。「自分は歯ぎしりなんてしていない」と思っている方も、実は無自覚な一人かもしれません。歯ぎしりは非常にありふれた現象でありながら、多くの人がその事実に気づいていないことがデータで示されています。
- 人口の60~70%に認められる、非常に一般的な状態だと考えられています。
- しかし、歯ぎしりに関連する症状(顎の痛みや歯の摩耗など)を持つ人のうち、それを自覚しているのはわずか4人に1人だけです。
- また、女性は男性に比べて5倍も歯ぎしりをしやすい傾向にあることも報告されています。
これらのデータは、多くの人々が自分でも気づかないうちに歯ぎしりをしている可能性を示しています。この記事を読んでいるあなたや、あなたの身近な人も、その一人かもしれません。朝起きた時の顎の疲れや頭痛など、思い当たる節がないか一度チェックしてみる価値はあります。
5. 歯ぎしりは脳の健康状態を映す「窓」かもしれない

顎と眼は、一見すると全く無関係な器官に思えるかもしれません。しかし、ある画期的な研究によって、夜間の歯ぎしりという物理的なストレスが、眼の奥深くにある神経の損傷と関連している可能性が示されました。
その研究では、睡眠時ブラキシズム(夜間の歯ぎしり)を持つ患者の眼を調べたところ、脳の延長部分とも考えられる「網膜」に、神経の変性が見られたのです。さらに、神経に栄養や酸素を供給する脈絡膜の厚さにも変化が認められました。これは、歯ぎしりの影響が単なる口の問題にとどまらず、ストレスが引き起こす神経系やそれを支える血管系の広範な変化の一端を映し出している「窓」のような役割を果たしている可能性を示唆しています。もちろん、これは歯ぎしりが即座に深刻な病気に繋がるという意味ではありません。しかし、身体が発するサインに早期に気づき、耳を傾けることの重要性を教えてくれる、非常に興味深い発見です。
まとめ:終わりに

ここまで見てきたように、歯ぎしりは単なる癖ではなく、ストレスと深く結びついた、心と身体からの複雑なメッセージです。それは脳内の化学的な変化から始まり、さらなるストレスを生み出す悪循環を作り出し、時には記憶を司る海馬にまで影響を及ぼす可能性を秘めています。

だからこそ、私たちの臨床現場では、単に歯を守るマウスピースをお渡しするだけでなく、ストレスの根本原因を探り、管理していくことを治療計画の重要な柱として位置づけているのです。

あなたの身体は、口を通して何を伝えようとしているのでしょうか? 日々の小さなストレスのサインに、少しだけ耳を傾けてみませんか。その小さな気づきが、心と身体の健康を守るための大きな一歩になるかもしれません。


【動画で知りたい方はこちら↓】(一部読み方がおかしい部分がありますが内容は正確です)
