来院者専用ブログ
院長のとっておきの話 その39 その物忘れ、年のせいじゃないかも?科学が解き明かす、脳と心臓を守る食事の新常識
はじめに:もしかして、あなたも?

「あれ、鍵はどこに置いたかな?」「あの人の名前、なんだったっけ…」
ふとした瞬間の物忘れに、「もう年かな」と不安になった経験はありませんか?多くの人が年齢のせいだと考えがちなそのサイン、実はもっと深い体のメッセージかもしれません。

最近の科学研究は、私たちが毎日口にする食べ物と、体内で静かに進行する「慢性炎症」、そして脳(記憶力)と心臓の健康との間に、驚くほど強力なつながりがあることを明らかにし始めています。

この記事では、最新の研究から導き出された、特に重要で意外な4つの発見を分かりやすく解説します。物忘れという身近な悩みから始まり、その根本原因である炎症、そして食事という具体的な解決策までをたどることで、私たちの長期的な健康をいかに守るか、新しい視点が得られるはずです。
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1. 脳の健康の新常識:「抗炎症地中海食(AnMED)」が従来の地中海食を超える

単なる「物忘れ」として片付けられていた症状を、研究者たちは現在「主観的記憶障害(SMC)」と呼び、単なる加齢現象ではなく、認知機能低下のpreclinical(前臨床)段階の症状である可能性を指摘しています。
最近、50歳以上の女性を対象に行われた研究で、非常に驚くべき事実が判明しました。健康に良いとされる食事法の中でも、特定の「抗炎症地中海食(AnMED)」を実践しているグループでは、このSMCに対する顕著な保護効果が見られたのです。
さらに驚くべきことに、これまで健康食の代名詞であった従来の地中海食(MED)MIND食では、AnMEDほどの統計的に有意な保護効果は確認されませんでした。なぜなら、従来の地中海食やMIND食では、赤ワイン(アルコール)や乳製品などが許容されていますが、AnMED食はこれらを炎症を促進する可能性があるものとして厳格に排除しているからです。このわずかな違いが、大きな差を生んだと考えられます。

では、具体的にAnMED食とはどのような食事なのでしょうか?

- 積極的に摂りたい食品
- 豆類(ひよこ豆、レンズ豆、インゲン豆など)
- 緑黄色野菜(ほうれん草、ケール、ブロッコリーなど)
- その他の野菜(トマト、人参、玉ねぎなど)
- ナッツ類(くるみ、アーモンドなど)
- 避けるべき食品 AnMED食は、これまでの研究で炎症を促進する可能性が指摘されている赤身肉やアルコールなどを排除した食事法です。そして実際にこの研究でも、特に精製された穀物(白いパン、白米など)、乳製品(特に牛乳)、砂糖類(ペストリー、ケーキなど)を多く摂ることが、物忘れのリスクと強く関連していることが示されました。
そして、これらの積極的に摂りたい食品、特に豆類や野菜は、次に解説する腸の健康に不可欠な「レジスタントスターチ」の優れた供給源でもあるのです。
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2. 腸内環境のヒーロー:消化されない「レジスタントスターチ」

レジスタントスターチ(Resistant Starch, RS)プレバイオティクスとして働き、腸内環境を劇的に改善する力を持っています。

そのメカニズムはこうです。レジスタントスターチは、Faecalibacterium(フィーカリバクテリウム)のような腸内の善玉菌にとって最高のごちそうになります。善玉菌がこれを食べると、短鎖脂肪酸(SCFA)と呼ばれる、体にとって非常に有益な物質を産生します。
短鎖脂肪酸、特にその一種である酪酸(ブチレート)には、全身の炎症を抑え、腸のバリア機能を強化し、免疫システムをサポートする強力な効果があります。

この腸と脳の強いつながりは、単なる理論ではありません。パーキンソン病患者を対象とした近年の研究で、その驚くべき効果が示されています。ある長期研究では、患者にレジスタントスターチを補給したところ、腸内環境が改善されただけでなく、運動症状と非運動症状の両方が大幅に軽減されるという結果が出ました。これは、腸の健康が脳の健康に直接的、そして深く関わっていることを示す力強い証拠です。
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3. 食べ方一つで効果が変わる?冷やご飯とポテトサラダのすごい力

レジスタントスターチのすごいところは、家庭で簡単に増やせる点です。その秘訣は「調理してから冷やす」こと。
ジャガイモや米、パスタなどのデンプン質を多く含む食品は、加熱調理された後、冷まされる過程でデンプンの構造が変化し、消化されにくい「レジスタントスターチ(RS3:老化デンプン)」に変わります。

これは、私たちの食生活にすぐ取り入れられる、非常に実用的な知恵です。
- 温かいご飯よりも、冷やご飯(おにぎり、冷蔵保存したご飯など)
- できたてのホクホクのジャガイモよりも、ポテトサラダ
- 温かいパスタよりも、冷製パスタ
このように調理法を少し工夫するだけで、腸の善玉菌への「エサ」を増やすことができます。さらに嬉しいことに、この方法は食品全体のグリセミック・インパクト(血糖値への影響)も下げてくれるため、血糖コントロールにも役立つのです。
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4. 腸が整えば、心臓も守られる

脳にダメージを与える食事パターンは、心臓にも同じように悪影響を及ぼします。その鍵を握るのも、やはり「腸」と「炎症」です。
66万人以上を対象とした大規模なメタ分析研究では、最も炎症を促進する食事(食事性炎症指数、DIIスコアが最も高い食事)をしていた人々は、心血管疾患の発症リスクと、それによる死亡リスクが大幅に高いことが明らかになりました。
ここで注目したいのは、セクション1で紹介した「AnMED食」が、まさにこの炎症促進性の高い食品(精製穀物、砂糖、赤身肉など)を意図的に避ける食事法であるという点です。
炎症を促進する食事は、腸のバリア機能を傷つけ、腸内環境を悪化させます。すると、赤身肉などに多く含まれるコリンやカルニチンが腸内細菌によって分解されてできるTMAOのような有害な代謝物質が、血液中に漏れ出しやすくなります。このTMAOが血管内で炎症を引き起こし、動脈硬化を促進することで、心臓病のリスクを高めるのです。
つまり、抗炎症作用のある食事で腸内環境を整えることは、脳だけでなく、私たちの生命を支える心臓を守るための、最も強力な戦略の一つなのです。
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結論:未来の健康は、今日の食卓から
つまり、物忘れから心臓病まで、多くの加齢性疾患の根底には「慢性炎症」という共通の敵がいます。そして、その炎症を鎮める鍵は、AnMED食のように炎症を促進する食品を避け、同時にレジスタントスターチで善玉菌を育む「抗炎症・腸活」食事戦略にあるのです。


この記事を読み終えた今、あなたに問いかけたいと思います。
「今日の食事で、炎症と戦うためにできる小さな一歩は何ですか?」

【動画で知りたい方はこちら↓】(一部読み方がおかしい部分がありますが内容は正確です)
引用)
