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痛み軽減睡眠/ブラキシズム

院長のとっておきの話 その43 歯ぎしりだけじゃない?ボトックスが「睡眠の質」を劇的に改善する意外な理由

質の高い睡眠は、日々の活力と健康に不可欠です。しかし、現代社会のストレスや身体の不調により、多くの人が「ぐっすり眠れない」という悩みを抱えています。特に、無意識のうちに歯を食いしばる「歯ぎしり」は、睡眠を妨げる大きな原因の一つです。

このような悩みに対し、「ボトックス」(ボツリヌス毒素製剤)が有望な選択肢になるかもしれません。ボトックスと聞くと、美容医療を思い浮かべる方がほとんどでしょう。しかし、最新の研究によって、ボトックスが睡眠の質を多角的に改善する可能性を示唆する、科学的根拠に基づいた知見が次々と明らかになってきました。

この記事では、最新の研究論文に基づき、ボトックスが睡眠にもたらす3つの「驚くべき発見」と、その作用メカニズムを専門家の視点から分かりやすく解説します。

発見1:つらい「歯ぎしり」を直接緩和し、安眠へ導く

睡眠中の歯ぎしりや食いしばり(睡眠時ブラキシズム)は、睡眠中に無意識に起こる咀嚼筋の活動です。これにより顎の痛みや頭痛が生じ、睡眠が浅くなる原因となります。ボトックス治療は、歯ぎしりに関わる「咬筋」や「側頭筋」に注射することで筋肉の過剰な緊張を和らげ、歯ぎしりの発生頻度やそれに伴う痛みを軽減する効果が知られています。

しかし、ボトックスが歯ぎしりによる睡眠の質そのものを直接改善するかについては、専門家の間でも「議論の余地がある」のが現状です。ボトックス単独の治療では睡眠の質が改善しなかった、あるいは総睡眠時間が減少して睡眠中の覚醒が増えた、といった報告もあります。

一方で、非常に興味深い研究結果も存在します。それは、ボトックス治療をマウスピースの一種であるオーバーデンチャーと組み合わせた場合です。この併用療法を行った群は、オーバーデンチャー単独の群に比べ、治療後3ヶ月から1年にわたり、睡眠の質(PSQIスコア)が有意に改善したと報告されています。これは、ボトックスが他の治療法と組み合わせることで、歯ぎしりに悩む方の安眠をサポートする強力な一手になる可能性を示しています。

発見2:慢性的な「痛み」を断ち、穏やかな眠りを取り戻す

さらに、ボトックスの効果は歯ぎしりによる筋肉の緊張を和らげるだけにとどまりません。睡眠を妨げるもう一つの大きな要因、「痛み」にどう作用するかを見ていきましょう。「痛みがあると眠れない」というのは多くの人が経験することであり、慢性的な痛みは睡眠障害の主要な原因の一つです。

研究では、神経障害性疼痛(NP)や慢性片頭痛(CM)といった、睡眠を著しく妨げる痛みに対するボトックスの有効性が示唆されています。

  • 神経障害性疼痛(NP)に対して: 糖尿病性神経障害や帯状疱疹後神経痛などの患者を対象とした複数の研究で、ボトックスが痛みを軽減し、その結果として睡眠の質を改善したことが報告されています。
  • 慢性片頭痛(CM)に対して: ボトックスは慢性片頭痛の予防的治療として認められており、頭痛の頻度を減らすことで睡眠の質が向上する可能性が示唆されています。興味深いことに、全体的な睡眠スコアに大きな変化が見られない場合でも、「主観的な睡眠の質が向上した」「寝つきが早くなった」「睡眠中の妨げが減った」など、特定の項目で改善が見られたという報告もあります。

ボトックスは、痛みを脳に伝える「痛み関連物質」の放出を抑制する作用があります。これにより痛みのシグナルが遮断され、身体がリラックスし、深い眠りに必要な休息状態へと導かれるのです。

発見3:「不眠症」そのものへの驚くべき直接効果

ボトックスの睡眠への応用で最も驚くべきは、「不眠症」そのものへの直接的な効果を示唆する研究結果です。これは、従来の「筋肉を弛緩させる」「痛みを和らげる」といった効果とは異なる、新たな可能性を示すものです。

あるランダム化比較試験では、不眠症患者の「星状神経節」という首にある神経の集まりにボトックスを注射する治療が行われました。その結果、以下の通り主観的・客観的両面で顕著な改善が見られました。

  • 主観的な改善 (Subjective Improvement): 患者自身の評価による睡眠の質(PSQIスコア)が有意に改善しました。
  • 客観的な改善 (Objective Improvement): 睡眠ポリグラフ検査(PSG)という脳波などを測定する精密検査において、具体的な睡眠構造の改善が確認されました。具体的には、寝つくまでの時間が短縮し、総睡眠時間が増加。さらに、深い眠りである「ノンレム睡眠(N3)」と「レム睡眠」の割合が増加していました。

この結果は、ボトックスが単に不快な症状を取り除くだけでなく、体内の睡眠を調節するシステムそのものに直接影響を与える可能性を示しており、今後の研究が非常に期待される分野です。

なぜ効くのか?睡眠を改善するボトックスの3つの仕組み

ボトックスがなぜこれほど多角的に睡眠の質を改善できるのでしょうか。その複雑なメカニズムを、3つのポイントに分けて簡単に解説します。

  1. 過剰な筋肉の緊張を和らげる (Relaxes Excessive Muscle Tension): ボトックスは、筋肉に収縮を命じる神経伝達物質「アセチルコリン」の放出を阻害します。これにより、歯ぎしりや痙縮などで過剰に活動している筋肉がリラックスし、睡眠を妨げる原因が取り除かれます。
  2. 「痛み」の信号をブロックする (Blocks “Pain” Signals): ボトックスは、神経終末から放出されるサブスタンスPやCGRPといった「痛み関連物質」の分泌を抑制する作用も持っています。これにより、神経周囲の炎症や脳へ送られる痛みの信号が減少し、慢性的な痛みが原因で眠れないという状況を改善します。
  3. 神経と気分を穏やかにする (Calms Nerves and Mood): 研究によると、ボトックスは気分に関連する脳の領域で「セロトニン」などの神経伝達物質を調節する可能性が示唆されています。過度に興奮した神経を落ち着かせ、気分を安定させることで、安らかな睡眠を得るための理想的な体内環境を作り出すのに役立つと考えられています。

まとめ:睡眠の悩みに、新しい選択肢を

ボトックスは、単なる美容医療の手段ではありません。歯ぎしり、慢性的な痛み、そして不眠症そのものに至るまで、様々なメカニズムを通じて睡眠の質を改善する、非常に多機能な治療ツールとなる可能性を秘めています。

もちろん、その効果には個人差があり、まだ研究途上の分野ですが、長年にわたる睡眠の悩みを解決する鍵は、意外なところにあるのかもしれません。もしあなたが歯ぎしりやそれに伴う顎の痛み、頭痛に悩まされており、それが睡眠の質に影響していると感じるなら、まずは歯科医師や口腔外科の専門医に相談し、正確な診断を受けることから始めてみてはいかがでしょうか?



【動画で知りたい方はこちら↓】(一部読み方がおかしい部分がありますが内容は正確です)

引用)
Kuang G, Yu Q, Yu D, Liu L, Hu X, Liu H, Wang X, Li J, Huang J, Wang T, Cash AJ, Lin Z, Xiong N. Botulinum toxin therapy for neurological disorders: Serendipitous benefits on sleep quality and underlying mechanisms. Sleep Med Rev. 2025 Dec;84:102181. doi: 10.1016/j.smrv.2025.102181. Epub 2025 Oct 1. PMID: 41075674.

院長紹介

院長

Tatsuya Aoyama

皆さま、こんにちは。私たちの歯科医院では、患者さま一人ひとりに寄り添い、最適な治療を提供することを目指しています。
精密な技術と設備を活用し、痛みの少ない治療を心掛けています。また、審美治療やインプラント、メインテナンス、訪問診療、抗加齢医学的栄養療法など、幅広いニーズに対応できる専門的なケアを提供しております。皆さまの笑顔を守り、健康的で美しい歯を維持するお手伝いをさせていただきます。お気軽にご相談ください。

略歴

H6年3月
宮崎県立延岡高校卒業
H12年4月
国立徳島大学 歯学部歯学科卒業
H12年5月
歯科医師免許証取得
H12-15年
インプラントセンター、予防歯科医院など3件で勤務
H15年7月
瑞の木会 ローズタウン歯科入社
H22年2月
ローズタウン歯科クリニック 継承
H31年4月
医療法人 地天泰 理事長 就任

所属

  • 日本歯周病学会(歯周病)
  • 日本口腔インプラント学会(インプラント)
  • 日本顕微鏡歯科学会(マイクロスコープ)
  • International Team for Implantology(ITI) member(インプラント)
  • 日本抗加齢医学会(アンチエイジング)
  • 日本分子状水素医学生物学会(アンチエイジング)
  • 日本アライナー矯正歯科研究会(マウスピース矯正)
  • Er-YAGレーザー臨床研究会(レーザー)
  • 日本口腔検査学会
  • 浦安市歯科医師会
  • 千葉県歯科医師会
  • 日本歯科医師会
  • 学校歯科医会

資格

歯科医師、日本抗加齢医学会専門医、ITIセクションジャパンインプラントスペシャリスト認定医