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院長のとっておきの話 その6 歯科治療の未来を変える?あなたの体にもある「スーパー回復物質」SPMの驚くべき力

歯の治療を受けた後の腫れや痛み、あるいは思いがけないケガをしたとき、私たちは「炎症が治まるのを待つ」のが当たり前だと思っています。時間が経てば、体は自然に元の状態に戻っていく。しかし、その「待っている」間、私たちの体内では、ただ時が過ぎるのを受動的に見ているだけなのでしょうか。

実は、私たちの体はもっと驚くべき物語を紡いでいます。そこでは、まるで熟練の指揮者のように、治癒のプロセスを積極的にコントロールするヒーローが働いているのです。この記事は、そんな体内のヒーロー、「特殊なプロリゾルビング脂質メディエーター(Specialized Pro-resolving lipid Mediators)」、略してSPMを発見する旅です。この「スーパー回復物質」が持つ5つの驚くべき事実を解き明かし、特に歯科治療の未来にどのような革命をもたらす可能性があるのかを探っていきましょう。

驚くべき事実1:治癒は「積極的な命令」であり、自然に起こるものではない

最初の発見は、治癒に対する私たちの考え方を根底から覆します。炎症を「火事」に例えるなら、従来の考え方は、燃料が燃え尽きて自然に鎮火するのを待つようなものでした。しかし、SPMの存在は、体内ではもっと積極的な活動が行われていることを教えてくれます。SPMは、火事が起きた後に現場に駆けつけ、消火活動を行い、後片付けから再建までを指揮する「専門チーム」なのです。

この専門チームは、リポキシン、レゾルビン、プロテクチン、マレシンといった個性豊かなメンバーで構成されています。彼らは炎症反応の現場で白血球の過剰な活動を抑制し、炎症を引き起こす物質の生成を止め、死んだ細胞の除去(後片付け)を促します。こうして、組織が元の健全な状態(恒常性)を取り戻すための命令を次々と出していくのです。つまり治癒とは、単なる時間の経過ではなく、SPMによる積極的な「解決(Resolution)」への指揮の結果なのです。この事実は、私たちが自身の体を「ただ待つ」対象から、「積極的に治そうとしている」驚異的なシステムとして捉え直すきっかけを与えてくれます。

驚くべき事実2:スーパー回復物質の”燃料”は、あなたの食事から作られる

では、この強力な回復部隊はどこからやってくるのでしょうか?その答えは、驚くほど身近なところにあります。彼らの原料は、私たちの毎日の食事に含まれているのです。

SPMは、魚油などに多く含まれるオメガ3系脂肪酸(EPAやDHA)や、特定の植物油に含まれるオメガ6系脂肪酸といった「必須多価不飽和脂肪酸」から体内で合成されます。これらは体が自ら作り出すことができないため、食事から摂取する必要がある栄養素です。これまで「健康によい脂肪」として知られてきたこれらの脂肪酸が、単なるエネルギー源にとどまらず、体内の高度な回復システムを稼働させるための不可欠な”燃料”であったことが明らかになってきました。つまり、最新の治癒科学は、古くからの知恵である「医食同源」が、分子レベルで真実であることを証明しているのです。

驚くべき事実3:炎症を「止める」のではなく、「終わらせる」という革命的な考え方

SPMの真に革命的な点は、その働き方にあります。一般的な痛み止めや抗炎症薬(NSAIDsなど)は、炎症に関わるシグナルを強制的に遮断する「抑制(Inhibition)」というアプローチをとります。これは火事の例で言えば、消防車も住民の避難もすべて止めてしまうようなもので、確かに炎症は一時的に抑えられますが、本来必要な治癒プロセスまで妨げてしまう可能性があります。

一方、SPMは免疫機能を抑制することなく、むしろ巧みにコントロールし、炎症を本来あるべき「解決(Resolution)」へと導きます。つまり、暴走する炎症反応にはブレーキをかけつつ、後片付けや修復を担当する免疫細胞の働きは活発化させるのです。これは「炎症収束薬理学(Resolution Pharmacology)」と呼ばれる新しい治療戦略の根幹をなす考え方で、炎症を敵として叩くのではなく、体の正常な治癒プロセスへと導くことを目指します。

SPMsは、従来の抗炎症薬とは異なり、免疫機能を抑制するのではなく、恒常性を積極的に促進することによって炎症の解消を組織化します。

この根本的な違いは、医療の哲学における大きなパラダイムシフトを意味します。単に体の警報を黙らせるのではなく、体自身の救助隊が正しく仕事を行えるよう手助けする、という新しいアプローチの可能性を示しているのです。

驚くべき事実4:歯周病やインプラント治療における画期的な進歩

SPMの持つ組織修復能力は、特に骨の再生が重要となる歯科治療の分野で大きな期待が寄せられています。そして、その可能性を示唆する非常に興味深いデータが、基礎研究の分野から報告されています。

複数の動物実験研究を統合したあるメタアナリシスでは、非常に有望な結果が示されました。その報告によると、SPMは対照群(SPMを使用しないグループ)と比較して、新たに形成される骨の量を平均で14.85%も増加させたのです。これは、私たちが食事から摂取したオメガ3脂肪酸が、単なる栄養素ではなく、実際に失われた骨を再建するための強力な”指令物質”に体内で作り変えられることを示す、驚くべき証拠です。

この結果はまだ動物実験の段階ですが、将来的に歯科治療へ応用されれば、画期的な進歩をもたらす可能性を秘めています。例えば、歯周病で溶けてしまった骨の再生を促したり、インプラント手術後の治癒を加速させたり、抜歯後の骨回復を助けたりと、これまで以上に安全で確実な治療の実現につながるかもしれません。

驚くべき事実5:副作用の少ない、新しい「痛み止め」への期待

歯科治療、特に手術後の痛みは多くの患者さんにとって大きな懸念事項です。現在使われている鎮痛薬には副作用のリスクが伴うことがあります。SPMは、この痛み管理のあり方も変える可能性を秘めています。

複数の基礎研究から、SPMが従来の鎮痛薬(オピオイドやNSAIDsなど)よりも少ない副作用で痛みを和らげる可能性が示唆されています。特に注目すべきは、その安全性に関する特徴です。動物モデルでは、SPMが健康な状態での正常な痛みの感受性には影響を与えず、ケガや炎症によって引き起こされる”病的な痛み”に対して選択的に作用することが分かってきました。

これは、不要な副作用のリスクを抑えながら、必要な痛みだけを効果的に取り除くことができる、理想的な鎮痛薬への道筋を示すものです。この研究がさらに進み、人への応用が可能になれば、歯科手術後の痛みをより安全にコントロールでき、患者さんの負担を大きく軽減する未来が訪れるでしょう。

まとめ:私たちの体に秘められた治癒の力

この旅を通して、私たちの体内に存在する「スーパー回復物質」SPMの5つの驚くべき事実を見てきました。

  1. 治癒は自然に起こるのではなく、SPMによる積極的な命令であること。
  2. その原料は、魚や植物油に含まれるオメガ3・オメガ6系脂肪酸であること。
  3. 炎症を単に「止める」のではなく、巧みに「終わらせる」という新しい考え方に基づいていること。
  4. 動物実験において、骨の再生を平均14.85%増加させるという驚異的なデータがあること。
  5. 副作用の少ない新しい痛み止めとして、基礎研究レベルで大きな可能性を秘めていること。

私たちの体には、炎症という危機を乗り越え、組織を修復するための、想像以上に高度で洗練されたシステムが元々備わっています。SPMは、そのシステムのまさに中心的な役割を担う存在です。

これらの驚くべき分子についての学びが深まるにつれ、日々の食事から最先端の医療に至るまで、私たちの健康へのアプローチは将来どのように変わっていくのでしょうか?SPMの研究は、その答えを解き明かす鍵を握っているのかもしれません。

【動画で知りたい方はこちら↓】(一部読み方がおかしい部分がありますが内容は正確です)

引用)
Rovai EDS, Polassi M, Silveira MID, Araújo SL, Dyke TV, Santos NCCD. Impact of Specialized Pro-Resolving Lipid Mediators on Craniofacial and Alveolar Bone Regeneration: Scoping Review. Braz Dent J. 2024 Oct 25;35:e246133. doi: 10.1590/0103-6440202406133. PMID: 39476116; PMCID: PMC11506308.

Chen Y, Wu X, Li J, Ren Y, Miao H, Zhai X, Huang C, Chen X. The mechanisms of specialized pro-resolving mediators in pain relief: neuro-immune and neuroglial regulations. Front Immunol. 2025 Oct 30;16:1634724. doi: 10.3389/fimmu.2025.1634724. PMID: 41246324; PMCID: PMC12611715.

Zhang Q, Wang Y, Zhu J, Zou M, Zhang Y, Wu H, Jin T. Specialized pro-resolving lipid mediators: a key player in resolving inflammation in autoimmune diseases. Sci Bull (Beijing). 2025 Mar 15;70(5):778-794. doi: 10.1016/j.scib.2024.07.049. Epub 2025 Jan 2. PMID: 39837719.

院長紹介

院長

Tatsuya Aoyama

皆さま、こんにちは。私たちの歯科医院では、患者さま一人ひとりに寄り添い、最適な治療を提供することを目指しています。
精密な技術と設備を活用し、痛みの少ない治療を心掛けています。また、審美治療やインプラント、メインテナンス、訪問診療、抗加齢医学的栄養療法など、幅広いニーズに対応できる専門的なケアを提供しております。皆さまの笑顔を守り、健康的で美しい歯を維持するお手伝いをさせていただきます。お気軽にご相談ください。

略歴

H6年3月
宮崎県立延岡高校卒業
H12年4月
国立徳島大学 歯学部歯学科卒業
H12年5月
歯科医師免許証取得
H12-15年
インプラントセンター、予防歯科医院など3件で勤務
H15年7月
瑞の木会 ローズタウン歯科入社
H22年2月
ローズタウン歯科クリニック 継承
H31年4月
医療法人 地天泰 理事長 就任

所属

  • 日本歯周病学会(歯周病)
  • 日本口腔インプラント学会(インプラント)
  • 日本顕微鏡歯科学会(マイクロスコープ)
  • International Team for Implantology(ITI) member(インプラント)
  • 日本抗加齢医学会(アンチエイジング)
  • 日本分子状水素医学生物学会(アンチエイジング)
  • 日本アライナー矯正歯科研究会(マウスピース矯正)
  • Er-YAGレーザー臨床研究会(レーザー)
  • 日本口腔検査学会
  • 浦安市歯科医師会
  • 千葉県歯科医師会
  • 日本歯科医師会
  • 学校歯科医会

資格

歯科医師、日本抗加齢医学会専門医、ITIセクションジャパンインプラントスペシャリスト認定医