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院長のとっておきの話 その66 歯ぎしり・食いしばり治療の真実:ボトックス注射より効果が期待できる「意外な方法」とは?最新研究から学ぶ3つの驚き

はじめに:昼間の歯ぎしりという無意識の習慣
仕事中や家事に集中している時、あるいはストレスを感じた時、無意識に上下の歯を軽く接触させたり、ぐっと噛みしめたりしていませんか? この日中の食いしばり(覚醒時ブラキシズム)は、多くの人が自覚のないまま行ってしまう「静かな癖」です。

夜間の歯ぎしりを気にする方は多いですが、日中のこの習慣もまた、顎の痛みや不快感といった顎関節症(TMD)を引き起こす大きな要因とされています。そのため、多くの方がボツリヌス毒素(ボトックス)注射をはじめとする様々な治療法に関心を寄せています。

しかし、2025年に発表されたある科学的研究が、どの治療法が本当に効果的なのかについて、驚くべき、そして直感に反する結果を明らかにしました。この記事では、その最新研究から得られた最も重要な3つの発見を、誰にでも分かりやすく解説します。

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1. 驚きの事実①:日中の「食いしばり」にボトックスは効かなかった

この臨床試験では、一般的にボトックスとして知られるボツリヌス毒素A(BTA)の注射と、別の治療法の効果が比較されました。

驚くべきことに、研究の結果、BTA注射を受けたグループは、6ヶ月間の追跡調査期間を通じて、日中の食いしばり行動(覚醒時ブラキシズム)において有意な改善を示しませんでした。

これは多くの人にとって予想外の結果かもしれません。ボトックスは筋肉に関連する問題に対して強力な解決策だと考えられがちです。しかし、この質の高い研究は、ボトックスが筋肉を一時的に弛緩させても、日中の食いしばりという『行動習慣』そのものを解消する効果はないことを示しています。

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2. 驚きの事実②:「バイオフィードバック」という自己認識トレーニングが有効だった
では、何が効果的だったのでしょうか。それは「筋電バイオフィードバック(BIO)」と呼ばれる治療法でした。

これは、患者さんが自身の顎の筋肉の活動状態をモニター画面でリアルタイムに確認し、リラックスさせる方法を学ぶトレーニングです。研究では、このトレーニングを「ビデオゲームで遊ぶような感覚のインターフェース」と表現しており、楽しみながら自分の筋肉の状態を認識し、コントロールする感覚を養うことができます。
研究の結果、このBIO療法は、参加したグループ内で唯一、「歯を軽く接触させ続ける癖」と「日中の食いしばり行動全体」の両方を、治療開始前と比較して有意に減少させることに成功しました。
ただし、ここで最も重要な注意点があります。BIO療法がボトックス注射よりも統計的に優れていたわけではありません。2つの治療法を直接比較した結果、両グループ間に有意な差は見られませんでした。それでもこの結果は、筋肉を化学的に麻痺させる注射とは異なり、自己認識を高める非侵襲的なアプローチが、食いしばりの癖そのものを変えるための有望な道筋であることを示唆しています。
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3. 驚きの事実③:癖が減っても「痛み」が消えるとは限らない
この研究で最も重要かつ繊細な発見の一つは、治療と痛みの関係です。バイオフィードバック療法は食いしばりの「行動」を減らすことには成功しましたが、BIOとBTAのどちらの治療法も、患者が感じる顎の痛み(TMD関連痛)や、不安・抑うつといった心理社会的な状態を大きく改善することはありませんでした。
なぜ癖が減っても痛みが改善しなかったのでしょうか。研究者たちは、参加者の多くが筋肉の痛み(筋痛)だけでなく、**関節の痛み(関節痛)**を抱えていた点を指摘しています。バイオフィードバックもボトックスも筋肉にアプローチする治療法であるため、痛みの原因が関節自体にある場合、効果が限定的になるのは当然と言えるでしょう。
この点について、研究の結論は次のように述べられています。
「どちらの治療法も痛みや心理的な問題を改善しませんでしたが、バイオフィードバックは日中の歯ぎしり行動を有意に減少させました。このことは、顎関節症(TMD)患者の歯ぎしり行動をコントロールするためには、バイオフィードバックがより望ましい可能性を示唆しています。」
これは、顎関節症の複雑さを浮き彫りにしています。顎の痛みは、単に食いしばりだけが原因ではなく、関節の問題など多くの要因が絡み合って生じるものです。したがって、一つの「特効薬」に頼るのではなく、包括的なアプローチが必要であることをこの研究は教えてくれます。
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結論:気づきが救済への第一歩である

今回の研究から学べる最も重要な教訓は、日中の食いしばりという「癖」を管理するためには、ボトックス注射のような介入的な治療よりも、バイオフィードバックのような自己認識を高めるアプローチが有望であるということです。ボトックス注射では見られなかった行動の改善が、バイオフィードバックのグループでは治療開始前と比較して明確に確認されました。

この研究はまた、治療を選択する際に、過剰な治療を避け、「保守的で、科学的根拠に基づき、可逆的な(元に戻せる)ケア」を優先することの重要性を強調しています。

最後に、少しだけご自身を振り返ってみてください。
「仕事中や何かに集中している時、無意識に上下の歯をくっつけていませんか? まずは自分の癖に『気づく』こと、それが改善への最も大切な第一歩かもしれません。」

【動画で知りたい方はこちら↓】(一部読み方がおかしい部分がありますが内容は正確です)
