来院者専用ブログ
院長のとっておきの話 その2 あなたが知っているビタミンDはほんの一部?専門家が解説する、老化と免疫に関する5つの驚くべき真実 ビタミンDシリーズ第1弾
はじめに:ビタミンDの常識をアップデートしよう

「ビタミンD」と聞くと、何を思い浮かべますか?
おそらく多くの人が、「太陽の光を浴びると体内で作られる」「骨を強くするために大切な栄養素」といったイメージを持っているでしょう。実際に、ビタミンDが子どものくる病や大人の骨軟化症を防ぐために不可欠であることは、広く知られています。
しかし、もしこれがビタミンDの持つ力のほんの一部に過ぎないとしたら、どうでしょうか?

近年の研究によって、ビタミンDは私たちが考えていたよりもはるかに深く、古くから私たちの免疫システム、そして「老化」そのものに関わる、驚くべき役割を担っていることが明らかになってきました。
この記事では、最新の科学的知見に基づき、あなたのビタミンDに対する見方を根底から変えるかもしれない「5つの驚くべき真実」をご紹介します。
——————————————————————————–
驚きの事実1:ビタミンDは「ビタミン」ではなく、強力な「ホルモン」だった
私たちはビタミンDを「ビタミン」と呼んでいますが、その正体は体内で強力な作用を持つ「ホルモン」です。
ビタミンDは、体内で2段階の変換を経て、最終的に「1,25(OH)2D3」という活性型に変わります。この物質こそが、ホルモンとしてのビタミンDの本体です。
この活性型ビタミンDは、「ビタミンD受容体(VDR)」と呼ばれるタンパク質を活性化させることで機能します。そして、この受容体は、骨や腸だけでなく、人間のほぼすべての組織や細胞に存在しているのです。
その影響力は、女性ホルモンであるエストロゲンや、ストレスホルモンとして知られるコルチゾールに匹敵すると考えられています。ビタミンDは、体内で数百もの遺伝子の働きを調節する、生命活動の重要な司令塔の一つだったのです。実は、この免疫を調節する機能こそ、私たちがよく知る骨の健康を維持する役割よりも、進化の歴史においてはるかに古いものなのです。
これを単なる「骨のビタミン」として片付けてしまうのは、あまりにもったいない話だとは思いませんか?
——————————————————————————–
驚きの事実2:重要なのは「摂取量」だけでなく、生まれ持った「反応性」
ビタミンDの効果を考える上で、「どれだけ摂るか」と同じくらい、「体がどれだけ効率よく反応できるか」が重要です。
これには2つの異なる指標が関係しています。
- ビタミンDの状態 (Vitamin D status): これは血液検査で測定される一般的な数値(血清25(OH)D3濃度)で、日光を浴びる量、食事、サプリメントによって変動します。
- ビタミンD反応指数 (Vitamin D response index): これは、あなたの遺伝子やエピジェネティクス(遺伝子の後天的なスイッチ)によって決まる、生まれ持った体質です。ビタミンDに対して体がどれだけ効率よく反応できるかを示し、季節や食事では変わりません。

驚くべきことに、この反応指数によって、人々は「高反応者」「中反応者」「低反応者」に分けられることがわかっています。そして、人口の約25%は、ビタミンDへの反応性が低い「低反応者」であると推定されています。
彼らは、免疫システムの不調に関連する病気にかかりやすい可能性が指摘されています。これは、ビタミンDの効果が「ワンサイズ・フィッツ・オール」ではないことを意味します。あなたの体質によっては、他の人より意識的な摂取が必要になるかもしれないのです。
——————————————————————————–
驚きの事実3:ビタミンDは免疫細胞を「プログラミング」する
ビタミンDは、免疫システムを一時的に「ブースト」するのではなく、免疫細胞が作られる段階からその設計図を「プログラミング」しています。

私たちの体の中では、骨髄にある幹細胞が、特定の機能を持つ専門の細胞(例えば免疫細胞)へと分化していきます。このプロセスは「エピジェネティック・プログラミング」と呼ばれ、細胞の運命を決定づける重要なものです。

ビタミンDは、まさにこの過程、特に自然免疫システムの構築において中心的な役割を担っています。
具体的には、ビタミンDがその受容体(VDR)を介して、骨髄の未熟な細胞が単球や顆粒球といった自然免疫の主役となる細胞へと正しく分化するよう指示を出しているのです。このため、単球や、そこから分化するマクロファージや樹状細胞といった細胞は、体内で最もビタミンDの影響を受けやすい免疫細胞と考えられています。
論文の著者たちは、これこそがビタミンDの最も重要な役割であると示唆し、次のように述べています。
ビタミンDの免疫系への主な効果は、中枢の免疫器官および末梢におけるエピジェネティックなプログラミングである。

これは非常に大きな意味を持ちます。ビタミンDは、私たちの体を守る免疫軍団を、その基礎訓練の段階から作り上げている、言わば「教官」のような存在なのです。
——————————————————————————–
驚きの事実4:「免疫コンピテンス」こそが、健康な老化の鍵を握る
ビタミンDが免疫細胞を基礎から「プログラミング」するという事実は、なぜこれほど重要なのでしょうか?それは、このプログラミングの質こそが、私たちの「老化の速度」を左右するからです。
専門用語で「免疫コンピテンス(Immunocompetence)」という言葉があります。これは、外部からの脅威に対して「適切に」反応し、かつ過剰反応を起こさない、免疫システムの能力を指します。

この免疫コンピテンスは、悲しいことに生まれてから10歳頃にピークを迎え、その後は年齢とともに自然に低下していきます。この現象は「免疫老化(immunosenescence)」と呼ばれます。

免疫コンピテンスが低下すると、体内で常に弱い炎症がくすぶり続ける「炎症老化(inflammaging)」が起こります。さらに、新しい細胞を生み出す「幹細胞の枯渇」や、腸内環境の乱れである「ディスバイオーシス」といった、老化の様々な兆候が加速し、感染症だけでなく、がんや糖尿病といった非感染性の疾患にもかかりやすくなるのです。
つまり、健康的に年を重ねるための戦略とは、この「免疫コンピテンス」の低下をいかに緩やかにするかにかかっている、と言えるのです。

——————————————————————————–
驚きの事実5:だからこそ、ビタミンDは「健康寿命」の味方になる
これまでの事実をつなぎ合わせると、ビタミンDが健康長寿にとっていかに重要かが見えてきます。
論理を整理してみましょう。
- ビタミンDは、有能な免疫システムを「プログラミング」するために不可欠である(事実3)。
- 健康な老化は、高い「免疫コンピテンス」を維持することにかかっている(事実4)。
つまり、ビタミンDは単に免疫を「助ける」のではなく、老化という避けられないプロセスに「介入」するための、最も根本的なツールの一つなのです。
研究論文の結論も、この点を明確に支持しています。
したがって、ビタミンDが充足していることは、骨と骨格筋を良好な状態に保つだけでなく、免疫系の恒常性のためにも、健康な老化の重要な要素である。

高い免疫コンピテンスを維持することは、多くの病気から身を守り、老化のペースを遅らせるのに役立ちます。ビタミンDは、そのための頼もしい味方なのです。
——————————————————————————–
まとめ:ビタミンDとの付き合い方、見直してみませんか?
これまで見てきたように、ビタミンDは単なる「骨のビタミン」ではありません。それは私たちの免疫システムを根本から作り上げ、老化のプロセスそのものに影響を与える、極めて重要な「ホルモン」です。
今日から、ご自身のビタミンDについて、少し見方が変わったのではないでしょうか?
では、自分が「低反応者」かどうか分からない場合、どう考えればよいのでしょうか。この点について、論文の著者は一つの実践的なアプローチを提案しています。参考情報として、サプリメント摂取量の目安が示されています。「1日に体重1kgあたり1μg(40 IU)」です。これは多くの国の推奨量より多いですが、副作用が懸念される量よりははるかに少ないとされています。

ただし、この摂取ガイドラインは著者自身の経験に基づくものであり、いかなる公式な推奨を反映するものではないことにご注意ください。
今回の記事は2024年Nutrients誌に発表された「ビタミンDと加齢:免疫能の中核的役割」という論文を元にしました。いかがでしたでしょうか、来院時にまた感想をお聞かせください。


ビタミンDに関してはまだまだ情報がたくさんありますので、特に口腔とビタミンDについて、今後もシリーズで続けていきます。
今回のまとめ動画↓です。(多少の読み間違えや文字化けはありますが内容に問題はありません。)
