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院長のとっておきの話 その10 歯周病菌が、がんや動脈硬化を招く?お口の細菌が全身に及ぼす意外な影響トップ3 

はじめに

歯磨きの時に少し血が出た経験はありませんか?それは歯周病のサインかもしれません。多くの人は、歯周病を単なるお口の中の問題だと考えがちです。しかし、もしその口の中の細菌が、実は体中の思わぬ場所で深刻な問題を引き起こしているとしたらどうでしょう?

この記事では、近年の研究で明らかになった、お口の細菌が全身の健康に及ぼす驚きの影響について、特に意外な3つのポイントを分かりやすく解説します。お口のケアが、なぜ全身の病気予防につながるのか。その科学的な根拠を紐解いていきましょう。

歯周病菌が全身に及ぼす意外な影響トップ3

ポイント1:口の中の細菌は、口の中だけに留まらない。「越境病原体」として全身を旅する

「お口は体の玄関」とよく言われますが、それは栄養を取り入れる入り口というだけでなく、細菌が全身に広がる「出発点」にもなり得ることを意味します。口腔内の細菌は、決して口の中だけで活動しているわけではありません。

細菌が全身に広がるルートは、主に2つあります。

  1. 血流ルート(血行性播種): 歯周病によって歯茎に炎症が起きると、毛細血管が傷つきやすくなります。細菌はこの傷ついた血管から血流に侵入し、血液に乗って心臓、脳、肝臓など、全身のあらゆる臓器に到達します。
  2. 消化管ルート(経腸的播種): 特に重度の歯周病の場合、私たちは唾液と共に、毎日1兆個以上もの口腔内細菌を飲み込んでいると推定されています。その一部は強力な胃酸を生き延びて腸に到達し、腸内細菌のバランスを乱してしまうことがあります。

特に、歯周病菌の一種であるフソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)は、研究者の間では「越境病原体(transboundary pathogen)」と呼ばれています。この発見が示すのは、単に細菌が移動するという事実だけではありません。この菌が、普段は無害な口腔内の常在菌から、全身に害を及ぼす病原体へと「変貌」するという、まさにパラダイムシフトなのです。この菌は粘膜のバリアを突破し、血流に入り込み、遠く離れた臓器や組織に定着する能力を持っています。

そして、これらのルートを介して全身に到達した細菌は、特に「がん」や「動脈硬化」といった深刻な病気と、驚くほど密接に関わっていることが分かってきました。

ポイント2:がんとの不穏な関係。腫瘍の発生と進行を助ける細菌たち

歯周病とがん、特に大腸がんとの間に不穏な関係があることが、近年の研究で強く示唆されています。最も衝撃的な事実は、フソバクテリウム・ヌクレアタムやポルフィロモナス・ジンジバリスといった特定の歯周病菌が、実際に大腸がんなどの腫瘍組織内から発見されていることです。

これらの細菌は、単にそこに迷い込んだだけではありません。がんの発生、増殖、そして免疫からの逃避という、がんのライフサイクルの複数の重要な段階で「共犯者」として機能している可能性が指摘されています。

  • 慢性的な炎症の誘発: 細菌が腫瘍の周りに居座ることで、持続的な炎症が引き起こされます。この慢性的な炎症環境は、がん細胞が育ちやすい「温床」となります。
  • がん細胞の増殖促進: フソバクテリウム・ヌクレアタム菌は、FadAという接着因子を使ってがん細胞に付着し、E-カドヘリン/β-カテニンシグナル伝達経路を活性化させます。これにより、がん細胞の増殖が加速されることが分かっています。
  • 免疫からの逃避を補助: 私たちの体には、がん細胞を攻撃する免疫細胞(特にNK細胞(ナチュラルキラー細胞))が備わっています。しかし、フソバクテリウム・ヌクレアタム菌が持つFap2というタンパク質は、このNK細胞の攻撃からがん細胞を守る「隠れ蓑」のような役割を果たし、がんの成長を助けてしまうのです。

さらに、もう一種の主要な歯周病菌であるポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)も、がんの進行に多方面から関与していることが示唆されています。具体的には、①腫瘍の免疫回避を促進する、②腸内細菌叢を変化させる、③炎症を誘発しやすい微小環境を作り出す、④がん細胞の増殖を直接的に刺激する、という4つの重要なプロセスへの関与が指摘されており、歯周病菌ががんにとって都合の良い環境を作り出していることがうかがえます。

ポイント3:隠された経路。「口腔-腸-血管軸」という新たな脅威

歯周病菌が血流に乗って直接血管に到達するルートとは別に、より巧妙で新しい「遠回りルート」の存在が明らかになってきました。それが「口腔-腸-血管軸(oral-gut-vascular axis)」という考え方です。これは、口腔内の問題が腸を介して全身の血管、特に動脈硬化に影響を及ぼすという多段階のプロセスです。

  1. ステップ1(口腔から腸へ): 毎日飲み込まれる大量の歯周病菌が腸に到達すると、善玉菌と悪玉菌のバランス(腸内フローラ)が崩れ、腸内環境が悪化します(ディスバイオーシス:腸内細菌のバランスが崩れること)。
  2. ステップ2(腸から全身へ): 腸内環境が悪化すると、腸のバリア機能が低下します。これにより、「リーキーガット(leaky gut)」と呼ばれる、腸の壁から細菌の毒素(LPSなど)や未消化物などが血中に漏れ出しやすい状態になります。(※このバリア機能はビタミンDが修復します)
  3. ステップ3(全身から血管へ): 腸から漏れ出した細菌の毒素(LPS:細菌の細胞壁に含まれる内毒素)が血流に乗って全身を巡ります。これにより、血中に細菌の毒素が常に漏れ出し続ける、いわば「代謝性エンドトキシン血症」と呼ばれる慢性的で微弱な炎症状態が引き起こされます。
  4. ステップ4(血管への影響): この全身に広がる慢性的な炎症が、動脈硬化を引き起こし、進行させる主要な原因の一つとなります。結果として、心筋梗塞や脳梗塞のリスクが高まるのです。

この「口腔-腸-血管軸」は、お口の不調が、一見無関係に思える腸を経由して、最終的に血管の病気に繋がるという、隠れた脅威の存在を示しています。

まとめ:全身の健康は、お口のケアから

この記事では、お口の細菌が全身に及ぼす意外な影響として、以下の3つのポイントを解説しました。

  1. 細菌は口の中だけでなく、血流や消化管を通って全身を旅する「越境病原体」であること。
  2. 特定の歯周病菌は、がん組織に侵入し、その増殖や免疫回避を助けることで、がんの進行に関与すること。
  3. 「口腔-腸-血管軸」という隠れた経路を介して腸内環境を乱し、全身の慢性炎症を引き起こして動脈硬化のリスクを高めること。

これらの科学的根拠は、歯周病のケアが、お口の中の健康を守るだけでなく、がんや心血管疾患といった全身の病気を予防するための重要な第一歩であるということを明確に示しています。

毎日の歯磨きが、将来の健康への投資になるとしたら。今日から少し、歯茎のケアにも目を向けてみませんか?定期的な歯科検診とプロフェッショナルケアは、あなたのお口と全身の健康を守るための最も確実な方法です。

【動画で知りたい方はこちら↓】(一部読み方がおかしい部分がありますが内容は正確です)

引用)

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院長紹介

院長

Tatsuya Aoyama

皆さま、こんにちは。私たちの歯科医院では、患者さま一人ひとりに寄り添い、最適な治療を提供することを目指しています。
精密な技術と設備を活用し、痛みの少ない治療を心掛けています。また、審美治療やインプラント、メインテナンス、訪問診療、抗加齢医学的栄養療法など、幅広いニーズに対応できる専門的なケアを提供しております。皆さまの笑顔を守り、健康的で美しい歯を維持するお手伝いをさせていただきます。お気軽にご相談ください。

略歴

H6年3月
宮崎県立延岡高校卒業
H12年4月
国立徳島大学 歯学部歯学科卒業
H12年5月
歯科医師免許証取得
H12-15年
インプラントセンター、予防歯科医院など3件で勤務
H15年7月
瑞の木会 ローズタウン歯科入社
H22年2月
ローズタウン歯科クリニック 継承
H31年4月
医療法人 地天泰 理事長 就任

所属

  • 日本歯周病学会(歯周病)
  • 日本口腔インプラント学会(インプラント)
  • 日本顕微鏡歯科学会(マイクロスコープ)
  • International Team for Implantology(ITI) member(インプラント)
  • 日本抗加齢医学会(アンチエイジング)
  • 日本分子状水素医学生物学会(アンチエイジング)
  • 日本アライナー矯正歯科研究会(マウスピース矯正)
  • Er-YAGレーザー臨床研究会(レーザー)
  • 日本口腔検査学会
  • 浦安市歯科医師会
  • 千葉県歯科医師会
  • 日本歯科医師会
  • 学校歯科医会

資格

歯科医師、日本抗加齢医学会専門医、ITIセクションジャパンインプラントスペシャリスト認定医