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院長のとっておきの話 その111 第2回 実は、争われていないこと
第2回 実は、争われていないこと

前回、「フッ素」と呼ばれているものが5つのカテゴリに分かれることを整理しました。
今回は、フッ化物について賛成の立場からも反対の立場からも、実はあまり争われていない事柄をまとめます。ここを争点だと思って議論している方が、双方にいるように見えるためです。

■ う蝕を防いでいるのは、歯の表面での作用です
フッ化物がむし歯を抑える仕組みは、主として局所作用によることが1980年代に確立しています(Buzalaf 2011、★3、https://doi.org/10.1159/000325151 )。

口の中の液体にごく低い濃度でフッ化物イオンが存在していると、酸が出たときに歯の結晶表面に吸着して、溶けるのを抑えます。そしてpHが戻ると、わずかなフッ化物イオンによって溶液が過飽和の状態になり、再石灰化が加速します。このとき新しくできる結晶はフッ化物を優先的に取り込むため、次に酸にさらされたときの抵抗性が高くなります。

つまり、体内に取り込んで骨や神経に働かせているのではなく、歯の表面で起きていることが本質だという理解になります。
■ フッ化物配合の歯磨剤には効果が示されています
ここは最も研究の蓄積がある部分です。
74研究から小児・思春期42,300名を統合したメタアナリシスでは、フッ化物配合歯磨剤の予防割合は24%(95%信頼区間21から28%)と報告されています(Marinho 2003、★5、https://doi.org/10.1002/14651858.CD002278 )。

さらに1955年から2014年までの96研究を濃度別に整理したネットワークメタアナリシスでは、1000から1250 ppmF の製品と非配合の比較で標準化平均差マイナス0.28、確実性は高いから中程度と評価されています(Walsh 2019、★5、https://doi.org/10.1002/14651858.CD007868.pub3 )。
■ 濃いほど良いわけではありません
同じ研究が、もうひとつ重要なことを示しています。

1450から1500 ppmF は 1000から1250 ppmF よりわずかに優れていますが、その差は標準化平均差マイナス0.08と小さいものでした。そして1700から2200 ppmF、2400から2800 ppmF になっても、1450から1500 ppmF に対する追加の利益は認められませんでした。
効果は1450から1500 ppmF あたりで飽和します。「濃ければ濃いほど良い」という考え方は、この結果からは支持されません。

日本の4学会合同提言(2023年1月)が6歳以上に1500 ppmF を推奨し、それ以上を推奨していないのは、この飽和と整合しています。
■ 量が多ければ害が出ることも、争われていません
フッ化物には摂取量の上限があります。歯のフッ素症は用量に依存して起こります。

水道水フロリデーションに関するシステマティックレビューでは、フッ化物濃度0.7 ppm において、審美的な懸念のあるフッ素症が約12%(95%信頼区間8から17%)、何らかのレベルのフッ素症が約40%(95%信頼区間35から44%)と推定されています。いずれも確実性は低いと評価されています(Iheozor-Ejiofor 2024、★4、https://doi.org/10.1002/14651858.CD010856.pub3 )。
歯科の側もこれを認めています。だからこそ4学会提言は年齢別の使用量を定め、誤って飲み込むことへの注意を明記しています。

■ 日本は全身応用を行っていません
前回書いたとおり、日本で現在水道水にフッ化物を添加している自治体はありません。海外で議論になっているのは、その大半が水道水フロリデーションについてのものです。

ここまでが、専門家の間で大きく争われていない部分です。効果があること、上限があること、濃度を上げても限度があること、日本は全身応用をしていないこと。

では何が争われているのか。それは第4回で扱います。
その前に次回、私が院内での言い方を変えた事柄について書きます。歯科の側が言いすぎてきた部分を、自分で降ろしておきたいと思います。

