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院長のとっておきの話 その20 意外と知らない「体内時計」と口の健康の深い関係

「夜中に歯ぎしりをしていると指摘された」「朝起きると顎が痛い」「しっかり寝たつもりなのに、疲れがとれない」。こうしたお悩み、実は多くの方が抱えています。原因はストレスや疲れだと思われがちですが、もしかしたらその根本には、私たちの誰もが持っている「体内時計(概日リズム)」の乱れが隠れているのかもしれません。(概日=がいじつと読みます)
今回は私たちの口の健康と全身の健康を司る「体内時計」との、意外と知られていない深い関係について解説していきます。

1. なぜ夜中に口が乾くの?唾液から痛みまで、口の中も体内時計に支配されている

私たちの体は、約24時間周期のリズムに従って様々な機能が変化しています。これはもちろん、お口の中も例外ではありません。体内時計は、口腔内の基本的な機能に直接影響を与えています。

- 唾液の分泌量 夜、眠っている間に口の中が乾くのを感じたことはありませんか?これは、体内時計の働きによるものです。夜間になると唾液の分泌量は著しく減少し、日中の数分の一にまで落ち込みます。唾液には、食事によって酸性に傾いた口の中を中和し、歯を守る大切な役割があります。しかし、夜間はその防御機能が低下するため、歯は酸からの攻撃に無防備になり、歯の摩耗や虫歯のリスクが高まってしまうのです。
- 痛みの感じ方 実は、痛みの感じやすさ(痛みの閾値)も1日の中で変動しています。特に顎関節症(TMD)の症状を持つ方が、「朝起きた時が一番顎が痛い、こわばっている」と感じることが多いのは、この体内時計が関係しているからです。これは、夜間の無意識な筋肉の活動に加えて、体の自然な体内時計のリズムによって、朝の時間帯に炎症を引き起こす物質(サイトカイン)の分泌がピークを迎えることが重なるためと考えられています。
2. 「歯ぎしり」はストレスだけが原因じゃない?睡眠と覚醒を司る体内時計の乱れが引き起こす

睡眠中の歯ぎしり(睡眠時ブラキシズム)は、単なる癖やストレスだけが原因ではありません。最新の研究では、体内時計に影響される「睡眠関連運動障害」の一つとして捉えられています。

歯ぎしりは、実は脳が眠りから覚醒する反応と密接に関連しており、特に眠りが浅いノンレム睡眠中に集中して発生することが分かっています。この脳の覚醒や筋肉の活動を調整しているのが、「オレキシン」という脳内物質で、私たちを日中、覚醒させ、注意力を保つ働きを担っています。しかし、体内時計が乱れるとこのシステムが過剰に働き、睡眠中であるにもかかわらず脳が「興奮しすぎた」状態(過覚醒)になってしまいます。この過覚醒が、歯ぎしりが最も起こりやすい、眠りの浅い状態からの微小な覚醒を引き起こすトリガーとなってしまうのです。
つまり、歯ぎしりは単に歯をすり減らすだけの問題ではなく、睡眠と覚醒のリズムが乱れているという体からのサインでもあるのです。そして、この乱れは、高血圧や心血管系の疾患といった全身の健康リスクにも関わっている可能性が指摘されています。
3. まさかの原因?夕方以降の歯の治療が、あなたの睡眠を妨げているかもしれない
ここからは、少し意外に思われるかもしれませんが、歯科治療そのものが意図せず体内時計に影響を与えてしまう「医原性」の問題についてお話しします。

歯科治療では、口の中を明るく照らすために非常に強い光を使用します。この光、特に顔や目に向けられるライトは、私たちの体内時計をリセットする非常に強力な刺激(専門的にはツァイトゲーバーと呼びます)になり得ます。
もし、夕方や夜間の時間帯にこの強い光を浴びると、どうなるでしょうか。私たちの脳は「まだ昼間だ」と勘違いしてしまい、自然な眠りを促すホルモンである「メラトニン」の分泌を抑制してしまいます。その結果、その日の夜の寝つきが悪くなったり、睡眠の質が低下したりする可能性があるのです。
これは、もともと体内時計が乱れやすい方や、不眠の傾向がある方にとっては特に注意が必要な点と言えるでしょう。
4. 不眠、無呼吸、歯ぎしり。危険な三拍子が揃うと、心臓や血管へのリスクが跳ね上がる

「不眠症」と「睡眠時無呼吸症候群」。この二つが合併した状態は「COMISA」と呼ばれ、近年その危険性が注目されています。ここに「歯ぎしり」が加わると、事態はさらに深刻になります。
不眠、無呼吸、歯ぎしりは、それぞれが互いに悪影響を及ぼし合い、悪循環に陥ることがあります。例えば、無呼吸による低酸素状態が脳の覚醒を引き起こし、それが歯ぎしりのトリガーになる。そして、歯ぎしりや覚醒が睡眠の質を下げ、不眠を悪化させる、といった具合です。

この危険な三拍子が揃うと、本来、休息モードにあるべき体がいわば「闘争・逃走モード」(交感神経系)のスイッチが入りっぱなしの状態になってしまいます。この状態が夜通し続くことで、特に心臓や血管への負担がもともと高まる早朝の時間帯に、血圧の急上昇などを引き起こし、心血管系の疾患リスクを著しく高めることが分かっています。

したがって、歯ぎしりは単なる歯科の問題としてではなく、その背景にある体内時計の乱れを示す重要なマーカーであり、特に心血管系の健康にとって潜在的な全身のリスク因子として捉えるべきなのです。
結論

これまで見てきたように、お口の健康は、私たちが思っている以上に「体内時計」を通じて全身の健康と密接に結びついています。夜間の口の渇き、朝の顎の痛み、そして歯ぎしり。これらはすべて、あなたの体内時計が乱れているサインかもしれません。
口は、全身の健康の入り口であると同時に、その状態を映し出す鏡でもあります。ご自身の歯ぎしりや睡眠について、少しでも気になることがあれば、それは体からの大切なサインかもしれません。決して放置せず、一度、かかりつけの歯科医に相談してみてはいかがでしょうか。
【動画で知りたい方はこちら↓】(一部読み方がおかしい部分がありますが内容は正確です)
引用)
