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院長のとっておきの話 その65 歯周病菌が、がんのリスクに?お口の健康と全身の意外な関係について解説

毎日の歯磨きやデンタルフロスは、主に虫歯や口臭を防ぐために行っている、という方がほとんどでしょう。しかし、もし、お口の中のケアが「口腔がん」という深刻な病気の予防にも繋がっているとしたら、どうでしょうか。最新の研究では、口内に潜む特定の細菌が、がんの発生や進行に深く関わっている可能性が示されています。なぜ、口内ケアは単なるエチケット以上に重要なのでしょうか。その驚くべき理由に迫ります。

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歯周病菌の巧妙な「4つの手口」

最新の研究から明らかになった、歯周病菌が私たちの体を巧みに操り、がんのリスクを高める「4つの手口」を、分かりやすく解説します。

1. 身近な「歯周病菌」は、がんリスクを2倍以上にする黒幕だった

慢性歯周病の主要な原因菌として知られる「ポルフィロモナス・ジンジバリス(P. gingivalis)」。この細菌は、ただの悪玉菌ではありません。数が少なくても口内細菌全体のバランスを崩し、病気を引き起こす引き金となる「キーストーン病原体(中心的な存在)」です。

複数の研究を統合した分析によれば、歯周病にかかっている人は、そうでない人に比べて口腔がんのリスクが1.36倍から2.66倍も高まることが報告されています。特に、喫煙や過度な飲酒の習慣がなく、がんの原因となるHPV(ヒトパピローマウイルス)にも感染していない口腔がん患者の約15〜20%において、このP. gingivalisが重要なリスク因子となっていることが示唆されているのです。

さらに、この細菌はアルコールを分解して「アセトアルデヒド」という発がん性物質を生成する能力も持っています。口腔内の衛生状態が悪い人が飲酒をすると、がんのリスクがさらに高まる可能性があるのです。

P. gingivalisが引き起こす歯周病は、口腔がんを含む消化器系のがんの重要なリスク因子であるという研究結果が数多く報告されています。これは、歯周病の管理が、がん予防においても重要である可能性を示唆しています。

2. 免疫システムを欺き、がん細胞に「隠れみの」を着せる

しかし、この菌の恐ろしさは、単にリスク因子となるだけではありません。次に、私たちの体を守るはずの免疫システムを、いかにして手玉に取るのかを見ていきましょう。

私たちの体には、がん細胞のような異常な細胞を見つけ出して攻撃する免疫システムが備わっています。ところが、P. gingivalisはこのシステムを巧みに欺きます。この細菌は、がん細胞の表面にある「B7-H1(PD-L1)」という分子を増やさせ、免疫細胞(特にT細胞)に対して「攻撃しないでください」という信号を送らせるのです。実験では、この細菌に感染したがん細胞で、B7-H1の発現が6倍以上に増加したという報告もあります。

まるで、がん細胞に特殊な「隠れみの」を着せて、免疫システムからの攻撃を完全にブロックしてしまうのです。この巧妙な術によって、がん細胞は免疫の監視から逃れ、自由に増殖しやすくなります。歯周病菌は、ただ炎症を起こすだけでなく、がん細胞が生き残るための手助けまでしてしまう、非常に厄介な存在なのです。

3. 細胞の“正常な死”を止め、「不死身の隠れ家」に変える

免疫の目から逃れるだけでは飽き足らず、歯周病菌はさらに狡猾な手口を使います。私たちの細胞には、異常が発生した際に自ら死を選ぶ「アポトーシス(プログラム細胞死)」という、がん化を防ぐための重要な安全機能が組み込まれています。驚くべきことに、私たちの細胞が持つこの重要な安全装置を、一介の細菌が停止させてしまうのです。これは何を意味するのでしょうか?

P. gingivalisは、このアポトーシスを抑制する能力を持っています。これにより、感染した細胞は本来死ぬべきタイミングを失い、細菌にとっての「不死身の隠れ家」に変わってしまいます。細菌は、この安全な隠れ家の中で生き残り、増殖していくのです。

さらに巧妙なことに、この細菌は同じシグナル経路(PI3K/Akt経路)を悪用して、細胞をがん化しやすい性質へと変化させることまで示唆されています。一つのシステムを乗っ取り、複数の目的を達成する、非常に効率的な戦略です。細菌が自身の生存戦略として細胞の正常なライフサイクルを乗っ取るという事実は、お口の中の慢性的な感染がいかに危険であるかを物語っています。

4. 悪玉菌は「徒党」を組み、がんを悪化させる

P. gingivalisの危険性は、単独行動にとどまりません。他の細菌と協力することで、その脅威はさらに増大します。

口内では、「フソバクテリウム・ヌクレアタム(F. nucleatum)」という別の悪玉菌と共存し、巧みな「チームワーク」を発揮します。これは「代謝的相乗効果」と呼ばれるもので、タンパク質を分解する能力を持つP. gingivalisが作り出したアミノ酸を、F. nucleatumが栄養として利用する、という協力関係です。この連携により、互いの病原性が高まり、がんの発生をさらに促進する土壌が作られてしまうのです。

この細菌チームの存在が、がん患者の予後に直接的な影響を及ぼすことも分かってきました。臨床研究では、口腔がん組織におけるP. gingivalisの存在が、がんの進行度(臨床ステージ)の高さ、悪性度の高さ、そしてリンパ節への転移と明確に関連していることが報告されています。これは、彼らの「チームワーク」が、がんをより悪性なものへと変貌させる力を持っていることを示唆しています。

一口に「お口のケア」と言っても、特定の悪玉菌だけでなく、口内細菌全体のバランス(マイクロバイオーム、つまり口内細菌の生態系)を整えることが、がん予防という観点からも極めて重要になるのです。

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これまで見てきたように、お口の健康は、単に歯や歯茎を守るだけにとどまりません。P. gingivalisのような歯周病菌は、免疫システムを欺き、細胞の正常な死を妨げ、他の細菌と協力することで、がんの発生・進行に深く関与している可能性があります。

日々のオーラルケアは、虫歯予防だけでなく、がん予防を含む全身の健康を守るための重要な投資です。この記事を読んで、今日の歯磨きから、少し意識が変わりましたか?


【動画で知りたい方はこちら↓】(一部読み方がおかしい部分がありますが内容は正確です)

引用)

Starska-Kowarska K. The Role of Porphyromonas gingivalis in Oral Carcinogenesis and Progression by Remodelling the Tumour Microenvironment: A Narrative Review. Cancers (Basel). 2025 Oct 29;17(21):3478. doi: 10.3390/cancers17213478. PMID: 41228271; PMCID: PMC12607439.

院長紹介

院長

Tatsuya Aoyama

皆さま、こんにちは。私たちの歯科医院では、患者さま一人ひとりに寄り添い、最適な治療を提供することを目指しています。
精密な技術と設備を活用し、痛みの少ない治療を心掛けています。また、審美治療やインプラント、メインテナンス、訪問診療、抗加齢医学的栄養療法など、幅広いニーズに対応できる専門的なケアを提供しております。皆さまの笑顔を守り、健康的で美しい歯を維持するお手伝いをさせていただきます。お気軽にご相談ください。

略歴

H6年3月
宮崎県立延岡高校卒業
H12年4月
国立徳島大学 歯学部歯学科卒業
H12年5月
歯科医師免許証取得
H12-15年
インプラントセンター、予防歯科医院など3件で勤務
H15年7月
瑞の木会 ローズタウン歯科入社
H22年2月
ローズタウン歯科クリニック 継承
H31年4月
医療法人 地天泰 理事長 就任

所属

  • 日本歯周病学会(歯周病)
  • 日本口腔インプラント学会(インプラント)
  • 日本顕微鏡歯科学会(マイクロスコープ)
  • International Team for Implantology(ITI) member(インプラント)
  • 日本抗加齢医学会(アンチエイジング)
  • 日本分子状水素医学生物学会(アンチエイジング)
  • 日本アライナー矯正歯科研究会(マウスピース矯正)
  • Er-YAGレーザー臨床研究会(レーザー)
  • 日本口腔検査学会
  • 浦安市歯科医師会
  • 千葉県歯科医師会
  • 日本歯科医師会
  • 学校歯科医会

資格

歯科医師、日本抗加齢医学会専門医、ITIセクションジャパンインプラントスペシャリスト認定医