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歯医者さんが怖いあなたへ:科学が示す5つの不安解消ヒント

「歯医者に行くのが怖い…」
これは珍しいことではありません。実は成人の約10~20%は歯科治療に対して強い不安や恐怖心を抱えていると報告されています[1]。しかし、歯の治療を避け続けると虫歯や歯周病が悪化し、さらに大がかりな治療が必要になって恐怖が増すという悪循環にもなりかねません[1]。そこで本記事では、なぜ私たちは歯医者で不安になるのか、そしてその不安を和らげるためにできることを、最新の研究に基づいてわかりやすく解説します。セロトニン(幸せホルモン)や腸内環境とメンタルの関係、そして歯科治療中に役立つリラックス法など、今日から実践できるヒントを紹介します。

1. 歯科恐怖症と自律神経:「闘争・逃走」反応が起きるとどうなる?

歯科医院の診察台に座ると心臓がドキドキ、高鳴りする――これは体が「危険かも?」と反応して交感神経が優位になっている状態です。私たちの自律神経は緊張や不安を感じると即座に体を戦闘モードに切り替え、心拍数や血圧、呼吸数を上昇させます[2]。これは本来、危機から身を守るための「闘争・逃走(Fight-or-Flight)反応」と呼ばれる生存本能で、歯科治療のようなストレス下でも同じことが起こります。

しかし、このストレス反応が強すぎると困った副作用もあります。交感神経が過度に働くとアドレナリンが放出され、痛みの閾値(しきい値)が下がって普段より痛みを感じやすくなってしまうのです[2]。つまり、緊張でギュッと体が強ばっていると、同じ治療でも余計に痛く感じたり、治療後の疲労や痛みが増したりしがちです[2]。実際、不安の強い人ほど心拍変動が低下(リラックスする神経の働きが低下)するという報告もあり、不安と自律神経の乱れは健康にも影響しうることが分かっています[3]。ですから、歯科治療の際にはできるだけリラックスして交感神経の暴走を抑えることが大切なのです。

2. セロトニン:心の安定に欠かせない「幸せホルモン」

緊張や不安を和らげるカギとなるのが脳内物質のセロトニンです。セロトニンは「幸せホルモン」とも呼ばれる神経伝達物質で、心の安定やリラックスに深く関与しています[4]。セロトニンが十分に働いていると、不安な状況でも過度にパニックになりにくく、気持ちを落ち着けやすくなると考えられています。一方でセロトニンが不足すると気分が落ち込みやすくなったりイライラしたりしやすく、歯科治療への恐怖感も強まりやすいかもしれません。

セロトニンを増やすためにできること

幸い、日々の食事や生活習慣を通じてセロトニンの働きを後押しすることができます。ポイントは次のとおりです。

  • トリプトファンを含む食事をとる
    セロトニンの材料となる必須アミノ酸「トリプトファン」は体内で作れないため、食事から摂る必要があります[4]。乳製品、七面鳥や鶏肉、大豆製品、バナナ、ナッツ類などに多く含まれるので、普段の食事に取り入れてみましょう。特に炭水化物を適度に組み合わせるとトリプトファンが脳に運ばれやすくなり、結果的に脳内セロトニンが増加します[4]。
  • ビタミンやミネラルをバランスよく
    ビタミンB₆・B₁₂、葉酸などは神経伝達物質の合成に必要で、これらが不足するとセロトニン生成もうまくいきません[5]。野菜や果物、豆類、魚介類をバランスよく食べて必要な栄養素を満たしましょう。特に青魚に多いオメガ3脂肪酸はセロトニンやドーパミンの働きを調整し、気持ちを落ち着け不安や落ち込みを減らす効果が期待できます[5]。
  • 適度な運動を習慣に
    運動すると脳内でセロトニンやドーパミンが増え、幸福感が高まることがわかっています[6]。同時に、不安やストレスに関与する興奮性物質(グルタミン酸など)の放出は減るため、結果的に運動は不安を和らげる自然な方法になります[6]。激しい運動でなくても、散歩やヨガなど自分が心地よく続けられる範囲で構いません。定期的に体を動かしてみましょう。

これらの習慣を取り入れることでセロトニン神経が安定し、日常的な不安感やストレス耐性が改善すれば、歯科治療への恐怖心も和らげやすくなるはずです。実際、食事や運動など健康的なライフスタイルの実践は不安や抑うつの予防・改善に効果があるとのエビデンスが増えています[5,6]。

3. 腸内環境とメンタルヘルス:腸は「第2の脳」?

「お腹の調子」と「心の状態」は一見無関係のようですが、近年の研究で密接なつながりがあることがわかってきました。腸には無数の細菌(腸内フローラ)が住んでおり、この腸内環境のバランスが崩れる(腸内細菌叢の乱れ)と不安やうつ状態に影響する可能性が指摘されています[7,8]。実際、腸と脳は迷走神経などを介して双方向に情報交換しており(腸脳軸)、腸内細菌が作り出す物質によって脳の神経活動やホルモン分泌が変化しうるのです[8]。

例えば、驚くべきことに体内のセロトニンの80~90%は腸で作られていると言われています[4]。腸内環境が健全だとセロトニンなど心を安定させる物質の産生が促され、一方で腸内環境が乱れる(腸内細菌のバランスが悪い)と炎症性物質が増えて不安や抑うつのリスクを高める可能性があります[7]。言い換えれば、お腹の中を整えることが心の健康につながるのです。

腸からメンタルを支える工夫

腸内環境を良好に保つために、今日からできることもいくつかあります。

  • 食物繊維をたっぷり摂る
    野菜、果物、全粒穀物、海藻類などに含まれる食物繊維は、腸内の善玉菌のエサ(プレバイオティクス)になります。善玉菌が優勢になると有害な菌の繁殖が抑えられ、腸のバリア機能や栄養吸収も改善。結果として脳への良い影響(不安の軽減など)につながります[8]。
  • 発酵食品やプロバイオティクスを活用
    ヨーグルトや味噌、漬物などの発酵食品に含まれるプロバイオティクス(善玉菌そのもの)を摂取すると、腸内の細菌バランスが改善しストレス反応が和らぐ可能性があります。ある研究では、特定の乳酸菌やビフィズス菌の摂取によってストレスホルモンや不安傾向の低下がみられ、プロバイオティクスが不安や抑うつの緩和に役立つと報告されています[8]。実際にプロバイオティクスが不安障害やうつ病の補助療法として有望だという結果も増えてきました[8]。市販のヨーグルト飲料やサプリメントなど手軽に利用できるものもありますので、気になる方は試してみても良いでしょう。
  • 腸に優しい生活習慣
    腸内環境は食事だけでなく、ストレスや睡眠不足にも影響を受けます。慢性的なストレスは腸内細菌の多様性を損ねることが知られています[7]し、睡眠のリズムが乱れると腸の働きも低下します。適度にリラックスする時間を作り、夜更かしを避けて睡眠をしっかりとることも腸と心のためには大切です。

腸内環境を整えることは全身の健康に良いだけでなく、メンタル面の安定にもつながるというのが最近の科学の見解です[8]。お腹の調子を整えて、内側から不安に強い心身を育てましょう。

4. 歯科治療中のリラックス法:緊張をほぐし、痛みも軽減

実際に歯科医院で治療を受ける際、「怖い!」という気持ちを和らげるためにすぐできる具体的なリラックス法もいくつかあります。これらは科学的にも有効性が示されていますので、ぜひ次回の受診時に試してみてください。

  • ゆっくり深呼吸する
    緊張しているときほど呼吸は浅く早くなりがちです。意識的にゆっくりお腹から息を吸って吐く腹式呼吸を行ってみましょう。ある研究では、治療中に腹式呼吸を取り入れた子どもは、不安な気分や感じる痛みが軽減し、生理的なストレス反応(心拍数など)も穏やかになったと報告されています[1]。深呼吸で酸素を十分取り込むと副交感神経(リラックスの神経)が働き、心身の緊張を和らげてくれます。
  • 音楽を活用する
    好きな音楽やリラックスできる穏やかな曲をイヤホンで聴きながら治療を受けるのも効果的です。適切な音楽は脳波に働きかけ深いリラクゼーション状態を促し、痛みや不安感を和らげることが分かっています[9]。実際、心地よい音楽に集中することで注意がそれて恐怖心が紛れ、自律神経の緊張(ストレスホルモンや交感神経の活動)も減少します[9]。歯科医院によってはBGMを流してくれる所もありますが、遠慮なく自分の好きな音楽を持ち込んでOKか相談してみましょう。
  • 身体の力を一度抜く
    緊張すると無意識に歯を食いしばったり肩に力が入ったりします。一旦ギュッと全身に力を入れてからふっと脱力する筋弛緩法を試したり、「力を抜こう」と自分に言い聞かせてみてください。筋肉のこわばりが取れると不思議と心も落ち着き、痛みの感じ方も和らぎます[2]。治療中も時々肩の力を抜くよう意識してみましょう。
  • イメージの力を借りる
    痛みや恐怖に意識が向いてしまうときは、意識的に楽しい想像をするのも手です。好きな景色や思い出を頭に思い浮かべたり、終わった後のご褒美を考えたりするガイドイメージ療法は、不安を減らす効果が報告されています[9]。想像の中でゆったり過ごすことで現実の緊張感を遠ざけましょう。
  • 歯科医と合図を決めておく
    「痛かったら手を挙げて知らせてくださいね」などと事前に約束しておくだけでも、患者側には「いつでも止めてもらえる」という安心感が生まれます。研究でも、「自分がコントロールできている」という感覚が歯科不安を和らげるうえで非常に重要だと指摘されています[3]。不安なことや苦手な処置がある場合は事前に伝え、休憩してほしい時のサインを相談してみましょう。信頼できる歯科医師であればきっと快く応じてくれるはずです。

こうした非薬物的なリラックス法を駆使してもどうしても怖い場合、笑気ガス静脈内鎮静などの薬を使った方法もあります。強い不安でお悩みの場合は、無理せず歯科医に相談し、必要に応じて鎮静法の助けを借りるのも一つの手です[2]。

5. まとめ:恐怖心とうまく付き合い、快適な歯科治療を

歯科恐怖症や歯科治療への不安は、多くの人が抱えるごく自然な反応です。しかし、だからといって放置して避け続けると歯の健康を損ね、かえって将来的に大きな痛みや負担を生む可能性があります[1]。今回紹介したように、不安のメカニズムを知り、体と心の両面から対策することで恐怖心は和らげることができます

  • 体の仕組みを知る
    恐怖を感じると起こる体の反応(交感神経の働きや痛みの増幅[2])を知れば、「今ドキドキしているのは体が頑張っている証拠だ」と客観視できるようになります。
  • 日頃からメンタルケア
    セロトニンを増やす食事や運動、腸内環境ケアなどで不安に強い心身作りを心がけましょう[5,6,7,8]。心の土台が安定すれば、いざ歯医者さんに行くときも落ち着いて臨みやすくなります。
  • その場で使える対処法
    深呼吸や音楽など、その瞬間の不安を紛らわせるテクニックを持っておくと安心です[1,9]。自分に合った方法を見つけてみましょう。
  • 遠慮なく相談する
    歯科医療者は不安を持つ患者さんに慣れており、対応法も心得ています。恥ずかしがらずに不安を伝え、コントロール感を高める工夫[3]や場合によっては鎮静法も取り入れ、無理せず治療を受けることが大切です。

誰だって苦手なものはあります。大切なのは「怖いけど、こうすれば大丈夫かも知れない」という引き出しを増やしていくことです。科学的に裏付けられた対策を試しつつ、少しずつ歯科治療への不安と向き合ってみませんか?きっとあなたの歯と心の健康にプラスになるはずです。怖さを乗り越え、笑顔で健やかな歯を保ちましょう。

参考文献

  1. Bhandary R, Reddy S, Gujjari A, Malnad P. Breathing out dental fear: A feasibility crossover study on the effectiveness of diaphragmatic breathing in children sitting on the dentist’s chair. J Int Soc Prev Community Dent. 2022;12(6):659–665. PMID: 36420676; PMCID: PMC9790220.
  2. Ebenezar A, Kandasamy S, Dheeptha R, Suresh P, Deivanayagi M, Raja VB. Management strategies for adult patients with dental anxiety in the dental clinic: a systematic review. J Int Soc Prev Community Dent. 2022;12(6):698–706. PMID: 36472688; PMCID: PMC9796536.
  3. Heikkilä E, Rautava J, Niskanen L, Raustia A, Taanila A, Pesonen P, et al. Autonomic Nervous System Activity and Dental Anxiety in the Northern Finland Birth Cohort (NFBC1966) Population. Int J Environ Res Public Health. 2023;20(11):6053. PMID: 37297983; PMCID: PMC10333379.
  4. Finch LE, Tomiyama AJ. Mood, food, and obesity. Curr Obes Rep. 2015;4(1):6–11. PMID: 25750732; PMCID: PMC4150387.
  5. Rached F, Rached T, Alqutub A, Correa R, Park Y. Nutrition and behavioral health disorders: depression and anxiety. Clin Nutr Exp. 2021;36:7–22. PMID: 34568677; PMCID: PMC8453603.
  6. Singh A, Kumar S, Aggarwal A, Kumar R. Exercise for mental well-being: Exploring neurobiological advances and intervention effects in depression. Life (Basel). 2023;13(7):1505. PMID: 37510377; PMCID: PMC10328503.
  7. Zavala GA, Delgado AH, de la Rosa LA, et al. The Role of Gut Microbiota in Anxiety, Depression, and Other Mental Disorders as Well as the Protective Effects of Dietary Components. Nutrients. 2023;15(13):2851. PMID: 37445752; PMCID: PMC10384867.
  8. Guan S, Li Y, Li K, et al. Gut Microbiota in Anxiety and Depression: Unveiling the Relationships and Management Options. Front Psychiatry. 2023;14:1149079. PMID: 37198173; PMCID: PMC10146621.
  9. Gordon D, Heimberg RG, Tellez M, Ismail AI. Strategies to manage patients with dental anxiety and dental phobia: literature review. Clin Cosmet Investig Dent. 2013;5:35–50. PMID: 24470723; PMCID: PMC4790493.