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睡眠/ブラキシズム

院長のとっておきの話 その30 その歯ぎしり、原因は睡眠中の「呼吸停止」かも?睡眠時無呼吸症候群の治療が歯ぎしりを減らすという科学的根拠

朝起きると、なんだか顎がだるい、痛い。あるいは、ご家族から「夜中にギリギリとすごい音がしていたよ」と歯ぎしりを指摘された経験はありませんか?

多くの方は、歯ぎしりを単なる「癖」や「日中のストレス」の表れだと考えがちです。しかし、もしその根本原因がまったく別の場所、つまり睡眠中のあなたの「呼吸」にあるとしたらどうでしょう?

この記事では、歯ぎしりと「閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)」という睡眠障害の驚くべき関係性を明らかにした、最新の研究結果を深く掘り下げていきます。長年の悩みの本当の原因は、口の中だけではないのかもしれません。

1. 驚きの事実:歯ぎしりをする人の3人に1人は「睡眠時無呼吸症候群」かもしれない

まず、本記事を理解する上で鍵となる2つの専門用語を、簡単に解説します。

  • 睡眠時歯ぎしり(Sleep Bruxism, SB): 睡眠中に無意識に生じる、歯の食いしばりやこすり合わせといった、顎の筋肉の活動のことです。

  • 閉塞性睡眠時無呼吸症候群(Obstructive Sleep Apnea, OSA): 睡眠中に喉の奥(上気道)が塞がれることで呼吸が繰り返し止まり(無呼吸)、その結果として断続的な低酸素状態、脳の覚醒反応、そして睡眠の分断化を引き起こす、非常に一般的な睡眠障害です。

この2つは一見すると無関係に思えますが、ある研究報告によると、「睡眠時無呼吸症候群(OSA)と診断された患者さんの33%から50%が、睡眠時歯ぎしり(SB)も併発している」ことが示されています。

これは衝撃的な数字です。歯ぎしりに悩む方々のかなりの割合に、治療が必要な呼吸の問題が隠れている可能性を示唆しています。つまり、歯ぎしりは単なる口の問題ではなく、全身に関わる睡眠障害の重要なサインかもしれないのです。

2. 根本治療への道:呼吸を楽にすると、歯ぎしりが減った

もし歯ぎしりの原因が呼吸にあるのなら、呼吸を治療すれば歯ぎしりも改善するのでしょうか?

今回ご紹介する研究では、まさにその点を検証しました。研究者たちは、OSAの代表的な治療法である以下の2つが、歯ぎしりに対しても効果を持つかを調査したのです。

  • CPAP(シーパップ:経鼻的持続陽圧呼吸療法): 鼻のマスクから空気を送り込み、気道を物理的に広げて呼吸を助ける医療機器。
  • MAD(マッド:下顎前方移動装置): 下顎を前方に少し移動させることで気道を確保する、歯科医院で製作するマウスピース型の装置。

ここで重要なのは、これらの治療法と、一般的な歯ぎしり治療で用いられるマウスピース(ナイトガード)との違いです。ナイトガードは歯が削れるのを防ぐ対症療法的な(palliative)装置ですが、CPAPとMADは歯ぎしりを引き起こす根本的な生理現象、つまり呼吸イベントそのものに介入する治療的な(therapeutic)アプローチです。

そして、この研究から極めて重要な結論が得られました。

「CPAPとMAD、どちらの治療法でも歯ぎしりの回数が有意に減少した」のです。

これは、呼吸の問題を解決することが、結果的に歯ぎしりという筋肉の活動そのものを鎮静化させることを示しています。この研究の最もインパクトのある発見と言えるでしょう。

3. 歯科で作る装置が医療機器と同等の効果?治療法の驚くべき比較結果

さらに研究チームは、CPAPとMADの効果を比較し、非常に興味深く、臨床的に重要な事実を突き止めました。

まず、専門的な指標を簡単に説明します。呼吸状態は「無呼吸・低呼吸指数:AHI(1時間あたりの無呼吸・低呼吸の回数)」で、歯ぎしりの状態は「歯ぎしりイベント指数:BEI(1時間あたりの歯ぎしりの回数)」で評価されました。

比較の結果は以下の通りです。

  • 呼吸の改善効果: 呼吸状態の改善(AHIの減少)においては、予想通りCPAPの方がMADよりも効果的でした。
  • 歯ぎしりの改善効果: しかし、歯ぎしりの改善(BEIの減少)においては、驚くべき結果が出ました。初期の直接比較では、MADの方がCPAPよりも歯ぎしりを減らす効果が高いというデータが示されたのです。さらに、他の要因(年齢や重症度など)を統計的に調整した最終的な解析でも、CPAPとMADの間に有意な差はない、つまり同等の効果があると結論付けられました。

これは、この研究における最も臨床的に重要な発見と言えるでしょう。呼吸障害の治療における「ゴールドスタンダード」である医療機器(CPAP)が、より侵襲性の低い歯科装置(MAD)と歯ぎしり改善効果において、少なくとも同等だったのです。これは、歯ぎしりに悩む多くの患者さんにとって、治療の選択肢が大きく広がることを意味します。

4. 歯ぎしりの真犯人?鍵は「酸素不足」という警報にあり

なぜ、呼吸を安定させることが歯ぎしりを減らすのでしょうか?そのメカニズムを解き明かす鍵は「低酸素(hypoxia)」にあります。

歯ぎしりを、体が発する一種の「警報システム」と考えてみてください。無呼吸によって体内の酸素が不足すると、脳は生命の危険を察知し、体を強制的に覚醒させて呼吸を再開させようとします。その強力な覚醒反応の一つとして、顎の筋肉を無意識に激しく動かし、歯ぎしりを引き起こしている可能性があるのです。

CPAPやMADで気道を確保し、睡眠中の呼吸を安定させることは、体内の酸素レベルを正常に保つことに繋がります。つまり、脳が危険を感じて「警報システム」を作動させる必要がなくなるのです。酸素状態が改善されることで、結果として歯ぎしりを引き起こす脳の過剰な活動が抑制される。これが、OSAの治療が歯ぎしりに効くという現象の背景にある、最も有力な仮説です。

まとめ:あなたの歯ぎしり、一度見直してみませんか?

今回の研究結果は、私たちに非常に重要なメッセージを伝えています。

  • 歯ぎしりと睡眠時無呼吸症候群(OSA)には、密接な関係があります。
  • OSAの根本治療(CPAPやMAD)は、呼吸だけでなく歯ぎしりも大幅に改善させます。
  • 特に、歯科で作る下顎前方移動装置(MAD)は、歯ぎしりの改善において医療機器のCPAPと少なくとも同等の効果を示しました。
  • その背景には、呼吸の安定による「酸素不足の解消」が、脳の警報システムを鎮めることで関わっている可能性が高いのです。

この事実は、「歯ぎしりは、単に歯を守るためのマウスピース治療だけでは不十分な場合があり、その背後には睡眠時無呼吸症候群という、より大きな問題が隠れている可能性がある」ということを示しています。

もしあなたが長年、原因不明の歯ぎしりや、朝の顎の疲れに悩んでいるなら、本当に治療すべきは「歯」だけでしょうか。それとも、「夜間の呼吸」も一緒に見直す時が来たのかもしれません。

【動画で知りたい方はこちら↓】(一部読み方がおかしい部分がありますが内容は正確です)

引用)

Martynowicz H, Wieczorek T, Macek P, Wojakowska A, Poręba R, Gać P, Mazur G, Skomro R, Smardz J, Więckiewicz M. The effect of continuous positive airway pressure and mandibular advancement device on sleep bruxism intensity in obstructive sleep apnea patients. Chron Respir Dis. 2022 Jan-Dec;19:14799731211052301. doi: 10.1177/14799731211052301. PMID: 35512250; PMCID: PMC9081718.

院長紹介

院長

Tatsuya Aoyama

皆さま、こんにちは。私たちの歯科医院では、患者さま一人ひとりに寄り添い、最適な治療を提供することを目指しています。
精密な技術と設備を活用し、痛みの少ない治療を心掛けています。また、審美治療やインプラント、メインテナンス、訪問診療、抗加齢医学的栄養療法など、幅広いニーズに対応できる専門的なケアを提供しております。皆さまの笑顔を守り、健康的で美しい歯を維持するお手伝いをさせていただきます。お気軽にご相談ください。

略歴

H6年3月
宮崎県立延岡高校卒業
H12年4月
国立徳島大学 歯学部歯学科卒業
H12年5月
歯科医師免許証取得
H12-15年
インプラントセンター、予防歯科医院など3件で勤務
H15年7月
瑞の木会 ローズタウン歯科入社
H22年2月
ローズタウン歯科クリニック 継承
H31年4月
医療法人 地天泰 理事長 就任

所属

  • 日本歯周病学会(歯周病)
  • 日本口腔インプラント学会(インプラント)
  • 日本顕微鏡歯科学会(マイクロスコープ)
  • International Team for Implantology(ITI) member(インプラント)
  • 日本抗加齢医学会(アンチエイジング)
  • 日本分子状水素医学生物学会(アンチエイジング)
  • 日本アライナー矯正歯科研究会(マウスピース矯正)
  • Er-YAGレーザー臨床研究会(レーザー)
  • 日本口腔検査学会
  • 浦安市歯科医師会
  • 千葉県歯科医師会
  • 日本歯科医師会
  • 学校歯科医会

資格

歯科医師、日本抗加齢医学会専門医、ITIセクションジャパンインプラントスペシャリスト認定医