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インプラントの寿命はどのくらい?
以下では、インプラントの寿命や長持ちさせるためのケア方法、治療のメリット・デメリット、治療後に起こりうるトラブルについて、一般の方向けにわかりやすくまとめました。歯科医院を探している方や、忙しくてなかなか受診できていない方、また来院を迷っている潜在的な患者さんにも役立つ情報を網羅的に紹介しています。ぜひ参考にしてください。
10年後で90〜95%の高い残存率
インプラントの長期的な生存率(残存率)は数多くの研究で報告されています。ここ10年の文献では10年後でも90〜95%を維持しているとする報告が多く、場合によっては20年以上機能し続けるケースも珍しくありません(1)(2)(3)。
とりわけ2010年代以降に行われたシステマティックレビューやメタ分析でも、10年経過時の平均生存率が90%を超えるという結果が繰り返し示されています(1)(2)。さらに高齢者を対象とした研究においても、10年以上にわたり98%近いインプラントが機能し続けたという報告があり(3)、適切なメンテナンスによって非常に良好な長期予後が期待できる治療法といえます。
寿命を左右する要因
- セルフケアの質: 毎日の歯磨き、歯間ブラシ・フロスなどでインプラント周囲を清潔に保つことが重要です(4)。
- 定期的な歯科メンテナンス: 専門的なクリーニングやレントゲン検査で早期のトラブルを発見・対処することで、インプラントの寿命を延ばせます(4)(5)。
- 全身状態・生活習慣: 喫煙や糖尿病、骨粗鬆症など全身状態が影響を及ぼすことも知られています。血糖コントロールや禁煙などでリスクを下げられます(6)(7)。
このように、インプラント自体は非常に高い耐久性を持つ一方で、患者さん自身のケアの質と習慣が寿命を大きく左右するのが特徴です。うまく付き合えば10年以上、20年、30年と使えるケースも期待できます。
インプラントを長持ちさせるためのケア方法
1. 毎日の丁寧なブラッシングと補助用具の活用
インプラント周囲にもプラーク(歯垢)は溜まります。天然歯と同様に、不十分な清掃は歯肉炎や周囲炎のリスクを高めます(4)(5)。
- 柔らかめの歯ブラシで歯ぐきとの境目を意識して磨きましょう。
- 歯間ブラシやデンタルフロス、を用いて、インプラントの根元や隣接面の汚れもしっかり除去することが大切です。
2. 定期的な歯科検診とプロフェッショナルケア
日々のセルフケアでは落としきれない歯石やバイオフィルムは、歯科医院での専門的なクリーニングが必要です(4)(5)。
- 3〜6ヶ月に一度の定期検診を受けることで、インプラント周囲炎などの早期発見・治療が可能になります(5)。
- レントゲン撮影で骨の状態を確認し、わずかな骨吸収の進行も見逃さないようにしましょう。
3. 生活習慣の見直し
- 喫煙は歯周病やインプラント周囲炎を進行させるリスクファクターです(6)。なるべく禁煙や節煙に努めましょう。
- 糖尿病など全身疾患をお持ちの方は、医科との連携も含めて血糖コントロールを改善することで、インプラントの予後が向上する可能性があります(7)。
- 過度な力がかかる歯ぎしり(ブラキシズム)やはインプラントに悪影響を与える恐れがあります。ナイトガード(就寝時のマウスピース)の使用が推奨されています。
インプラント治療のメリット
1. 長期的な成功率が高い
上述の通り、インプラントは10年以降でも90〜95%以上という高水準の生存率を保ちやすい治療法です(1)(2)(3)。むし歯にならない人工歯根である点は、長期的な安定に寄与します。
2. 隣の歯を削らない
ブリッジ治療では欠損部の両隣の歯を削って支台にしますが、インプラントは顎骨に直接人工歯根を埋入するため、周囲の歯を犠牲にしません。
- 自然な噛み合わせを維持できるほか、隣接歯のむし歯リスクも低減します(8)。
3. 顎の骨の痩せを抑える
歯を失った部位は骨に噛む力が伝わらなくなるため、顎の骨が徐々に痩せる(吸収する)傾向にあります。
- インプラントを入れることで噛む力が骨に伝わり、骨の吸収を緩やかにできるとの報告があります(8)(9)。
- 見た目や入れ歯の安定性にも関わるため、顎骨の健康維持という観点でもメリットが大きいです。
4. 自然な見た目と機能
インプラント上部構造(被せ物)は周囲の歯と色調や形を合わせられるため、見た目が自然で審美的です。
- しっかり固定されるので「外れる心配」が少なく、違和感も少ないのが特徴。
- 強い咬合力を得られるため、食事や発音にも良い影響があります(10)。
5. 生活の質(QOL)の向上
入れ歯に比べて異物感やズレが少なく、より自分の歯に近い感覚で過ごせるため、心理的にも大きな満足感が得られるケースが多いです(10)。
- 食事や会話、笑顔に自信が持てるようになり、QOLの向上を実感する方も多く見られます(10)。
インプラント治療のデメリット
1. 外科手術が必要
インプラント埋入は外科的処置です。局所麻酔で短時間で終わるとはいえ、術後の腫れや痛みなどが数日続く場合もあります(2)(11)。
- 感染や神経麻痺などのリスクは低いものの、ゼロではない点は理解が必要です。
- 骨の状態や全身状態によっては、骨造成など追加手術が必要になることもあります。
2. 治療期間が長い
ブリッジなどと比べると、インプラントは治療完了までに数ヶ月かかるのが一般的です(11)。
- インプラント体を埋め込んだ後、骨と結合(オッセオインテグレーション)させるために2〜6ヶ月程度の治癒期間が必要な場合があります。
3. 保険適用外のことが多く高額
ほとんどのインプラント治療は保険適用外であり、1本あたり数十万円の自己負担になります(12)。
- 初期費用はかかりますが、長い目でみると長期耐久性や周囲歯の保全を考慮して選ぶ方も多いです(12)。
- 治療計画と費用については、事前に歯科医院で詳しく相談しておきましょう。
4. 全身状態によっては適応が難しい
重度の糖尿病や骨粗鬆症、喫煙習慣などによっては、インプラントの成功率が下がる、もしくは治療自体が難しい場合があります(6)(7)。
- 顎骨の形状や残存量に問題がある場合も骨造成が必要になり、負担や費用、治療期間が増えることがあります。
インプラント治療後に起こりうる主なトラブル
1. インプラント周囲炎
もっとも注意すべきトラブルが、インプラントの周囲組織に起こる炎症(インプラント周囲炎)です。
- プラーク中の細菌感染により、歯肉の炎症(周囲粘膜炎)が進行し、骨が吸収されるとインプラントが動揺・脱落する恐れもあります(4)(5)。
- 研究によっては、5〜10年の経過で10〜20%の患者に周囲炎がみられるとも報告されています(5)(7)。
- 定期メンテナンスとセルフケアを徹底することで、周囲炎の予防や早期対処が可能になります。
2. 素材の経年劣化
インプラント体は主にチタンが使われることが多く、非常に錆びにくく頑丈です。
- とはいえ、長年の使用で微小な摩耗や金属腐食が生じ、周囲組織に微粒子が放出されることもごく稀に報告されています(13)。
- セラミックの被せ物(クラウン・ブリッジ)は10〜15年程度で摩耗や変色が起こる場合があり、適時交換が必要になることがあります。
3. 再治療・交換の必要性
- 上部構造(被せ物)の交換: 歯と同様、被せ物は消耗品です。合着剤の劣化やセラミックの破損などで交換が必要になることがあります(10)(12)。
- インプラント体の再埋入: 周囲炎や破折などでインプラントが機能しなくなった場合、新たなインプラントに入れ替えることもあります。ただし骨が足りないなどの理由で、他の治療法(ブリッジや入れ歯など)を選択する場合もあります(2)(3)。
4. MRI検査への影響
「口の中に金属があるとMRIを受けられないのでは?」と心配される方も多いですが、チタンやジルコニア製の歯科インプラントがMRI検査を大きく妨げることはほとんどありません(14)。
- ただし、画像上にわずかな乱れ(アーチファクト)が生じる可能性はあります(14)。撮影目的や部位によっては検査医が配慮を行う場合がありますが、大半のケースで安全性に問題はないとされています。
まとめ
インプラントは適切なケアと定期メンテナンスを行うことで、10年以上にわたり高い成功率で機能し続ける素晴らしい治療法です。隣の歯を削らず、顎骨の維持にも寄与し、自然な見た目としっかりした噛み心地を得られるというメリットは非常に大きいでしょう。一方で、費用や治療期間がかかり、外科手術に伴うリスクやデメリットも存在します。
しかし、正しく理解し、きちんとメンテナンスを続けることで、そのメリットを最大限に活かせるのがインプラントです。歯を失ってお困りの方や、入れ歯に不便を感じている方は、ぜひ歯科医院で相談してみてください。インプラントがご自身のライフスタイルやお口の状態に合うかどうか、一度専門家のアドバイスを受けることで、将来の選択肢が広がるでしょう。
インプラントは「一度入れたら終わり」ではなく、治療後のケアや定期メンテナンスがとても重要です。長期的な視野を持ち、歯科医院で適切なサポートを受けながら、末長くインプラントを活用していきましょう。ご自身の状態やライフスタイルを考慮して、納得のいく治療法を選択する際の参考にしていただければ幸いです。
参考文献
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