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歯科インプラント・歯周病治療とオメガ3脂肪酸:周術期栄養サポートの効果
歯科治療の世界でも、「食べ物」や「栄養」が治療結果に影響を与えることが注目されています。その中で オメガ3系多価不飽和脂肪酸(PUFAs) は、抗炎症作用や細胞の老化抑制作用があり、歯周病治療やインプラント手術の周術期(治療前後)に役立つ可能性が示唆されています(1,2,4)。ここでは、この10年間に発表された国内外の研究をもとに、オメガ3脂肪酸が歯ぐきやインプラントの治癒に与える影響についてわかりやすく解説します。歯科医院を探している、または受診を迷っている方もぜひ参考にしてください。
オメガ3脂肪酸とは?歯ぐきに効くその理由
オメガ3脂肪酸(EPAやDHAなど)は青魚や亜麻仁油に多く含まれる良質な油です。体内で抗炎症作用を持つ物質に変化し、反対に現代人に多いオメガ6系脂肪酸(紅花油やコーン油に多い)の過剰摂取で高まりやすい炎症反応を和らげる働きがあります。歯周病は細菌感染による慢性炎症で歯ぐきや歯を支える骨(歯槽骨)を溶かす病気ですが、オメガ3の抗炎症パワーによってこの炎症を鎮め、骨の破壊を抑えることが期待できるのです(1,2,4)。また、インプラント手術でも歯ぐきや骨に小さな傷が生じますが、炎症をコントロールすることで傷の治り(創傷治癒)を促進する可能性があります。つまり、オメガ3脂肪酸は「歯ぐきの栄養ドリンク」のような存在と言えるでしょう。
歯周病治療への効果:エビデンスが示すオメガ3の力
実際の研究でも、オメガ3脂肪酸が歯周病治療に良い影響を与えるという結果が相次いでいます(1,2)。基本的な歯周病治療(スケーリングやルートプレーニングなどの歯石除去)にオメガ3サプリメントを併用すると、従来治療のみの場合と比べて歯周ポケットの深さ(PPD)がより大きく減少し、歯の付着状態(CAL)が改善したと報告されています(2,4)。近年の系統的レビュー(メタ分析)でも、対象となった研究の大半でオメガ3併用群のほうがポケット深さの有意な減少や歯の支持組織の回復が得られており(4)、これはオメガ3の抗炎症作用により、歯周組織の炎症が鎮まり治癒が進みやすくなるためと考えられます。
さらに興味深いのは、低用量アスピリンとの併用効果です。アスピリンも抗炎症作用がありますが、ある研究ではオメガ3脂肪酸と低用量アスピリンを一緒に摂ることで相乗効果が生まれ、歯周ポケット深さのさらなる減少や臨床的付着レベルの大幅な改善が得られています(3)。これは、アスピリンがオメガ3由来の抗炎症物質(レゾルビンなど)を作り出す経路を助け、炎症収束をより強力に後押しするためと考えられています。このように、高いエビデンス(RCTやメタアナリシス)からも、オメガ3脂肪酸は歯周病治療の強い味方となりうることが示されています(2,4)。
インプラント周術期の回復促進:傷の治りと骨の再生
インプラント手術後の早期回復やオッセオインテグレーション(骨とインプラントの結合)にも、オメガ3脂肪酸が良い影響を与える可能性があります。手術後の傷は、早くきれいに治るほど感染リスクが減り、結果としてインプラントも長持ちしやすくなります。オメガ3脂肪酸には炎症を抑えつつ、傷の治りをサポートする作用が期待されます。実際、歯科以外の分野ですが糖尿病性足潰瘍(治りにくい傷の代表)の患者でオメガ3を投与したところ、潰瘍の治癒が促進されたとの報告があります(5)。また、オメガ3は傷口の炎症を素早く収束させ、組織再生を促進することで、瘢痕(きずあと)を最小限にする働きも示唆されています(6)。これは歯ぐきの傷でも同様に、治癒をスムーズに進めてくれる可能性を示しています。
さらに、インプラントの土台である骨の再生にも栄養は重要です。ビタミンC・カルシウムと並んでオメガ3脂肪酸を手術前後に補給すると、骨の質が向上しインプラントと骨の結合が良好になったとの報告もあります(7)。オメガ3脂肪酸は骨を壊す細胞(破骨細胞)の暴走を防ぐ作用も持つため、歯周病で傷んだ骨の維持やインプラント周囲の骨リモデリング(作り替え)にもプラスに働くと考えられます。インプラント治療を控えている方は、手術前からオメガ3を含む食事(青魚など)を意識することで、術後のスムーズな回復につなげることができるかもしれません。
健康長寿・スローエイジングの視点:歯ぐきも体も若々しく
オメガ3脂肪酸の効果は「治療の助っ人」だけに留まりません。慢性炎症は老化を加速させる要因であり、歯周病はまさにお口の中の慢性炎症です。オメガ3の抗炎症作用で歯ぐきの健康を守ることは、全身の「炎症老化(インフラメイジング)」を防ぐ一助にもなります。実際に、血中のオメガ3脂肪酸レベルが高い人ほど細胞の寿命の指標であるテロメアが長持ちする(短くなるスピードが遅い)との研究報告があり(8)、これらの人々は慢性炎症の度合いも低く、ストレスによる心血管反応も穏やかだったとされています。簡単に言えば、オメガ3脂肪酸をしっかり摂っている人は細胞レベルで老けにくい可能性があるのです。
歯周病は中高年で罹患者が増えますが、「歯ぐきの老化」とも言えるこの病気を食い止めることは、見た目の若々しさや全身の健康長寿にもつながります。オメガ3脂肪酸は血管や脳の健康にも良い影響があることが広く知られており、お口から始めるアンチエイジングの切り札と言えるでしょう。将来にわたって自分の歯で美味しく食事を楽しむためにも、日々の食生活でオメガ3を意識する価値は大いにあります。
サプリメント利用時の注意点:重金属汚染と酸化にも気をつけよう
オメガ3脂肪酸は食事から摂るのが理想ですが、毎日青魚を食べるのは難しい…という方は魚油サプリメントを活用する手があります。ただし、市販サプリを利用する際には品質に注意が必要です。まず懸念されるのが重金属汚染。大きな魚ほど水銀などを蓄積しやすいですが、サプリ用の魚油はアンチョビやイワシなど小型の魚由来が多く、さらに製造過程で精製・ろ過されているため通常は重金属濃度は安全基準内です。とはいえ、製品ごとの重金属含有量を継続的に厳しく監視すべきだと指摘する声もあります(9)。信頼できるメーカーは自主的に検査を行い、公表している場合もあります。購入時にはそうした情報も確認すると安心です。
もう一つ見落とせないポイントが酸化(オイルの劣化)です。魚油は非常に酸化しやすく、酸化が進むと生臭いニオイや味が強くなり、有効成分が劣化してしまいます。酸化した油脂を摂ることは健康にもマイナスとなり得ます。実は、市販されている魚油サプリの品質調査では、世界の製品のおよそ20%が酸化度で基準を超えているとの報告があり、さらに別の最近の分析では調査対象の魚油サプリの約45%が酸化の兆候を示したとも伝えられています(9,10)。特にレモン味などフレーバー付き製品の方が無味のものより酸化しやすい傾向があり、注意が必要です。
このようなリスクを避けるために、酸化対策がしっかりされたサプリメントを選びましょう。具体的には、製品表示に「ビタミンE配合」や「酸化防止剤添加」などと書かれているもの、製造ロットごとに酸化度や不純物検査を実施して結果を公開しているメーカーのものがおすすめです。また、サプリは高温多湿を避けて保管し、開封後はできるだけ早めに使い切ることも大切です。品質の良いオメガ3サプリメントを正しく利用すれば、重金属や酸化の心配を最小限にしつつ、その恩恵を安心して受けることができます。
まとめ:オメガ3を味方に、歯と体の健康を守ろう
オメガ3脂肪酸は、歯周病やインプラント治療の裏方サポートとして大きな可能性を秘めています。炎症を抑えて傷の治りを良くし、さらに細胞の老化をゆるやかにする――まさに歯と体の両面から健康長寿を支えてくれる栄養素です。とはいえ、オメガ3があるからといって歯磨きや専門的な治療を怠ってよいわけではありません。あくまで基本は毎日の丁寧な歯みがきと定期的な歯科検診・クリーニングで歯周病菌の棲みにくい環境を保つこと。そのうえで、「プラスアルファ」としてオメガ3を上手に取り入れると効果的という位置づけです。
幸い、日本は魚食文化があるため、刺身や焼き魚、缶詰のサバ・イワシなどからオメガ3を摂りやすい環境です。普段の食事で魚を意識的に増やしてみたり、必要に応じて質の高いサプリメントを活用したりしてみましょう。歯ぐきの腫れや出血が気になる方、インプラント治療を控えて不安な方は、ぜひ一度歯科医院で相談してみてください。当院では、お口の中だけでなく全身の健康も見据えた歯科医療を心がけています。適切な歯周病治療やインプラント術に加え、今回ご紹介したオメガ3など栄養面のアドバイスも含めてサポートいたします。オメガ3脂肪酸を味方につけて、将来にわたって自分の歯で美味しく食事ができる健康な毎日を一緒に築いていきましょう。
参考文献
- 図子祐介, ほか. ω3脂肪酸経口摂取による歯周病抑制効果の検討. 日本歯周病学会学術大会一般演題ポスター. 2018.
- Stańdo A, et al. Omega-3 Polyunsaturated Fatty Acids as an Adjunct to Periodontal Therapy: RCT results. Nutrients. 2020;12(9):2614.
- Naqvi AZ, et al. Effects of n-3 polyunsaturated fatty acids and low-dose aspirin in periodontal therapy. J Clin Periodontol. 2014;41(2):00-00.
- Van Ravensteijn M, et al. The effect of Omega-3 supplementation on non-surgical periodontal therapy: a meta-analysis. J Clin Periodontol. 2022;49(10):1024–1037.
- Santacruz I, et al. The effect of Omega-3 fatty acids on diabetic foot ulcer healing. Wound Repair Regen. 2021;29(6):993–1005.
- Gotlieb R, et al. The role of immunonutrition (Omega-3 etc) in wound healing. Adv Wound Care (New Rochelle). 2022;11(2):68–78.
- Abdulla A, et al. Effect of vitamin C, Omega-3, and calcium supplementation on bone healing in implant patients. Open Access Maced J Med Sci. 2019;7(11):1811–1816.
- Kiecolt-Glaser JK, et al. Omega-3 supplementation and telomere length preservation. Brain Behav Immun. 2013;28:16–24.
- Takiwaki H, et al. 魚油サプリメントの安全性(重金属含有量・酸化)評価. J Oleo Sci. 2021;70(11):1541–1549.
- George E, et al. A global assessment of oxidative deterioration in commercial fish oil products. Food Sci Nutr. 2022;10(1):177–189.