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歯と全身の健康長寿をつなぐもの: 栄養の重要性

1. 栄養状態が歯・歯肉・全身へ与える影響

1-1. 歯周病と全身疾患の関係

歯周病は、歯を支える歯肉や歯槽骨(しそうこつ)に起こる慢性炎症性疾患です。最近の研究では、歯周病の進行を招くリスク因子の一つとして栄養状態の影響が注目されています[1,2]。特にビタミンCやビタミンDなどの不足が、歯周組織の回復力を下げる要因になることが示唆されています[3]。
さらに、歯周病の慢性的な炎症は血管を通じて全身に波及しやすく、心血管疾患や糖尿病との関連も明らかになってきました[4]。歯周病が重度になると血糖コントロールが難しくなり、逆に糖尿病のある方は歯周病が重症化しやすいという悪循環が報告されています[5]。
お口は体の入り口です。栄養がしっかり足りていれば、歯周組織の健康維持や免疫力強化に役立ちます。反対に不足が続くと免疫力低下により歯周病菌へ抵抗力を失い、結果として全身の炎症レベルが高まる可能性があります[6]。

1-2. 噛めることが生むメリット

高齢になっても自分の歯でしっかり噛めると、野菜やたんぱく質などさまざまな食品をバランスよく摂れるため栄養状態を良好に保ちやすいと報告されています[7]。
逆に歯を失うと、硬い食物や繊維質の豊富な食品を避ける傾向が強くなり、炭水化物中心ややわらかい食品中心の食事に偏りがちです[8]。これが長期的にはフレイル(虚弱)やサルコペニア(筋肉減少)を引き起こすリスクを高め、生活の質(QOL)を損ねる恐れがあると指摘されています[9]。
「歯は一生もの」と言われますが、歯があることで正しい咀嚼ができ、それが栄養バランスの確保につながります。もし歯周病などで歯を失ってしまえば、義歯で代用する必要がありますが、その前に歯周病予防やメンテナンスをきちんと行うことが大切です。

2. 食物繊維とレジスタントスターチでスローエイジング?

2-1. 食物繊維で口腔内と全身の炎症を抑える

野菜や果物、豆類、全粒穀物などに豊富に含まれる食物繊維は、腸内細菌を整え、血糖値やコレステロールを適正に保つだけではありません。近年の研究では、食物繊維の摂取量が多い人ほど、肥満や2型糖尿病といった生活習慣病だけでなく、総死亡リスクや心血管疾患リスクが低いことが示唆されています[10]。
特に歯周病のような慢性炎症性疾患に対しては、食物繊維が腸内で発酵して産生される短鎖脂肪酸が体内の炎症反応を抑え、免疫バランスを整える可能性が研究で示唆されています[11]。歯周病は局所的な炎症ですが、腸内環境の悪化で全身の炎症レベルが上昇すると悪化しやすいと考えられます。したがって、食物繊維が豊富な食事は「歯周病悪化予防」にもつながると期待されています[12]。

2-2. レジスタントスターチの働き

食物繊維の一種として注目されているのがレジスタントスターチです。消化されにくいデンプンのことで、体内では食物繊維に近い働きをします[13]。冷やしたご飯やパスタ、豆類、未熟バナナなどに多く含まれ、消化管でゆっくり発酵しながら短鎖脂肪酸を作り出します[14]。
特徴的なのは、いったん加熱した後に冷ますことでレジスタントスターチの量が増える点です。たとえば、ご飯を冷蔵してから再加熱すると、炊きたてに比べてレジスタントスターチが2倍以上に増加し、食後血糖値の上昇を抑制した例も報告されています[15]。血糖値の急上昇は体にとって負担が大きく、老化物質(AGEs)の生成を促します。血糖コントロールを改善することは、歯周病リスクや動脈硬化リスクの低減にも関係してきます[16]。
つまり、レジスタントスターチを上手に摂ることで、腸内環境を整えながら血糖値の乱高下を抑え、結果的に全身の炎症レベルを下げてスローエイジングをサポートする可能性が期待できるのです。

3. 加工食品・超加工食品の問題点

3-1. 超加工食品は老化を早める?

現代は忙しい生活の中で、ファストフードやお弁当、インスタント食品など「加工度の高い食品」を利用する機会が増えています。特に「超加工食品(Ultra-Processed Foods, UPFs)」は、美味しく便利な反面、エネルギーが高くビタミンやミネラル、食物繊維が不足しがちです[17]。
近年の国際研究では、超加工食品の摂取が多い人ほど死亡リスクが高い、あるいは心血管疾患や肥満のリスクが高まるという結果が相次いで報告されています[18,19]。さらに、細胞の寿命を決めるテロメアの短縮とも関連がある可能性があり、摂取量が多いほど生物学的老化が進むという指摘もあります[20]。

3-2. 超加工食品が体に及ぼすメカニズム

超加工食品の問題点を整理すると、以下のような点が考えられています。

  • ビタミン・ミネラル・食物繊維が少ない
  • 糖質や脂質、添加物が過剰になりやすい
  • AGEs(終末糖化産物)生成を促進する恐れ
  • 腸内細菌叢を乱す可能性

これらが結果として慢性炎症(サイレント炎症)を助長し、歯周病やメタボリックシンドロームなど生活習慣病につながっていくと考えられます[21,22]。歯周病も炎症の一種なので、超加工食品を頻繁に摂る食習慣はお口の健康にも悪影響を及ぼしかねません。

3-3. 「ほどほどに活用」で健康長寿へ

とはいえ、忙しい現代社会で超加工食品をまったく排除するのは難しい場合も多いでしょう。大切なのは、「ほどほどに活用しつつ、食生活のメインはできるだけ加工度の低い食品で構成する」ことです[23]。
例えばコンビニ食でも、サラダやゆで卵、納豆、無糖ヨーグルトなど素材に近い商品
を意識して組み合わせれば、栄養バランスは格段に良くなります[24]。超加工食品を選ばざるを得ないときも、野菜を合わせる、あるいは食べる順番を工夫することで血糖値の急上昇を抑制するなど、「できる対策」を少しずつ実践してみましょう。

4. 歯科受診で得られるメリットと今すぐ始められること

4-1. 定期検診で早期発見・早期対応

「歯が痛くなってから歯医者に行く」という方も多いですが、実は痛みがなくても進行している歯周病や虫歯は珍しくありません[25]。特に歯周病は“サイレントディジーズ”とも呼ばれ、気づいたときにはかなり進行していることもあります。
定期的な歯科受診では、そうした初期症状のチェックに加え、歯石除去やケアのアドバイスを受けられます。栄養カウンセリングを行う歯科医院も増えており、生活習慣や食事内容を見直す絶好の機会です[26]。

4-2. 日常のセルフケア×適度な栄養バランス

お口の健康を守るには、歯ブラシやデンタルフロス、マウスウォッシュなどのセルフケアが土台となりますが、それだけでは不十分です。適度な栄養バランスを心がけ、ビタミンやミネラル、たんぱく質、食物繊維をきちんと摂取する習慣づくりが欠かせません[27]。
忙しい方こそ、コンビニのサラダチキンや豆腐、海藻サラダなどを組み合わせ、食物繊維とたんぱく質をしっかり補給するだけでも体は変わります。レジスタントスターチを増やすために、一度冷ましたご飯を取り入れるのも良いでしょう[28]。
こうした日頃のちょっとした工夫が歯周病リスクを下げ、将来的には歯を失いにくくし、全身の健康長寿に大きく寄与すると考えられています[29]。

5. まとめ

  • 栄養状態と歯の健康は相互に影響し合う。ビタミンやミネラル、食物繊維が十分であれば歯周病リスクを下げ、全身の炎症も抑えられる可能性が高い。
  • 食物繊維やレジスタントスターチを日常的に摂取することで、腸内環境が整い、血糖値コントロールが改善し、慢性炎症を抑制しやすくなる。
  • 超加工食品の過剰摂取は、テロメア短縮や慢性炎症を助長し、老化を早める可能性がある。便利さと引き換えに“見えない代償”があることを意識しよう。
  • 定期的な歯科受診で早期発見とケアを行い、セルフケアとバランスのよい食生活を組み合わせることで、お口の健康と全身の健康を同時に守る。

「最近、歯医者さんに行っていないな…」「忙しくてつい食事が偏りがち…」と思う方は、まずは歯科医院での検診予約を検討しませんか? 痛みが出る前に診てもらうのが、歯を守る最善の策です。また、栄養バランスを見直すことで、5年後・10年後の自分への最高のプレゼントになるはずです。ぜひ一度、ご自身のお口と全身の健康を見つめ直すきっかけにしてみてください。

参考文献

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  2. Grant WB, Boucher BJ. Are Hill’s criteria for causality satisfied for vitamin D and periodontal disease? Dermatoendocrinol. 2019;11(1):e1442166.
  3. LeSage GD, de Molon RS, Molina G, Masi LN, Casati MZ, Nociti FH Jr. The role of vitamin D in periodontal health and disease. J Appl Oral Sci. 2021;29:e20201250.
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