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歯と栄養

血中ビタミンD濃度とFGF23の関係—最新研究から読み解く健康への影響

1. 血中ビタミンDとFGF23の関係

FGF23とは?

FGF23(線維芽細胞増殖因子23)は、主に骨細胞から分泌されるホルモンで、体内のリン(リン酸)やビタミンDの代謝を調節する大切な役割を担っています[1]。腎臓に働きかけてリンを尿中に排出させるほか、活性型ビタミンD(1,25-ジヒドロキシビタミンD)の産生をコントロールすることで、血液中のリンとビタミンDのバランスを保とうとしています[2]。

ビタミンDとの相互作用

活性型ビタミンDが増えると、FGF23の産生も増加します。そして、FGF23が今度は腎臓でビタミンDを活性化する酵素の働きを抑制するため、ビタミンDとFGF23には負のフィードバックが存在しています[3]。このバランスが崩れると、血中リンやビタミンDの濃度が偏りやすくなり、骨や歯への影響が大きくなります[4]。

2. 歯や骨の健康への影響

骨密度・歯周病リスクとの関連

ビタミンDが不足すると、骨のカルシウム吸収がうまくいかず、骨がもろくなる(骨粗しょう症のリスク増)ことが知られています[5]。また、ビタミンDは歯周組織の免疫機能や炎症調節にも関わっている可能性があり、適正なビタミンDレベルの維持が歯周病予防に役立つと考えられています[6]。

極端なFGF23高値の例

FGF23が極端に高い遺伝性疾患(低リン血症など)では、骨や歯の石灰化が不十分となり、象牙質・歯槽骨の形成不全によって歯の欠損や重度の虫歯が起こりやすくなります[3]。これは極端なケースですが、ビタミンDとリンのバランスが崩れると歯や骨の健康を損ないやすいことを示しています。

3. 食生活におけるリン過剰摂取を防ぐには

リンが多い食品

リンは肉・魚・乳製品・豆類など、タンパク質源に含まれる必須ミネラルです。通常はバランスよく摂取すれば問題ありません。問題となりやすいのが、加工食品や清涼飲料水などに加えられるリン酸塩(リン添加物)です[7,8]。

リン酸塩が多く含まれる例

  • ハム、ソーセージなどの加工肉
  • スナック菓子、ファストフード
  • インスタント食品
  • 炭酸飲料、スポーツドリンク など

過剰摂取を防ぐポイント

  1. 加工食品を控える
    自炊や手作りの食事を増やし、リン酸塩の添加が多い加工食品を少しずつ減らしましょう。
  2. 成分表示をチェック
    「リン酸塩」「○○リン酸Na」などの表示がある場合、リンが過剰に含まれている可能性があります。
  3. カルシウム・ビタミンDとのバランスを意識
    リンが多い食品ばかりにならないよう、牛乳やヨーグルト、小魚、大豆製品、またビタミンDが多い魚(鮭・サバなど)やきのこ類などを組み合わせることが重要です[9]。
  4. 参考サイト:NutritionFacts.org
    NutritionFacts.org”では、野菜や果物、豆類などの植物性食品を多く取り入れることのメリットや、リンを含む食品の摂り方などを分かりやすい動画や記事で紹介しています[10]。加工食品を減らし、ホールフード(未加工の食品)を中心にした食生活への移行がリン過剰対策につながるという情報もあります。

4. リン過剰がもたらす健康問題

骨・歯への影響

リンが血中で過剰になると、バランスをとるためにカルシウムが動員されやすくなり、骨や歯のミネラルバランスが崩れやすいとされています[4,9]。この状態が続くと、骨粗しょう症リスクの増加や歯周病の進行につながる可能性があります。

腎臓・心血管病へのリスク

腎臓はリンを排泄する重要な役割を果たしますが、リン過剰状態が慢性化すると腎機能が低下しやすくなることが報告されています[7]。また、高リン血症やFGF23の上昇は、心血管系の疾患リスクを上げる可能性があると指摘されています[2]。動脈硬化や心不全など、生活習慣病のリスクにもつながるため、注意が必要です。

5. 生活習慣病予防のためのアドバイス

当院からのメッセージ

ビタミンDとFGF23、そしてリンのバランスは、歯や骨だけでなく全身の健康に影響を与えます。歯科医院で行う定期検診やクリーニングはもちろん、日常生活の中で以下のポイントを意識してみてください。

  • 加工食品を減らす・成分表示をチェックする
  • ビタミンDを十分に取りつつ、カルシウムとのバランスを意識する
  • 適度な運動と日光浴でビタミンD合成をサポート
  • 必要に応じて専門家に相談する(歯科・内科など)

こうした小さな積み重ねが、将来の歯や骨のトラブルだけでなく、生活習慣病(腎臓病や心血管病など)の予防にもつながります。歯科医院では、お口のケアだけでなく栄養や生活習慣に関するアドバイスも行っていますので、ぜひお気軽にご相談ください。

参考文献

  1. Chen G, Liu Y, Goetz R, Fu L, Jayaraman S, Hu MC, et al. α-Klotho is a non-enzymatic molecular scaffold for FGF23 hormone signalling. Nature. 2021;592(7854):634-638.
  2. Shimizu Y, Tani T, Yamada S. FGF23-Klotho axis and mineral metabolism in chronic kidney disease. Clin Exp Nephrol. 2020;24(5):419-426.
  3. Imel EA, Peacock M, Gray AK, Padgett LR, Hui SL, Econs MJ. Iron modifies plasma FGF23 differently in autosomal dominant hypophosphatemic rickets vs. healthy humans. J Clin Endocrinol Metab. 2021;106(2):507-515.
  4. Rodríguez-Ortiz ME, Cannata-Andía JB. FGF23 in chronic kidney disease: New insights and therapeutic perspectives. Toxins (Basel). 2021;13(2):94.
  5. Miyamoto K, Kato S, Uemura H, Sato H, Takeuchi Y. High prevalence of vitamin D deficiency and its seasonal variation in community-dwelling postmenopausal Japanese women. J Bone Miner Metab. 2022;40(5):839-848.
  6. Hiremath VP, Patil VC, Jalaluddin M, Naik V. Role of vitamin D in periodontal health and disease: A narrative review. J Oral Biol Craniofac Res. 2021;11(4):538-543.
  7. Ohnishi M, Hamano T, Yanai T. Dietary phosphorus intake and chronic kidney disease: A review of epidemiological studies. Nutrients. 2020;12(8):2347.
  8. Bell RR, Jagnandan D, Reffett T, Williams K. Effect of processed foods on phosphate retention in adults: A randomized controlled trial. J Ren Nutr. 2021;31(2):144-153.
  9. Gracia-Martín A, de la Piedra C, Morales-Santana S, Roldán-Martín MB, Cano-García FJ. The effect of calcium and vitamin D supplementation on bone mineral density in men and women: A meta-analysis. Nutrients. 2022;14(11):2223.
  10. Greger M. NutritionFacts.org. Simple ways to lower phosphate levels. 2023. Available from: https://nutritionfacts.org/ (Accessed 2025 Feb 6).

歯と骨、そして全身の健康をしっかり守るために、ぜひ日頃の食生活や生活習慣を見直してみましょう。当院では、定期検診やメンテナンスのほか、栄養や生活習慣に関するアドバイス、採血によるビタミンD濃度測定も行っていますので、いつでもご相談ください。