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アンチエイジングブラキシズム(歯ぎしり、食いしばり)予防歯科歯と栄養

歯ぎしり・食いしばりの悪影響とは?

1.はじめに

日常生活の中で無意識に行ってしまう「歯ぎしり」や「食いしばり」は、実は多くの人が経験している習癖です。起床時の食いしばりは成人の約20~30%、睡眠時の歯ぎしりは約8~10%にみられるという報告もあります(1)。こうした行為は一見ささいに思えますが、放置すると歯や顎(あご)、さらには全身への負担が蓄積し、歯の摩耗や顎関節症、頭痛、肩こりなどのトラブルを引き起こしやすくなります。

本記事では、歯ぎしり・食いしばりの悪影響やその背景となるTCH(歯列接触癖)、噛む力のコントロール法、栄養素や自律神経との関係について解説します。歯科医院で受けられる治療や今すぐできるセルフケアも紹介しますので、忙しくて受診を迷っている方や歯科医院を探している方は、ぜひ最後までご覧ください。

2.歯ぎしり・食いしばりを放置することによる主な弊害

2-1.歯の摩耗・破折リスク

強い力で歯をすり合わせると、エナメル質がすり減りやすくなり、知覚過敏や虫歯リスクの上昇につながります(2)。長期的には詰め物や被せ物の破損、さらには歯が割れる(破折)リスクも高まります。特に就寝中の歯ぎしりは自覚しにくいため、気づいたときには大きなダメージが生じているケースも少なくありません。

2-2.顎関節症(TMJ障害)の発症・悪化

歯ぎしりや強い食いしばりによる過度な力が顎関節やその周囲の筋肉にかかると、顎関節症(TMJ障害)が起こりやすくなります(3)。顎関節症はあごの痛みや口の開閉時の異音、開けづらさなどの症状を伴います。噛む筋肉(咬筋や側頭筋)が緊張し続けるほど、慢性的な痛みや不快感が持続しやすいと報告されています。

2-3.頭痛・肩こり・首の痛み

顎の筋肉がこわばると、こめかみから後頭部にかけて痛みが波及し、頭痛の原因となる場合があります(3)。さらに首や肩の筋肉にも力が入りやすくなり、慢性的な肩こりや首の痛みに悩まされることも珍しくありません。「長時間のデスクワークで肩こりがつらい」「朝起きると首筋が重い」という方は、歯ぎしりや食いしばりとの関連が疑われます。

2-4.睡眠障害・睡眠の質の低下

睡眠時ブラキシズム(就寝中の歯ぎしり)は、睡眠の深さやリズムを乱す要因となります(2)。その結果、日中の倦怠感や集中力低下につながりやすく、仕事や学習パフォーマンスにも悪影響が及びます。「朝起きたときになんとなく疲れが取れない」という人は、歯ぎしりの可能性を疑ってみるとよいでしょう。

2-5.ストレスとの悪循環

歯ぎしりは精神的ストレスが高まると強まるとされており(2)(4)、また歯ぎしりによる痛みや不快感がさらなるストレスを呼ぶ悪循環に陥ることがあります。気づかないうちに心身双方の負担が蓄積してしまうため、早めのケアが欠かせません。

3.TCH(歯列接触癖)と無意識の噛みしめ

3-1.TCHとは

TCH(Tooth Contacting Habit)とは、安静時にも上下の歯を接触させてしまう「歯列接触癖」のことです。本来、意識がリラックスしている状態では上下の歯が接触せず、わずかに隙間があるのが正常です。しかしTCHのある方は、デスクワーク中やスマホ操作中などにも歯を合わせ続けているため、顎や歯に負荷がかかり続けます(4)。

3-2.TCHが及ぼす影響

顎関節症を抱える患者の多くにTCHがみられ(4)、この習慣がある人は痛みの改善に時間がかかると報告されています。長時間の微弱な力であっても、蓄積することで顎関節や筋肉に慢性的なストレスを与えやすく、結果的に顎や歯のトラブルにつながる可能性があります。

3-3.まずは自覚してコントロール

TCHを減らすための第一歩は、「歯と歯を離すことを意識する」習慣づくりです。特に集中しがちなパソコン作業やスマホ操作の合間に、1時間に一度ほどあごを軽く動かしたり、深呼吸をして上下の歯を離すといった工夫を取り入れてみましょう。

4.噛む力のコントロールと改善策

4-1.筋肉の緊張緩和

噛む筋肉や首・肩の筋肉のコリをほぐし、筋肉の過緊張を解消することが大切です。

  • 顎周辺のストレッチ: 口を軽く開けて、上下・左右にあごをゆっくり動かす
  • 筋肉マッサージ: 頬の咬筋やこめかみ(側頭筋)をやさしく指圧して緊張を緩める
  • 首・肩ストレッチ: 首を回したり肩を上下させ、血行を促進する

研究では、理学療法士による手技療法や自宅エクササイズを組み合わせることで、顎の痛みや睡眠の質が改善したと報告されています(6)。

4-2.生活習慣の見直し

歯ぎしりを悪化させる要因として、カフェイン・アルコール・喫煙・ストレスなどが挙げられます(5)。

  • カフェイン: コーヒーやエナジードリンクなどの過剰摂取を控える
  • アルコール: 寝酒は睡眠の質を下げ、歯ぎしりを助長する可能性がある
  • 喫煙: ニコチンが交感神経を刺激し、筋緊張を高める要因となる
  • ストレス: 仕事や人間関係の負担で歯ぎしりが悪化しやすい

これらの誘因を減らし、十分な睡眠やリラクゼーション法(深呼吸や入浴、軽い運動など)を取り入れることで、歯ぎしり・食いしばりの緩和が期待できます。

5.栄養素による歯や顎の保護

5-1.マグネシウム(Mg)

マグネシウムは「天然の筋弛緩剤」ともいわれ、筋肉や神経の働きを調整するミネラルです。不足すると筋肉の興奮性が増し、歯ぎしりを助長する可能性があります(7)(8)。また、ストレスホルモンの分泌増加とも関連するため、バランス良く摂取することが大切です。
大豆製品、ナッツ、海藻、緑黄色野菜などにマグネシウムが多く含まれます。

5-2.カルシウム(Ca)・ビタミンD

歯や顎の骨を強化し、噛む力から受けるダメージを緩和するうえで欠かせないのがカルシウムとビタミンDです(7)。カルシウムは歯や骨の主成分となり、ビタミンDはカルシウムの吸収を助けます。

  • カルシウム: 牛乳、小魚、大豆製品など
  • ビタミンD: 魚類、きのこ類、日光浴(体内合成)

5-3.その他の栄養素

リン、ビタミンC、ビタミンK、オメガ3脂肪酸なども歯や歯周組織の健康維持に重要とされます(7)(8)。過度な偏食を避け、バランスの取れた食事を心がけることが基本です。

6.交感神経・副交感神経と脳機能(海馬)への影響

6-1.自律神経のバランスと歯ぎしり

ストレス過多や緊張状態が続くと、交感神経が優位になりやすくなります。その結果、筋肉のこわばりや歯ぎしりが増すという悪循環が起きることがあります。逆に、深呼吸やストレッチ、入浴などで副交感神経を働かせる時間を意識的に作ると、リラックスした状態を保ちやすくなり、歯ぎしりの頻度や強さを和らげる効果が期待できます。

6-2.ストレスと海馬の関係

脳の海馬は記憶や感情のコントロールに重要な役割を担っていますが、慢性的なストレスによるストレスホルモン(コルチゾール)の過剰分泌が続くと、海馬の神経細胞が萎縮したり新生が抑制される可能性があると報告されています(9)。ストレスが歯ぎしりを増幅し、歯ぎしりによる不快感がさらにストレスを強める――という悪循環を避けるためにも、日頃からのストレスマネジメントが大切です。

7.歯科医院で受けられる治療とセルフケア

7-1.マウスピース(ナイトガード)の作製

睡眠時の歯ぎしりによる摩耗や破損を防ぐため、歯科医院ではカスタムメイドのマウスピース(ナイトガード)の作製が一般的です(1)。就寝時に装着することで上下の歯が直接ぶつからないよう保護します。ただし、マウスピースは歯ぎしりそのものをやめさせる治療ではなく、「歯を守る防具」という位置づけです。

7-2.かみ合わせの調整・矯正

被せ物や詰め物の高さが合わないなど、かみ合わせのズレが歯ぎしりを助長しているケースもあります(2)。歯科医師の診断を受け、必要であれば咬合調整や歯列矯正で噛み合わせを最適化し、歯ぎしりの頻度・強さを軽減する手段を検討することができます。

7-3.ボトックス注射

重度の食いしばりで咬筋が過剰に発達している場合、ボツリヌストキシン製剤(ボトックス)を注射して筋力を弱める治療法も存在します(3)。美容領域で“エラ張り”改善に用いられるのと同様の仕組みですが、歯ぎしりの負荷軽減を目的として歯科や口腔外科で行われることがあります。効果は数か月程度で持続し、必要に応じて再注射します。

7-4.セルフケアと定期検診

歯ぎしりは習慣的・慢性的な要因が大きいため、歯科での治療とあわせてセルフケアを続けることが重要です(6)。

  • 筋肉マッサージやストレッチ
  • ストレスマネジメント(深呼吸、軽い運動、趣味など)
  • 食生活の改善(偏りを避ける、マグネシウムやカルシウム、ビタミンDを意識)
  • TCHのコントロール(上下の歯を離す意識づけ)

また、忙しい方ほど定期検診のタイミングを逃しがちですが、早期発見・早期対応が症状の悪化を防ぐカギとなります。痛みやこわばりを感じ始めたら、ぜひ歯科医院に相談してみてください。

8.まとめ:早めの対策で快適な生活を

歯ぎしり・食いしばりは、歯の破折、顎関節症、頭痛、肩こり、睡眠障害など多岐にわたるトラブルを引き起こす要因となります。さらにストレスとの相乗効果で悪循環に陥り、心身の健康が損なわれる恐れもあります。
しかし、適切な知識を得て早めに対処すれば、改善・予防は十分に可能です。歯科医院ではマウスピース作製やかみ合わせ調整など専門的なサポートが受けられるほか、セルフケアを並行することでトラブルの進行を防げます。「朝起きるとあごがだるい」「長引く肩こりの原因が思い当たらない」という方は、歯ぎしりや食いしばりが隠れた要因かもしれません。まずは一度、歯科医院で診てもらいましょう。

参考文献

  1. Lal SJ, Sankari A, Weber KK. Bruxism Management. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2024.
  2. Uchima Koecklin KH, Aliaga-Del Castillo A, Li P. The neural substrates of bruxism: current knowledge and clinical implications. Front Neurol. 2024.
  3. von Piekartz H, Rösner C, Batz A, Hall T, Ballenberger N. Bruxism, temporomandibular dysfunction and cervical impairments in females: results from an observational study. Musculoskelet Sci Pract. 2020;45:102073.
  4. Sato F, Kino K, Sugisaki M, et al. Teeth contacting habit as a contributing factor to chronic pain in patients with temporomandibular disorders. J Med Dent Sci. 2006;53(2):103–109.
  5. Bertazzo-Silveira E, Kruger CM, de Toledo IP, et al. Association between sleep bruxism and alcohol, caffeine, tobacco, and drug abuse: a systematic review. J Am Dent Assoc. 2016;147(11):859–866.e4.
  6. Kadıoğlu MB, Sezer M, Elbasan B. Effects of manual therapy and home exercise treatment on pain, stress, sleep, and life quality in patients with bruxism: a randomized clinical trial. Medicina (Kaunas). 2024;60(12):2007.
  7. Pavlou IA, Spandidos DA, Zoumpourlis V, Adamaki M. Nutrient insufficiencies and deficiencies involved in the pathogenesis of bruxism (Review). Exp Ther Med. 2023;26(6):563.
  8. Pavlou IA, Spandidos DA, Zoumpourlis V, Papakosta VK. Neurobiology of bruxism: The impact of stress (Review). Biomed Rep. 2024;20(4):59.
  9. Recovery Cove (PA). Stress and the Brain: Understanding the Connection and How to Cope. Recovery Coveブログ. 2023.