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予防歯科歯と栄養

なかなか治らない口内炎に要注意

~考えられる原因と対処法、放置のリスクを知ろう~

はじめに

口内炎は多くの方が経験する身近な症状ですが、一般的には1~2週間ほどで自然に治るとされています (1)。しかし、中には「治りが遅い」「頻繁に繰り返す」といったケースもあり、「そのうち治るだろう」と放置しているうちに深刻な病気のサインを見逃すこともあります (2)。本記事では、治りにくい口内炎の原因や考えられるリスク、放置による弊害を、近年の研究を踏まえながらわかりやすく解説します。忙しくて歯科受診を先延ばしにしている方や歯科医院を探している方は、ぜひ一度チェックしてみてください。

1. 口内炎が治りにくい主な原因

1-1 ストレス・睡眠不足・体調不良

心理的ストレスが口内炎の大きな誘因となることはよく知られています。ある調査では約9割の口内炎患者が「発症前に強いストレスを感じた」と回答しており、ストレスが免疫機能や自律神経、ホルモンバランスを乱すことで粘膜の防御力が低下し、繰り返し口内炎を発症しやすくなると考えられています (3)。さらに、睡眠不足や過労、風邪などによる体力低下もリスクを高める要因です。

1-2 栄養不足(ビタミン・ミネラル)

ビタミンB群やビタミンC、葉酸、鉄分、亜鉛などは粘膜の再生や免疫機能を維持する上で欠かせない栄養素です。これらが不足していると口内炎が治りにくくなる可能性が高まると報告されています (4)。特に鉄欠乏性貧血やビタミンB12、葉酸の不足は、再発性口内炎との関連が指摘されることが少なくありません。さらに近年では、ビタミンD不足と口内炎の再発リスク上昇の関係を示すメタ分析結果も発表されています (5)。

1-3 免疫異常や全身疾患

自己免疫疾患(ベーチェット病など)、HIV感染症、潰瘍性大腸炎やクローン病といった消化器系疾患の初期症状として口内炎が現れるケースもあります (6)。また、ホルモンバランスの乱れや遺伝的素因など多くの要因が重なっている場合もあり、2週間以上治癒しない口内炎はこれらの疾患を疑うきっかけとなるため、放置せず専門医の診察を受けることが重要です。

1-4 物理的刺激や感染症

合わない入れ歯や矯正装置が当たって粘膜に傷をつくる場合や、頬を噛んでしまった後に口内炎に発展することもあります。通常であれば原因刺激を除去すると治りますが、慢性化する場合は栄養不足や免疫低下など別の要因が絡んでいることが考えられます (7)。また、ヘルペスウイルスやカンジダ菌など感染症が絡むと症状が長引く場合もあります。

2. 放置のリスク:口腔癌やOPMDsとの鑑別診断の必要性

2-1 口内炎を長引かせる弊害

「たかが口内炎」と思って放置していると、痛みで食事や会話がしづらくなるだけでなく、栄養不足やQOL(生活の質)の低下につながる可能性があります (4)。特に高齢者や子どもなどでは食欲が落ち、体力や抵抗力の低下を招くケースもあるため注意が必要です。

2-2 2週間以上続く場合は要注意

歯科の臨床では、2週間以上治らない口内の潰瘍や腫れ物については「念のため組織検査を行う」という指針があります (6)。これは、口腔癌や潜在的悪性疾患(OPMDs)が初期段階では痛みが少なく、外見上も通常の口内炎と区別がつきにくいためです (8)。見た目が似ているからと放っておくと発見が遅れるリスクがあるので、治りにくい症状が続く際には歯科医院で精査してもらうことをおすすめします。

2-3 自覚できない全身へのミクロな影響

再発性の口内炎や治りにくい口内炎が続くと、口腔内のみならず免疫や代謝など全身に影響を及ぼす場合があります (6)。特に慢性的な痛みや炎症はストレスを増幅させ、さらなる免疫低下を誘発する可能性があります。本人に自覚症状がないまま徐々に悪循環が進むこともあるため、口内炎を軽視せず身体からのサインとして捉えることが大切です。

3. 栄養状態と口内炎の関係

3-1 ビタミンB群、ビタミンC、鉄分、亜鉛

再発性口内炎の患者を対象にした研究では、血液検査で葉酸やビタミンB12、鉄分などが不足している割合が高いと報告されています (4)。いずれも免疫や粘膜修復に重要な役割を果たしているため、不足すると口腔粘膜の再生が遅れたり、傷つきやすくなったりします。最近ではビタミンDの欠乏についても注目が集まっており、不足すると炎症が生じやすくなる可能性が指摘されています (5)。

3-2 補充療法のメリット

ビタミンB12をはじめとするビタミン群やビタミンDを補充した結果、口内炎の再発頻度や症状が緩和されたという研究もあります (4)(5)。食事だけで補いきれない場合、サプリメントを検討するのも一つの手ですが、過剰摂取のリスクもあるため、医師や歯科医師、管理栄養士に相談しながら進めると安心です。
また、亜鉛やビタミンCも傷の修復を助ける栄養素として注目されており、不足が疑われる場合はサプリメントや食事からの積極的な摂取が推奨されています (9)(10)。

4. 治療のメリット・デメリット

4-1 早期治療のメリット

  • 痛みや不快感の軽減: 口内炎にステロイド軟膏や貼付薬を使うと、炎症が和らぎ治癒が早まることがあります (4)。痛みが強い場合には局所麻酔成分入りの軟膏や洗口液なども選択肢になります。
  • 重症化の予防: 口内炎が大きく深くなる前に抑えられるため、食事や会話への影響が少なくて済みます。さらに二次感染を防ぎやすくなる利点もあります (7)。
  • 原因疾患の早期発見: しつこい口内炎の裏に貧血や胃腸疾患、自己免疫疾患などが隠れている場合、歯科受診を通じていち早く気づくことが可能です (6)。万一、口腔癌などの深刻な病変でも、初期発見であれば治療の成功率が高まります (8)。

4-2 放置するデメリット

  • QOL(生活の質)の低下: 痛みが続くことで、食事や会話がつらくなるなど生活の質が下がり、栄養状態の悪化やストレス増大につながる恐れがあります (4)。
  • 重大疾患を見逃すリスク: 先述の通り、口腔癌やOPMDsなどが「治らない口内炎」として紛れていることがあり、放置するほど発見が遅れてしまう危険があります (6)(8)。
  • 悪循環への陥りやすさ: 慢性的な痛みや炎症がストレスを誘発し、それがさらに免疫力の低下をもたらして口内炎が繰り返される…という悪循環に陥る可能性があります (6)。

5. 具体的な対処法

5-1 セルフケア

  • 口腔内の清潔: 食後や就寝前に水や薄い食塩水でうがいをするなど、口腔内を清潔に保ち二次感染を予防します (1)。
  • 刺激物を控える: 辛い・熱い・酸味の強い食品やアルコール、喫煙は粘膜への刺激となり、痛みが増したり治りが遅れたりする原因になります (2)。
  • ビタミン・ミネラルの補給: バランスの良い食事を心がけ、不足が疑われる場合は必要に応じてサプリメントを検討します (4)(5)。
  • ストレス緩和・十分な休息: ストレスは口内炎の大敵。運動や趣味、リラックス法でストレスを解消し、十分な睡眠を取るよう心がけましょう (3)。

5-2 医療機関での治療

  • 塗り薬・貼り薬: ステロイド軟膏や貼付薬は患部の炎症を抑え痛みを軽減し、治癒を促進します (4)。局所麻酔成分入りジェルを使うと痛みを一時的に和らげることも可能です。
  • レーザー治療: 歯科用レーザーを患部に照射することで、痛みを早期に緩和し、治りを早める効果が報告されています (7)。処置時間も短く、治療後すぐに日常生活へ戻れる利点があります。
  • 原因疾患の検査・治療: 2週間以上治らない場合は、歯科医師や口腔外科専門医による組織検査を検討します (6)。結果によっては内科的検査も必要となり、貧血や免疫疾患、腸の病気などが見つかる場合があります。

6. まとめとアクションのすすめ

  1. 2週間を目安に歯科へ: 「なかなか治らない」「同じ箇所に何度もできる」という口内炎は、2週間程度を目途に専門医の受診を検討しましょう。思わぬ重大疾患の早期発見につながるかもしれません (6)(8)。
  2. 生活習慣と栄養バランスを見直す: ストレスや睡眠不足の解消、ビタミン・ミネラルの確保を意識するだけでも、口内炎の発症頻度や痛みを軽減できる場合があります (4)(5)。
  3. セルフケアと専門治療の併用: 市販薬で効果が見られない場合や痛みが強い場合は、歯科医院での処方薬やレーザー治療など、専門的なケアを受けることで早期回復が期待できます (7)。
  4. 全身の健康管理につなげる: 口内炎は口腔内のトラブルにとどまらず、全身状態を反映していることも少なくありません。特に再発が多い方は一度血液検査などを受け、潜在的な栄養不足や全身疾患の有無を確認しておくと安心です (6)。

忙しいと歯科受診は後回しになりがちですが、長く続く口内炎を放置すると、生活の質の低下だけでなく、潜在的な重篤疾患の発見が遅れるリスクも高まります。歯科医院では短時間で適切な検査や治療を行い、痛みを軽減する手段も豊富に用意されています。口内炎にお悩みの方は早めの相談を心がけ、快適な生活を取り戻しましょう。

◎おわりに
口内炎は一時的な不快感で終わることが多い反面、治りが悪かったり何度も繰り返したりする場合は、体からのシグナルである可能性があります。こうした症状を見逃さず、生活習慣や栄養バランスを見直し、必要に応じて歯科医院や専門医を受診することで、早期にトラブルを解消し、思わぬ病気の発見にもつながります。忙しい方こそ、少しの手間が後の大きな安心につながるはずです。ぜひ今回の記事をきっかけに、口内炎のセルフケアと専門的なケアの両面からアプローチを行ってみてください。

参考文献

(1) Cleveland Clinic. Mouth Ulcers: Types, Causes & Treatment. [Accessed 2025 Feb 11].
(2) Edgar NR, Saleh D, Miller RA. Recurrent Aphthous Stomatitis: A Review. J Clin Aesthet Dermatol. 2017;10(3):26-36.
(3) Preethi S, Minal J, Kuruva S, Rajanala S, Waghmare P, Chandrakala S. Prevalence and psychological stress in recurrent aphthous stomatitis among students. J Int Soc Prev Community Dent. 2018;8(6):545-551.
(4) Feng J, Zhou Z, Shen X, et al. Hematinic deficiencies in patients with recurrent aphthous stomatitis: variations by gender and age. Med Oral Patol Oral Cir Bucal. 2018;23(2):e161-e168.
(5) Al-Maweri SA, Halboub ES, Alaizari NA, et al. Vitamin D deficiency and risk of recurrent aphthous stomatitis: An updated meta-analysis. Front Immunol. 2023;14:1120574.
(6) Cheng XT, Hu L, Zhu X, et al. Difficult and complicated oral ulceration: an expert consensus guideline for diagnosis. Chin J Dent Res. 2022;25(2):95-107.
(7) Li C, Tang X, Zheng X, et al. Low-level laser therapy in the treatment of recurrent aphthous stomatitis. Biotechnol Biotechnol Equip. 2014;28(5):929-933.
(8) Cheng KK, Leung SF, Liang RH, et al. Severe oral mucositis after cancer therapy: impact on oral functional status and quality of life. Support Care Cancer. 2008;16(6):607-614.
(9) Sun A, Chen HM, Cheng SJ, et al. Significant reduction of recurrences of recurrent aphthous ulcerations upon systemic zinc sulfate treatment. Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol Endod. 2008;105(4):e20-e25.
(10) Yasui K, Shimoji T, Yokoyama M, et al. The effect of ascorbate on minor recurrent aphthous stomatitis. Acta Paediatr. 2010;99(3):442-445.