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歯と栄養歯周病

歯周病とビタミンD不足の意外な関係

~その原因と対策~

はじめに

忙しい毎日で歯医者さんから足が遠のいていませんか? 歯ぐきの状態がなんとなく気になる、歯周病が心配だけどなかなか時間が取れない……そんな方も多いと思います。
実は、歯周病(歯ぐきの病気)と「ビタミンD」という栄養素の間には深い関わりがあることがわかってきています[1][2]。ビタミンDは骨を丈夫にすることで知られていますが、免疫調節や抗炎症作用にも関わりがあり、歯周病の進行に影響を与える可能性が指摘されているのです[2][3]。

さらに、ビタミンD不足(VDD)は世界的に見ても非常に多くの人に当てはまるという調査結果があり、「パンデミック(世界的流行病)」と表現されることもあるほど[4][5]。日本でも現代の生活環境や食生活などの影響で、多くの人がビタミンD不足に陥っていることが報告されています。
本記事では、ビタミンDと歯周病の関係、ビタミンD不足の原因・現状、それがお口の健康に及ぼす影響、そして対策までをわかりやすく解説します。ぜひ、ご自身の歯ぐきやライフスタイルを見直すきっかけにしてみてください。

1. 歯周病とビタミンDの関係

1-1. 歯周病とは

歯周病は、プラーク(歯垢)中の細菌が引き起こす歯ぐきの炎症から始まります。進行すると、歯を支える骨(歯槽骨)が少しずつ溶けていき、最悪の場合は歯を失うことにも繋がる慢性疾患です。初期には痛みなどの自覚症状が乏しく、歯ぐきの出血や腫れを放置してしまい、気がついたら症状が深刻化している例も多く見られます。

1-2. ビタミンDの免疫・抗炎症作用

ビタミンDはカルシウムの吸収を助けることで骨を強化する役割がよく知られています。しかし近年では、免疫バランスを調整したり、体内の炎症反応を抑制したりする働きがあることもわかっています[2]。歯周病は細菌感染による慢性炎症ですから、ビタミンDが十分あると体の免疫機能が適切に働き、炎症をコントロールしやすくなると考えられます。

1-3. 研究から見た関連性

複数の研究で、「血中のビタミンD濃度が低い人ほど歯周病が進みやすい」傾向が報告されています[1][2]。例えば、慢性歯周炎患者の血中25(OH)D(ビタミンDの指標)レベルを調べると、健康な歯ぐきを持つ人よりも有意に低かったというデータがあります[1]。
また、ビタミンDを補充したグループとそうでないグループで歯周治療後の歯ぐきの改善度を比べた研究では、補充した方がわずかながら歯ぐきの付着レベルが良くなったとの結果も示されています[3]。こうした報告から、「ビタミンD不足は歯周病リスクのひとつになる可能性がある」と考えられるようになりました。

2. ビタミンD不足 “パンデミック” の現状

2-1. 世界的に広まるビタミンD不足

ビタミンD不足は、もはや特定の地域や年齢層だけの問題ではありません。ある推計では、「世界人口の約半数がビタミンD不足または欠乏状態にある」とされるほどです[5]。ヨーロッパでは約40%の人が血中ビタミンD不足で、そのうち13%は深刻な欠乏状態にあるという調査結果も報告されています[4]。
現代の生活習慣、とりわけ「室内で過ごす時間の増加」や「日焼け止めの常用」、「食事内容の変化」などが絡み合い、人々が十分なビタミンDを得られなくなっているのです。

2-2. 日本人も例外ではない

「魚を食べる習慣がある」「四季がある国だから日光はそこそこ浴びているはず」というイメージがありますが、実は日本人もビタミンD不足が深刻です。オフィスワークで日中はほとんど屋内にいる上、紫外線対策で長袖や日焼け止めを使う方が増えています。加えて、近年は魚料理の摂取量が減り、代わりに日常食となることが多い肉類にはビタミンDがあまり含まれていません。
その結果、日本国内でも血中ビタミンDが不足している人が非常に多いとわかってきました[5]。こうした背景から、ビタミンD不足による骨折リスクや免疫力低下とともに、お口の健康への影響にも注目が集まっているのです。

3. ビタミンD不足が歯周病・口腔健康に及ぼす影響

3-1. 歯ぐきの炎症が悪化しやすい

ビタミンDには免疫を調整する働きがあるため、不足すると体の防御力が弱まり、歯周病菌に対する抵抗力が落ちることが考えられます[2]。その結果、歯ぐきの炎症が悪化しやすくなり、出血や腫れが治りにくい状態に陥る可能性があります。

3-2. 歯を支える骨が脆くなる

ビタミンDはカルシウムの吸収を助け、骨を維持する上で重要です。不足すると骨密度が低下し、歯を支える歯槽骨(しそうこつ)の減少が進む恐れがあります。これが歯周病による骨吸収と重なると、歯の動揺や抜け落ちリスクが高まる原因になるかもしれません。

3-3. むし歯リスクの増加

ビタミンDは歯のエナメル質や象牙質といった硬組織の形成に関わるカルシウム代謝にも影響を及ぼします[6][7]。重度のビタミンD欠乏状態にあると、エナメル質形成不全が起きやすくなるなど、むし歯リスクも上がると報告されています[7]。特に子どもの場合、成長過程でのビタミンD不足は歯の発育不良の一因となるため注意が必要です。

3-4. 歯科治療後の回復にも影響

ビタミンDが不足すると、インプラント治療や歯周外科手術後の骨再生など、治療後の回復力に支障をきたす恐れがあると指摘されています[6]。手術や大きな処置の前後では、栄養バランスやビタミンD状態を整えることが、治癒を促進する上でも重要なポイントです。

4. 歯周病・口腔健康のための具体的なビタミンD対策

4-1. 日光浴を適度に行う

ビタミンDは紫外線B波(UV-B)を浴びることで皮膚で合成されます。日焼けしない程度に、朝や夕方など紫外線が強すぎない時間帯を選び、15〜30分程度の散歩やベランダでの軽い日光浴を日課にしてみましょう。夏の日差しの強い時間帯は短時間でも日焼けしてしまうため、帽子や日傘、日焼け止めなどで上手に調節してください。冬場や天気の悪い日は難しいかもしれませんが、できるだけ意識的に日光を取り入れる工夫が大切です。

4-2. ビタミンDを含む食事を意識する

食事から摂取できるビタミンDは多くありませんが、以下の食品に比較的多く含まれます。

  • 魚類:サケ、サバ、イワシ、サンマ、ウナギなど脂肪分の多い魚
  • きのこ類:特に天日干ししたシイタケやマイタケ
  • 卵黄、強化乳製品:ビタミンD強化牛乳やシリアルなども選択肢

    こうした食材を普段の食事に積極的に取り入れるだけで、ある程度ビタミンDの摂取量を補えます。和食中心で魚を週に数回食べる人は比較的ビタミンDが不足しにくいとされていますが、現代では魚離れが指摘されているので、意識的に工夫してみてください。

4-3. サプリメントで補う

食事や日光だけで補いきれない場合や、生活環境的に日光浴が難しい方は、市販のビタミンDサプリメントを活用するのも一手です。一般的な成人では1日あたり400~1000IU(10~25µg)程度を目安に摂取すると不足解消に役立つと言われています。ただし、過剰摂取は高カルシウム血症のリスクがあるため、自己判断で極端に大量に飲まないよう注意しましょう。持病がある方や妊娠中の方は、主治医に相談すると安心です。

4-4. 歯科医院で相談する

歯ぐきの腫れや出血が気になる場合は、忙しくてもぜひ歯科医院で定期検診を受けましょう。歯周病の進行度をチェックし、適切なクリーニングや治療を行うことで、お口の中を健康な状態に保てます。歯科医師や歯科衛生士は、患者さんの生活習慣などを踏まえてアドバイスをしてくれることもあります。たとえば「日中ほとんど日光に当たらない」という方には、ビタミンD不足の可能性を考慮して、血液検査を案内してくれる場合もあります。

5. 行動変容のすすめ

ここまで読んでみて、「もしかしたらビタミンD足りていないかも」と感じた方は少なくないはず。歯周病は見た目のトラブルだけではなく、全身の健康にも深く関係する慢性疾患です。そして、ビタミンD不足は世界的に広がる問題であり、放置すれば骨や免疫力など多方面に影響を及ぼします。
ぜひ今日から次のことを実践してみてください。

  1. 定期的に歯科検診を受ける
    • 歯周病の初期段階であれば簡単な処置で改善しやすく、重症化や歯の喪失リスクも低減できます。
  2. 日光浴や食事を工夫し、ビタミンD不足を予防する
    • 上手に紫外線と付き合いながら、魚やきのこ類などの食材を活用し、足りない分はサプリメントで補う。
  3. お口のセルフケアを徹底する
    • 毎日の歯みがきやデンタルフロス・歯間ブラシの活用で、歯周病菌の繁殖を予防。
  4. 専門家の力を借りる
    • 歯科医師・歯科衛生士への相談だけでなく、必要に応じて血液検査などを受け、栄養状態を把握しておきましょう。

ちょっとした生活習慣や食事内容の見直しが、歯周病だけでなく全身の健康を守る第一歩になるかもしれません。もし「最近歯ぐきが腫れやすい」「出血する」「長らく歯科に行っていない」という方は、この機会に歯科医院へ足を運んでみませんか? 忙しい毎日だからこそ、今できる小さな健康習慣を重ねることが将来の大きな差につながります。歯周病の予防・治療とともに、ビタミンD不足を改善して、いつまでも健康な歯と笑顔を保ちましょう。

以上が、ビタミンD不足と歯周病の関係、そしてその対策についてのまとめです。定期的に歯科検診を受けながら、ビタミンDや栄養バランスも意識して、元気な歯ぐきと健康な体を長く保ちましょう。何か気になることがありましたら、お気軽に当院までご相談ください。

参考文献・リンク

  1. Machado V, Lobo S, Proença L, Mendes JJ, Botelho J. Vitamin D and Periodontitis: A Systematic Review and Meta-Analysis. Nutrients. 2020;12(8):2177.
    PMCPMC
  2. Lu EMC. The role of vitamin D in periodontal health and disease. J Periodontal Res. 2023;58(2):213-224.
    PubMedPubMed
  3. Liang F, Zhou Y, Zhang Z, Zhang Z, Shen J, et al. Association of vitamin D in individuals with periodontitis: an updated systematic review and meta-analysis. BMC Oral Health. 2023;23(1):311.
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  4. Amrein K, Scherkl M, Hoffmann M, et al. Vitamin D deficiency 2.0: an update on the current status worldwide. Eur J Clin Nutr. 2020;74(11):1498-1513.
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  5. Cui A, Zhang T, Xiao P, et al. Global and regional prevalence of vitamin D deficiency in population-based studies from 2000 to 2022: A pooled analysis of 7.9 million participants. Front Nutr. 2023;10:1070808.
    FrontiersFrontiers
  6. Botelho J, Machado V, Proença L, Mendes JJ. Vitamin D Deficiency and Oral Health: A Comprehensive Review. Nutrients. 2020;12(8):1471.
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  7. Hung M, Patel H, Lee S, Nguyen J, Mohajeri A. The Influence of Vitamin D Levels on Dental Caries: A Retrospective Study of the United States Population. Nutrients. 2024;16(11):1572.
    PubMedPubMed