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予防歯科歯周病

歯垢と歯石の違いをご存知ですか?〜歯肉炎・歯周炎との関係と予防法〜

以下では、歯垢と歯石の違い、そして歯肉炎・歯周炎・歯周病について、最近10年程度の研究報告(1)(2)を踏まえながら一般の方向けにわかりやすくまとめました。文字量はやや多めですが、歯科医院を探している方や「忙しくてなかなか歯科へ行けない」「行こうか迷っている」という方でも読後に行動に移せるよう、専門知識をできるだけかみ砕いて解説しています。ぜひ、明日からのセルフケアや定期健診受診のきっかけにしてください。

1. 歯垢と歯石の基本的な違い

歯垢(プラーク)とは

  • 歯垢(しこう)は、歯の表面に付着する細菌のかたまりで、粘着性のあるバイオフィルムです(1)(3)。
  • 食事や磨き残しなどによってわずか数時間で再び形成され、放置すると厚みを増していきます(1)。
  • 歯垢には虫歯菌や歯周病菌をはじめとする多くの細菌が棲みついており、虫歯や歯肉炎・歯周炎(歯周病)の直接の原因菌の塊となります(4)(5)。
  • 歯垢は柔らかいのでブラッシングやフロスなど適切なケアで除去しやすい一方で、油断するとすぐに溜まるため、日々のセルフケアが欠かせません(3)。

歯石とは

  • 歯石(しせき)は、取り除かれずに残った歯垢が唾液中のミネラル(カルシウムやリン酸塩)によって固まったものです(2)(6)。
  • 硬く石灰化してしまうとブラシやフロスでは落とせず、歯科医院での専門的な器具を使ったスケーリングが必要になります(2)。
  • 歯石そのものが直接歯ぐきを“削る”わけではありませんが、表面がザラザラして歯垢がさらにたまりやすい環境を作るため、炎症を慢性化させます(4)(6)。
  • 歯石には歯ぐきより上に付く歯肉縁上歯石と、歯ぐきの中に潜り込む歯肉縁下歯石があり、特に歯肉縁下歯石は発見しにくく歯周炎を悪化させる大きな要因になります(4)。

2. 歯肉炎・歯周炎・歯周病とは

歯周病という言葉は、「歯肉炎(軽度)」から「歯周炎(中〜重度)」までを総称したものです(7)。

歯肉炎(Gingivitis)

  • 歯と歯ぐきの境目に歯垢が溜まることで起こる、歯ぐき(歯肉)の炎症です(7)(8)。
  • 赤みや腫れ、ブラッシング時の出血などが見られる一方、痛みは少なく自覚症状が乏しい場合も多いです(7)。
  • 適切なブラッシングやフロス、プロフェッショナルクリーニングで改善可能であり、早期に対処すれば元の健康な状態に戻せます(8)。

歯周炎(Periodontitis)

  • 歯肉炎が進行して、歯を支える骨(歯槽骨)や歯根膜にまで炎症が広がった状態です(7)(8)。
  • 歯周ポケットが深くなり、膿や出血、歯のグラつき、歯ぐきの後退など重い症状が出始めます(5)(8)。
  • 不可逆的(元に戻らない)な組織破壊が進むため、治療によって進行を食い止めることはできても、完全に元通りにするのは難しくなります(8)。

歯周病の進行とリスク

  • 歯周病は初期段階ではほとんど痛みがなく、自覚症状が出た時にはかなり進行していることが多いです(5)。
  • 成人が歯を失う最も大きな原因の一つが歯周病で、年齢を重ねるほどリスクは高まります(7)。
  • 日本を含む先進国では、30代以降の約半数以上が何らかの歯周病の兆候を持っているといわれます(6)(7)。

3. 歯垢・歯石が招く歯周病の悪循環

  1. 歯垢の蓄積: 毎日のケア不足や磨き残しにより、歯と歯ぐきの境目に歯垢がたまる(1)(3)。
  2. 歯肉炎の発症: 歯垢の細菌が歯ぐきを刺激し、出血や腫れなどの炎症反応が起こる(4)(8)。
  3. 歯石へ移行: 放置した歯垢が唾液中のミネラルと結合し固くなり、歯石となる(2)(6)。
  4. 歯周ポケットの拡大: 歯石表面にさらに歯垢が溜まりやすくなり、炎症が奥深く(歯周ポケット)へと進行(5)(8)。
  5. 歯周炎の進行: 歯を支える骨まで破壊が及び、歯のぐらつきや抜歯リスクが高まる(7)。

このように歯垢と歯石が「炎症の慢性化→組織破壊」を繰り返す悪循環を生むため、早めのケアと定期的な歯石除去が非常に重要となります。

4. 歯周病が全身に及ぼす影響

歯周病はお口の中だけでなく、以下のように全身の健康とも関わりがあると近年の研究で指摘されています(1)(7)。

  • 心血管疾患との関連: 歯周病菌や炎症性物質が血流を介して血管へ悪影響を及ぼす可能性(7)。
  • 糖尿病との相互作用: 歯周病は糖代謝の悪化を助長し、逆に糖尿病のある方は歯周病が進行しやすい二次的リスクになる(7)。
  • 誤嚥性肺炎: 高齢者で口腔内環境が悪化している場合、細菌が誤嚥によって肺に入るリスクを高める(3)。

このように、歯周病を放置することは全身の健康にも影響し得るため、忙しくても早めにケアをスタートする意義は大きいと言えます。

5. 予防と対策:今日から始める習慣

(1) 正しいブラッシング

  • 歯ブラシの毛先を歯と歯ぐきの境目に当て、小刻みに振動させて磨くバス法などを心がけましょう(8)。
  • 1日1回は10分程度の時間をかけて、歯垢の残りやすい部分(歯間部、奥歯の内側など)を徹底的にチェックするのがおすすめです(4)。

(2) デンタルフロスや歯間ブラシの活用

  • 歯間部の歯垢は歯ブラシだけでは十分に除去できず、フロスや歯間ブラシの使用で歯肉炎のリスクが大幅に減ると複数の研究が示しています(1)(4)。
  • 歯間の隙間が大きい方は歯間ブラシ、小さい方は糸状のフロスを使用してください。

(3) マウスウォッシュの併用

  • 殺菌成分入りの洗口液(クロルヘキシジンやエッセンシャルオイル配合など)は、ブラッシング後に使用すると歯周病菌の数を減らす助けになります(1)。
  • ただし、あくまで補助的な役割なので歯垢を物理的に除去するブラッシングやフロスが基本です(4)。

(4) 定期的な歯科検診と歯石除去

  • 定期健診とプロフェッショナルクリーニング(PMTCやスケーリング)を受けることが大切です(3)(5)。
  • 歯科衛生士による歯石除去で、歯周ポケット内の「見えない歯石」も徹底的に除去できます(2)(6)。
  • 検診時に歯肉の状態やポケットの深さを計測し、早期の歯肉炎の段階で食い止めることが歯周炎への進行を防ぐ大きなポイントです(8)。

(5) 生活習慣の見直し

  • 喫煙は歯周病のリスクを高める代表的な要因とされ、血行不良によって炎症があっても出血しにくいなど、発見を遅らせてしまいます(7)。
  • 糖尿病をお持ちの方は特に血糖コントロールが重要です。内科と連携しながら口腔ケアを徹底することで、相互に良い影響をもたらす可能性があります(7)。
  • ストレスや睡眠不足も免疫力を低下させ、歯周病を悪化させる可能性があるため、バランスのとれた生活習慣を意識しましょう(7)。

6. 「忙しいからこそ」こまめな受診がカギ

歯科医院は虫歯を治すだけでなく、「歯を守るためのパートナー」です。とくに「痛くないから後回し」「仕事が忙しくて行けない」という方ほど、気づかないうちに歯垢や歯石が溜まり、歯肉炎から歯周炎へ進行していることがあります(5)(8)。定期的な受診を習慣化すると、1回のクリーニングやメンテナンスも短時間で済む場合が多く、結果的に「忙しい方」にこそメリットが大きいといえます。

7. おわりに:行動変容の第一歩を

歯垢と歯石の違い、歯肉炎と歯周炎の進行過程やリスクを踏まえると、“歯垢をしっかり落とす”ことが歯周病予防の第一歩であるとわかります(1)(4)(8)。そして一度歯石化した場合、自己ケアでは取り除けません。何年も歯科を受診していないという方は、まず一度クリーニングに行くことがおすすめです。

「歯周病は静かに進む」と言われる通り、特に初期には痛みも少ないため、油断していると想像以上に進行してしまう病気です(5)(7)。歯を失うリスクを最小限にするためにも、忙しさを理由に先延ばしにせず、定期健診・早期治療でお口の健康をしっかり守っていきましょう。当院では、お忙しい方にも対応できるよう、短時間でのメンテナンスやカウンセリングのご予約枠もご用意しております。お気軽にご相談ください。

参考文献

(1) D’Elia G, Floris W, Marini L, et al. Methods for Evaluating the Effectiveness of Home Oral Hygiene Measures—A Narrative Review of Dental Biofilm Indices. Dent J (Basel). 2023;11(7):172.
(2) Balaji VR, Niazi TM, Dhanasekaran M. An unusual presentation of dental calculus. J Indian Soc Periodontol. 2019;23(5):484-486.
(3) National Institute of Dental and Craniofacial Research. Periodontal (Gum) Disease. NIH. 2023
(4) Gasner NS, Schure RS. Periodontal Disease. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2023 Apr 10.
(5) Centers for Disease Control and Prevention. About Periodontal (Gum) Disease. Updated May 15, 2024
(6) 厚生労働省 e-ヘルスネット. 歯周疾患の有病状況 (生活習慣病予防のための健康情報サイト). 2023年更新 .
(7) Jiang T. Tooth loss truth: It’s no longer about the tooth fairy. Harvard Health Publishing. 2021 Aug 27.
(8) Gasner NS, Schure RS. Periodontal Disease. StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2023.