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院長のとっておきの話 その104 断食と慢性炎症:何時間の空腹が、体の炎症のスイッチに関わるのか

断食やファスティングというと、体重を減らす手段だと思っている方が、ほとんどだと思います。けれど、慢性炎症という視点から見ると、断食は、もう少し根本的なところに関わっています。

この記事では、断食が、体の慢性炎症の中心にあるスイッチ ── NLRP3インフラマソームと呼ばれる仕組み ── と、どう関わるのかを、研究に基づいてたどります。そして、この記事で一番お伝えしたいのは、もう少し込み入った話です。断食には、炎症との関係で効きやすいものと、効きにくいものがある。「断食は体の炎症にいい」と、ひとくくりにして捉えるのではなく、どの断食が、どういう条件で、炎症の仕組みに関わるのかを、解像度を上げて見ていきます。

そして、この記事の後半では、断食が、誰にとっても安全な方法ではないこと ── 避けるべき方、慎重であるべき方がはっきりいること ── も、率直にお伝えします。断食に関心のある方も、そうでない方も、お付き合いいただければと思います。

なお、この記事は、特定の断食法をおすすめするものではありません。断食という方法について、現時点で何が分かっていて、何がまだ分かっていないのか、そして、どういう方が気をつけるべきなのかを、整理してお伝えするものです。

はじめに ── NLRP3という、炎症のスイッチ

話の中心になる言葉を、先に説明します。NLRP3インフラマソームです。

これは、私たちの免疫細胞の中にある、炎症の引き金のような仕組みです。体に異常があると、このNLRP3が組み上がって、炎症の信号を出す。本来は、体を守るための大切な仕組みです。けれど、これが、必要もないのに、慢性的に作動し続けてしまうと、体のあちこちで、くすぶるような弱い炎症が続くことになります。これが、いわゆる慢性炎症の、ひとつの正体です。

慢性炎症は、糖尿病や、動脈硬化や、さまざまな加齢に伴う不調と、関わりがあると考えられています。だから、このNLRP3というスイッチを、どう穏やかに保つかは、健康を考えるうえで、ひとつの大切なテーマです。

断食は、このNLRP3に関わってくる ── そういう研究が、近年、報告されてきました。順に見ていきます。

空腹の時間で、体の中は切り替わっていく

断食を考えるとき、まず押さえておきたいことがあります。「断食」とひとことで言っても、空腹の時間の長さによって、体の中で起きていることが、まったく違う、ということです。最後の食事からの経過時間で、代謝のフェーズが、段階的に切り替わっていきます。

十二時間あたり。最後の食事から十二時間ほど経つと、肝臓に蓄えられた糖の貯蔵(グリコーゲン)が減り始め、インスリンが下がってきます。これは、一晩寝て朝食を抜いた程度の状態です。代謝の大きな切り替えは、まだ起きていません。

十六時間あたり。糖の貯蔵がかなり減り、体が脂肪をエネルギー源として使い始めます。ケトン体と呼ばれる物質の産生が始まる。よく知られた十六時間の時間制限食は、ちょうどこのあたりに届くかどうか、という時間の設定です。

二十四時間あたり。本格的に、ケトン体をエネルギー源として使う状態に入ります。細胞のエネルギーセンサーが強くはたらき、細胞内を掃除する仕組み(オートファジー)が回り始める。後で見るように、体の炎症の仕組みという観点では、このあたりが、ひとつの分かれ目になります。

四十八時間から七十二時間。さらに深い段階に入り、細胞内の掃除が活発になります。ただし、ここまでの長時間の断食は、健康な方であっても、相応の注意が必要な領域です。

ここで、強くお伝えしておきたいことがあります。いま示した時間は、あくまで、おおまかな目安です。何時間目にどのフェーズに入るかには、大きな個人差があります。その方の体格、活動量、直前の食事の内容、ふだんの食習慣によって、前後します。ここに挙げた数字を、目標として競うようなものとして、受け取らないでください。これは、体の中で何が起きているかを理解するための、地図にすぎません。

この「時間で代謝が変わる」という地図を、頭の隅に置いてください。なぜなら、断食が体の炎症の仕組みに関わるかどうかは、どのフェーズまで到達したかで、変わってくるからです。一晩の絶食と、二十四時間の断食と、三日間の断食は、同じ「断食」という言葉でくくられていても、体の中では、別のことが起きています。

二十四時間の断食と、炎症のスイッチ ── ヒトで調べられたこと

ここが、この記事の中心です。

断食とNLRP3の関係を、ヒトで直接調べた研究があります。二〇一五年に、米国の国立衛生研究所のグループが報告した、Trabaらの研究です。

研究の組み立ては、こうです。健康なボランティア十九名が、まず二十四時間の断食を行う。その後、決まったカロリーの食事を摂る。断食しているときと、食事を摂った後とで、それぞれ血液を採り、血液中の免疫細胞のNLRP3の活性化の程度を、比べました。

結果は、こうでした。断食しているときのほうが、食事を摂った後よりも、NLRP3の活性化が低かった。空腹のときのほうが、免疫細胞のNLRP3が、穏やかな状態にあった、ということです。

これが重要なのは、ヒトで、断食がNLRP3を直接下げることを示した、数少ない研究のひとつだからです。動物実験ではなく、人間で、断食という行為の前後でNLRP3の活性を測って、差が出た。

その仕組みも、この研究の中で示されています。鍵を握るのは、SIRT3という酵素です。SIRT3は、細胞の中のエネルギー工場であるミトコンドリアの、抗酸化のはたらきを支える役割を持っています。断食をすると、このSIRT3が活性化する。SIRT3がはたらくと、ミトコンドリアから出る活性酸素が減る。この活性酸素は、NLRP3を作動させる主要な引き金のひとつなので、それが減ると、NLRP3も穏やかになる。

整理すると、二十四時間の断食が、ヒトでNLRP3を下げることは、研究で確認されている。その中心にある仕組みは、SIRT3を介した、ミトコンドリアの健全さの維持である。ここまでが、比較的しっかり確かめられている部分です。

ケトン体という分子 ── サプリで代用できるのか

断食の話をすると、必ず登場するのが、ケトン体です。なかでも、β-ヒドロキシ酪酸、略してBHBという分子が、NLRP3との関係で知られています。

BHBは、断食や、糖質の少ない食事のときに、肝臓が脂肪を分解して作る、ケトン体の主成分です。二〇一五年に、Youmらの研究が、このBHBが、NLRP3を直接抑える方向にはたらくことを示しました。NLRP3が組み上がる過程を、BHBが、いくつかの段階で妨げる。ヒトの免疫細胞でも、BHBが炎症の信号を減らすことが確認されました。

ここまで聞くと、こう思われるかもしれません。「では、BHBのサプリメントを飲んでケトン体を上げれば、断食しなくても、同じ効果が得られるのではないか」と。

ここが、この記事で、いちばん率直にお伝えしたい部分です。話は、そう単純ではありません。

ケトン体を、飲んで補充する方法を使った、ヒトでの試験があります。

ひとつめ。肥満のある方に、ケトン体の飲料を一回飲んでもらった研究(二〇二〇年、Neudorfら)。飲むと血中のBHBは上がりました。けれど、その後の免疫細胞のNLRP3の活性化には、偽薬と比べて、はっきりした差が出ませんでした。一回飲んでBHBを急に上げただけでは、細胞のレベルでは変化しなかった。

ふたつめ。同じグループが、ケトン体を一日三回、十四日間続けて摂ってもらった研究(二〇二一年、Walshら)。この研究は、結果を正確に読むことが大切です。血液中の炎症マーカーそのものには、変化がありませんでした。一方で、免疫細胞を取り出して刺激したときの反応性には、やや穏やかになる変化が見られた。つまり、「血中の炎症マーカーが下がった」のではなく、「免疫細胞を取り出して刺激したときの反応が、やや鈍くなっていた」という結果です。しかも、この研究が本来の主目的としていたのは、血糖や血管機能の改善であって、NLRP3に関わる指標は、副次的なものでした。

整理すると、ケトン体を一回摂っただけでは、細胞レベルのNLRP3活性化に、はっきりした効果がない。十四日間続けると、細胞の反応性に変化の兆しは見えるけれど、血中の炎症マーカー自体は動いていない。「ケトン体のサプリメントを飲めば、断食の代わりになる」と言えるだけのヒトのデータは、現時点では、揃っていません。

なぜ、本物の断食と、ケトン体の補充とで、差が出るのか。二〇二五年に、ひとつの手がかりになる研究が出ました(Mankら)。ただし、これは、まだ査読を経る前のプレプリントの段階で、細胞を使った実験です。この研究は、BHBがNLRP3を抑える効果が、細胞の周囲の環境に依存することを示唆しました。本物の断食では、体が深くケトン体を使う状態に入り、BHBがうまくはたらける環境が整う。一方、サプリメントを飲んだだけでは、血中のBHBは上がっても、その環境までは再現されないのかもしれない ── そういう見方です。これは仮説の段階で、細胞実験の話なので、ヒトにそのまま当てはまるとは限りません。

BHBは、確かに、鍵になる分子です。けれど、鍵を一瞬かざすだけでは、ドアは開かないのかもしれない。これが、現時点での、正直なところです。

時間制限食は、炎症に効くのか

ここまで読んで、毎日十六時間の空腹の時間を作る、十六時間の時間制限食を実践している方は、こう期待されているかもしれません。「自分は毎日プチ断食をしているから、慢性炎症も下がっているはずだ」と。

ここでも、率直に、データを見ます。

時間制限食が、炎症マーカーに与える影響を調べた研究は、近年たくさん行われ、その結果をまとめた解析もあります。二〇二四年に出た、二十五の研究、九百三十六名分のデータを統合した解析(Turnerら)の結論は、こうでした。時間制限食は、軽い体重の減少をもたらしたものの、解析に含まれた多くの研究で、代表的な炎症マーカーであるCRPには、はっきりした変化が見られなかった。

つまり、十六時間程度の時間制限食は、炎症マーカーへの効果が、弱いか、はっきりしない。一方で、二十四時間以上の断食では、NLRP3の活性化の低下が確認されている。

なぜ、こうなるのか。先ほどの代謝の地図を、思い出してください。十六時間の空腹は、ケトン体を使う状態が始まるかどうかの、境界線のあたりです。NLRP3が穏やかになる方向につながる代謝の切り替えは、二十四時間あたりで、より明確になる。十六時間の時間制限食は、その手前で食事を摂る、という設計とも言えます。

ここで、誤解しないでいただきたいのは、時間制限食が無意味だ、という話ではない、ということです。時間制限食には、血糖の安定や、食習慣の整理や、軽い減量といった利点が報告されています。それらは、健康にとって価値があります。ただ、「体の炎症の仕組みに直接はたらきかける」という一点に絞ると、十六時間の時間制限食は、力が及びにくい可能性がある。目的によって、意味合いが変わる、ということです。

断食が、向かない方がいます

ここは、この記事で、最も大切な部分です。

これまで、断食と炎症の仕組みについて、研究に基づいて見てきました。けれど、断食は、誰にとっても安全な方法ではありません。次に当てはまる方は、自己判断で断食を行うべきではなく、必要があれば、医療者に相談してください。

摂食障害の既往がある方。断食という枠組みそのものが、不健康な食行動の引き金になることがあります。これは、特に強く、お伝えしたい注意点です。食事を制限することが、つらい体験や、健康を損なう行動につながったことのある方にとって、断食は、安全な方法ではありません。

痩せ型の方、高齢で筋肉量が落ちている方。長時間の断食は、筋肉量の減少を進めることがあります。

糖尿病の薬、とくにインスリンや、一部の血糖を下げる薬を使っている方。断食の最中に、低血糖を起こす危険があります。必ず、主治医に相談してください。

妊娠中・授乳中の方、成長期のお子さん。エネルギーと栄養の必要量が高く、断食は適しません。

ほかにも、何らかの薬を服用している方、慢性の病気の管理をしている方は、断食が、薬の効き方や、体の状態に影響することがあります。

これらに当てはまらない、健康な成人の方であっても、いきなり長時間の断食から始めることは、おすすめしません。断食は、強くはたらきかける方法です。強くはたらきかけるからこそ、合う方と合わない方がいて、合う方であっても、体調をよく見ながら、慎重に考えるべきものです。「体にいいらしいから」という理由だけで、長時間の断食に飛び込むことは、避けてください。断食を考えるときは、ご自身の健康状態をよく知る医療者に、一度相談されることを、おすすめします。

おわりに ── 単純なメッセージにしないこと

最後に、この記事でお伝えしたかったことを、まとめます。

断食は、ヒトでNLRP3という炎症の仕組みを穏やかにすることが確認されている、比較的しっかりした研究のある方法です。けれど、その効果が確認されているのは、二十四時間以上の断食であって、十六時間の時間制限食は、炎症という観点では力が及びにくい可能性がある。ケトン体という分子が、その仕組みの中心にいますが、ケトン体のサプリメントで断食を完全に代用できるとは、現時点のヒトのデータからは、言えません。そして、断食は、誰にでも安全なわけではなく、向かない方が、はっきりいます。

「断食は体の炎症にいい」という単純なメッセージではなく、どの断食が、どういう条件で、どなたにとって意味があるのか。そして、どなたが避けるべきなのか。その解像度を持つことが、この方法を、賢く、安全に考えるための鍵になります。

健康というのは、ひとつの方法で完結するものではありません。そして、ある方にとって良い方法が、別の方にとっては、そうではないこともあります。断食という、よく耳にする方法についても、確からしいことと、まだ分からないことと、気をつけるべきことを、正しく分けて捉える。それが、このシリーズが、お伝えしたい姿勢です。

お口のことも、お体のことも、気になることがあれば、いつでも当院でご相談ください。そして、断食のように、ご自身の体に大きく関わることを考えるときは、その前に、医療者に相談していただければと思います。

長い記事になりましたが、お付き合いいただき、ありがとうございました。

参考文献

Traba J, Kwarteng-Siaw M, Okoli TC, et al. Fasting and refeeding differentially regulate NLRP3 inflammasome activation in human subjects. J Clin Invest. 2015;125(12):4592-4600. doi:10.1172/JCI83260. PMID: 26529255

Youm YH, Nguyen KY, Grant RW, et al. The ketone metabolite β-hydroxybutyrate blocks NLRP3 inflammasome-mediated inflammatory disease. Nat Med. 2015;21(3):263-269. doi:10.1038/nm.3804. PMID: 25686106

Neudorf H, Myette-Côté É, Little JP. The Impact of Acute Ingestion of a Ketone Monoester Drink on LPS-Stimulated NLRP3 Activation in Humans with Obesity. Nutrients. 2020;12(3):854. doi:10.3390/nu12030854. PMID: 32209983

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Mank MM, Zoller KA, Fastiggi VA, Ather JL, Poynter ME. Acidosis Licenses the NLRP3 Inflammasome-Inhibiting Effects of Beta-Hydroxybutyrate and Short-Chain Carboxylic Acids. bioRxiv. 2025. doi:10.1101/2025.05.01.650510

こちら↓は医師・歯科医師・歯科衛生士向けの解説動画です(一部読み方がおかしい部分がありますが、内容は正確です)。

院長紹介

院長

Tatsuya Aoyama

皆さま、こんにちは。私たちの歯科医院では、患者さま一人ひとりに寄り添い、最適な治療を提供することを目指しています。
精密な技術と設備を活用し、痛みの少ない治療を心掛けています。また、審美治療やインプラント、メインテナンス、訪問診療、抗加齢医学的栄養療法など、幅広いニーズに対応できる専門的なケアを提供しております。皆さまの笑顔を守り、健康的で美しい歯を維持するお手伝いをさせていただきます。お気軽にご相談ください。

略歴

H6年3月
宮崎県立延岡高校卒業
H12年4月
国立徳島大学 歯学部歯学科卒業
H12年5月
歯科医師免許証取得
H12-15年
インプラントセンター、予防歯科医院など3件で勤務
H15年7月
瑞の木会 ローズタウン歯科入社
H22年2月
ローズタウン歯科クリニック 継承
H31年4月
医療法人 地天泰 理事長 就任

所属

  • 日本歯周病学会(歯周病)
  • 日本口腔インプラント学会(インプラント)
  • 日本顕微鏡歯科学会(マイクロスコープ)
  • International Team for Implantology(ITI) member(インプラント)
  • 日本抗加齢医学会(アンチエイジング)
  • 日本分子状水素医学生物学会(アンチエイジング)
  • 日本アライナー矯正歯科研究会(マウスピース矯正)
  • Er-YAGレーザー臨床研究会(レーザー)
  • 日本口腔検査学会
  • 浦安市歯科医師会
  • 千葉県歯科医師会
  • 日本歯科医師会
  • 学校歯科医会

資格

歯科医師、日本抗加齢医学会専門医、ITIセクションジャパンインプラントスペシャリスト認定医