院長のとっておきの話
院長のとっておきの話 その113 「鮭を、毎日食べるなら」全5回 第4回 プロテイン、腸内環境、そしてサプリの罠

栄養の話をしていると、ときどきこう聞かれます。プロテインを飲んだほうがいいのか、それとも普通に魚や肉を食べればいいのか。
■ たんぱく質量を揃えると、筋肉のつくられ方に差は出ていません
鮭を使った直接比較の研究が複数あります。
若い成人10名に運動後、鮭を食べる場合と、鮭と全く同じ栄養素を結晶アミノ酸と魚油の形でバラバラに与える場合を比較した試験では、筋タンパク合成率は鮭が毎時0.056パーセント、バラバラの栄養素が毎時0.046パーセントで、どちらも安静時より有意に上昇しましたが、両者に統計的な差はありませんでした。ただし血中アミノ酸のピークは、バラバラに与えたほうが早く訪れています。★3[1]

65名を対象に、体重1キログラムあたり0.25グラムのたんぱく質を、卵白、全卵、鮭、豚肉、レンズ豆、マイコプロテインのいずれかから摂取した試験でも、血中アミノ酸の動きは食品ごとにかなり違ったにもかかわらず、筋原線維タンパク合成率に群間差はありませんでした。★3[2]
■ ロイシンでは乳由来が勝ちます。ただし結果には表れていません
鮭由来ペプチドとミルクプロテインアイソレートを比較した無作為化比較試験では、必須アミノ酸全体の血中応答は同等でしたが、ロイシンの応答はミルク側が有意に高い結果でした。★3[3]
中間の指標では差がつくのに、結果では差がつかない。第3回のアスタキサンチンと同じ形が、ここでも出ています。
■ 長期の研究でも上乗せは小さいと報告されています
9件192名を統合したメタ解析では、ホエイを含むサプリメントは同カロリーの対照に比べて除脂肪量にわずかな上乗せが認められました(効果量0.301、95パーセント信頼区間0.032から0.571)。ただしホエイ単独に絞ると統計的に有意にならず、効果がはっきりしていたのはクレアチンを含む多成分の製品でした。★4[4]
9件266名を統合した別のメタ解析では、ホエイと大豆たんぱく質のあいだで筋力にも除脂肪量にも差はありませんでした。★4[5]
閉経後女性を対象とした14件の系統的レビューでは、効果が認められたのはレジスタンストレーニングと組み合わせた場合に限られ、運動なしでは筋力にも除脂肪量にも有意な効果はありませんでした。★4[6]

■ 実際の違いは、一緒に入っているものです
ホエイプロテインはたんぱく質だけを取り出した粉です。ビタミンDもEPAもDHAも、強化されていない限り含まれていません。逆に、余計なカロリーが少なく、咀嚼が要らず、費用も抑えられます。
紅鮭100グラムのビタミンD 33.0マイクログラムは、粉では代替できません。ここが最大の非対称です。
歯科の立場から一点だけ付け加えます。噛む力が落ちてきた方が、肉や魚から必要なたんぱく質を確保するのは実際に難しくなります。そういう場面で粉末や液体の選択肢を持っておくことには意味があると考えています。ただしこれは私の臨床実感からの推論であって、上の文献が示したことではありません。
■ 分かっていないこと
魚のDIAAS(たんぱく質の質を表す指標)そのものの値は見つかりませんでした。動物性たんぱく質を網羅した2020年の総説にも魚は含まれておらず、そこではホエイは高品質の区分に入るものの、豚肉、カゼイン、卵、じゃがいもの優良区分よりは下に位置づけられています。★2[7]
ただし、DIAASを計算するもとになる消化率については、2025年に大きなデータが出ました。3つの研究所が標準化した手順で97食品の真の回腸アミノ酸消化率を測定した研究で、魚介類は中央値0.90を超える高消化率の群に入っています。さらに注目したいのは、この群の中で魚介類は食品間のばらつきが最も小さかった(1パーセントポイント)という点です。乳製品が3、卵が5、穀類が18、野菜が16でしたから、桁が違います。★3[8]
どの魚を選んでも、消化率という点ではほぼ同じものが手に入る。これは牛肉や野菜にはない性質です。
□ プロテインは腸内環境を悪くするのか
前回のプロテインの話の続きです。「ホエイプロテインは腸内環境を悪くする」という言説があります。調べてみると、この主張を支える直接のヒトデータは、実質的に一本の小規模試験でした。

■ ほぼ唯一の根拠になっている試験
クロスカントリー走者24名を、たんぱく質サプリ群と対照群に分けて10週間追った2018年のパイロット試験です。
変化しなかったもの:便のpH、水分、アンモニア、短鎖脂肪酸、そして酸化ストレスの指標。著者らはこれをもって「たんぱく質補給が発酵由来の代謝物を増やすわけではない」と記しています。
変化したもの:いくつかの細菌の分類群の増減。★2[9]
分類群は動いたのに、機能を表す指標は動かなかった。「菌の顔ぶれが変わった」と「腸内環境が悪化した」は、この試験の中ですでに乖離しています。
さらに、この試験で使われたのはホエイと牛肉加水分解物の混合物であって、ホエイ単独の効果には帰属できません。各群12名のパイロット試験でもあります。
■ もう一本の前向き研究
座位中心の健常成人に運動とホエイを組み合わせた2018年の研究では、細菌叢の変化は軽微で、有意に変わったのは腸内のウイルス叢の多様性でした。★2[10]
ウイルス叢の変化を「悪化」と読む根拠は、この論文にはありません。
■ 機序として言われていること
よく引かれる機序はこうです。大腸の奥では発酵に使える食物繊維が枯渇するため、腸内細菌はタンパク質を発酵するようになる。タンパク質の発酵はアンモニアやフェノール類など、有害になりうる産物を生じる。★3[11]
この機序は「タンパク質の量」の話ではなく「食物繊維に対するタンパク質の割合」の話です。ホエイ固有の現象ではなく、魚でも肉でも卵でも同じ論理が働きます。ホエイだけを名指しするのは、帰属先の取り違えだと考えています。
■ 硫化水素の話は、方向が定まっていません
タンパク質に含まれる硫黄から腸内で硫化水素が生じ、大腸の上皮を傷める、という話もあります。ラットの研究では、高タンパク食で大腸の硫化水素の総量は増えましたが、内容物の量も同時に増えたため濃度は変わらず、さらに大腸の細胞は解毒酵素を増やして適応していました。★2[12]
「高タンパク、硫化水素、上皮障害」という筋書きが、同じ論文の中で適応機構によって打ち消されています。
潰瘍性大腸炎についての総説では、発酵性食物繊維を増やすことが硫化水素を減らす有効な戦略として、より新しいデータで示されているとされています。★3[13]
■ では何を足すか。成分表で並べてみます
「食物繊維を足す」と言っても、発酵に回る水溶性の繊維と、発酵しない不溶性の繊維では働きが違います。日本食品標準成分表(八訂)増補2023年で、可食部100gあたりの水溶性食物繊維を並べます。
糸引き納豆 3.9g(AOAC法。プロスキー変法なら2.3g) ごぼう ゆで 2.7g(プロスキー変法。イヌリンの低分子分を拾えないため実際はこれより多い) 押麦 めし 2.1g+難消化性でん粉0.5g(AOAC法) ブロッコリー ゆで 1.0g(プロスキー変法)

分析法が混在しているので厳密な比較ではありませんが、順位は動きません。鮭の付け合わせの定番になっているブロッコリーは、この観点では最下位です。ブロッコリーの価値は食物繊維ではなく、ビタミンCと葉酸とカロテンにあります。それは第5回で数字が出ます。
主食を白米から麦ご飯に替えると、一膳で最も効率よく発酵性繊維が増えます。大麦の食物繊維の主体はβ-グルカンで、これは胚乳の細胞壁にあるため、精麦しても残ります。健常中高年20名に大麦粒のパンを3日間食べてもらった試験では、翌朝の空腹時GLP-1が56パーセント上昇し、呼気水素と血清短鎖脂肪酸が増え、朝食後の血糖応答が22パーセント低下しました。★3[14]
ただし、麦ご飯のビタミンB群は白米と同水準です。押麦めしのビタミンB1は0.02mgで、白米めしと同値。ビタミンB群とマグネシウムは玄米の担当(B1 0.16mg、マグネシウム49mg)で、食物繊維は大麦の担当。役割が違うので、両方欲しければ玄米に押麦を混ぜれば済みます。
冷やしたご飯の話もよく聞きます。白米を炊きたてで食べた場合の難消化性でん粉は100gあたり0.64gで、4℃で24時間冷やして再加熱すると1.65gに増え、健常成人15名で食後血糖応答が有意に低下しました。★2[15] 増えるのは100gで約1g、茶碗一杯なら1.5g程度です。効果はありますが、麦ご飯や納豆一パックには及びません。再加熱しても残るので、冷たいまま食べる必要はありません。
■ 私の整理
実務的に効くのは「プロテインをやめるか」ではなく「食物繊維を足すか」だと考えています。
もう一点、私の推論として付け加えます。ホエイは消化率が高く小腸で吸収される割合が大きいため、大腸に到達する未消化のタンパク質は他のたんぱく源より少ないはずです。もしそうなら、タンパク質発酵の観点ではホエイはむしろ有利な部類ということになります。ただしこれを実測した研究は確認していません。推論のままです。
□ 同じ栄養素でも、サプリと食事で答えが逆になることがあります
この連載でいちばん驚いた話をします。
■ サプリメントの研究
海洋性オメガ3のサプリメントを使った7件の大規模試験、8万1210名を統合した2021年の解析では、サプリの使用は心房細動という不整脈のリスク上昇と関連していました。ハザード比1.25。しかも用量依存で、1日1グラムを超える試験では1.49、1グラム以下では1.12でした。★5[16]
英国の46万8665名のコホートでも、魚油サプリの常用者は心房細動の発症率が高く(6.2パーセント対5.2パーセント)、この関連は背景の魚の摂取量では修飾されませんでした。★3[17]
■ 食事の研究
一方、17のコホート研究5万4799名を統合し、血中や脂肪組織のオメガ3の量を実測した2023年の解析では、オメガ3が高いほど心房細動のリスクはむしろ低く、DHAでハザード比0.90、EPAとDHAの合計で0.93でした。著者らは「食事からのオメガ3摂取は心房細動の点で安全」と結論しています。★4[18]
スウェーデンの7万2984名のコホートでも、脂肪魚やオメガ3の摂取と心房細動に関連はありませんでした。★3[19]
■ 同じ栄養素で、符号が反転している
サプリという形では1.25、食事という形では0.90。同じEPAとDHAです。
なぜかについて、私の推論です。最も有力なのは用量だと考えています。試験のサプリは1日1グラムから4グラム、食事なら250ミリグラムから1グラム程度。サプリの研究で見られた用量依存性と整合します。鮭100グラムで750から1200ミリグラムというのは、ちょうど安全域の中です。
第3回で「EPAとDHAは食事で十分すぎるほど足りる」と書きました。足りているところにサプリで上乗せする合理的な理由は、心血管疾患のない人については乏しい、というのが現時点のデータの読みです。
■ 腎臓についても触れておきます
「高タンパクは腎臓に悪い」という話もよく聞きます。腎疾患のない健常成人を対象とした28試験1358名のメタ解析では、高タンパク食で糸球体濾過量はわずかに高くなるものの、変化量で比較すると差はなく、腎機能への悪影響は認められませんでした。★4[20]

ただし前提は「腎疾患のない健常成人」です。すでに腎機能が低下している方では話が別で、日本のCKD患者の研究では食事性の酸負荷が高いほど進行リスクが高いと報告されています。★2[21]
問題は「健常者が常用量を使うこと」ではなく、「腎機能がすでに落ちている方が、それを知らずに大量に使うこと」だと整理しています。
□ 酸化したサプリは、毒なのか、それとも効かないだけなのか
「魚油のサプリは酸化していて、かえって体に悪い」という話があります。認知症のリスクが上がるという説まで目にします。順に調べました。
■ 品質の問題は本当にあります
ニュージーランド市場の魚油サプリ32製品を分析した2015年の研究では、表示どおりのEPAとDHAを含んでいたのは3製品だけで、83パーセントが推奨される過酸化物価を超えていました。賞味期限、価格、原産国、高級品かどうかは、いずれも品質の予測因子になりませんでした。★2[22]

■ ではヒトで害が出ているのか
酸化した魚油を実際にヒトに飲ませた試験があります。健常者54名に、意図的に酸化させた魚油(過酸化物価は国際基準の3.6倍)を1日8グラム、7週間。尿と血液の酸化ストレス指標、脂質過酸化産物、炎症マーカーのいずれにも、高品質の魚油との差はありませんでした。★3[23]
同じ試験の追加解析では、血液細胞の遺伝子発現にも差がなく、一方で高品質の魚油だけが悪玉コレステロールの粒子を減らす効果を示し、酸化魚油はこの効果を示しませんでした。★3[24]
つまり、現時点のヒトのデータが示しているのは「酸化した魚油は毒になる」ではなく「酸化した魚油は効かなくなる」です。
■ 認知症の話について
「酸化したオメガ3サプリで認知症リスクが上がる」というヒト研究は、いくつもの検索語で探しましたが見つかりませんでした。むしろ英国の大規模コホートでは、魚油サプリの使用者は認知症のリスクがやや低いと報告されています。★3[25]

この説がどこから来たかは推定できます。脂質が酸化してできるヒドロキシノネナールという物質が神経細胞を傷める、という機序を提唱している研究グループがあります。ただしその主張の対象は、リノール酸を多く含む調理油を揚げ物などで加熱したときの話であって、魚油サプリではありません。しかもこの仮説を扱った文献は、私が確認した範囲ではすべて同じ研究グループのもので、他のグループによる検証はまだありません。★1[26]
「サプリは酸化している」という品質調査と、「酸化した脂質は神経に悪い」という機序論が、別々に存在しています。この二つをつなぐ接合部、つまり酸化サプリを飲んだ人の体内でその物質が実際に増えているか、という点は、上のオスロの試験で測定されており、増えていませんでした。
■ 私の整理

もっともらしい機序があると、存在しないデータの記憶が生成されることがあります。私自身、調べる前は「そういう研究があったかもしれない」と感じていました。

サプリを避ける理由として最も強いのは、酸化ではなく、この回でで見た用量です。そして食材のほうが安全かというと、鮭を食べた群で酸化ストレスの一指標が上がったという小規模な報告もあり、方向は一律ではありません。★2[27]

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この連載は一般的な情報提供を目的としたもので、特定の食品やサプリメントの効果を保証するものではありません。食事や栄養についてのご相談は、かかりつけの医師や管理栄養士にご相談ください。
