院長のとっておきの話

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院長のとっておきの話 その113 「鮭を、毎日食べるなら」全5回 第3回 毎日食べるなら、何が上限を決めるのか

鮭を毎日100グラム食べるとして、何が最初に問題になるか。順に検討します。

■ EPAとDHAは十分すぎるほど足ります

心血管疾患の一次予防という文脈では、1日250ミリグラム程度のEPAとDHAで足りる、と2006年の総説で整理されています。★4[1]

紅鮭100グラムで750ミリグラム、銀鮭で1200ミリグラムですから、いずれも3倍から5倍です。この「上限側」の話は第4回で扱います。

■ ビタミンDは余裕があります

紅鮭100グラムでビタミンD 33.0マイクログラム、国際単位に直すと約1320国際単位です。日本人の食事摂取基準の耐容上限量は100マイクログラムですので、この一品だけで超えることはありません。

■ 水銀については、私の計算を示します

以下は文献の値からの私の計算であって、そのまま書かれていた数字ではありません。

第2回で紹介したカナダの測定値の上限は1グラムあたり0.1マイクログラムでした。100グラムで10マイクログラムになります。国際的な暫定耐容週間摂取量は体重1キログラムあたり週1.6マイクログラムですので、体重60キログラムの方なら1日あたり約13.7マイクログラム相当です。毎日100グラム食べると、この7割ほどを占める計算になります。

ただし、これは測定値の上限を使った最も厳しい見積もりです。中央値はもっと低く、また日本の妊婦向けの注意喚起でも、サケは対象魚種に含まれていません。過度に心配する必要はないと考えています。

■ 実際に上限を決めるのは、もっと地味なところです

ここからは私の考えです。

毎日食べる場合、律速になるのは水銀でもダイオキシンでもなく、次の二つだと思います。

ひとつは食塩です。生の紅鮭の食塩相当量は100グラムあたり0.1グラムですが、市販の塩紅鮭はまったく別の食品です。毎日1切れとなると、ここが実質的な上限を決めます。

もうひとつは、養殖銀鮭を選んだ場合のエネルギーとn-6系脂肪酸です。脂質は紅鮭の約2.8倍、リノール酸は約27倍でした。他の食事との帳尻を合わせる必要が出てきます。

毎日という前提なら、生か冷凍の紅鮭のほうが計算が合いやすい。銀鮭を毎日にするなら、他で油を減らす。私はそう整理しています。

□ 焼くか茹でるか。成分表の読み方から入ります

焼くと栄養が壊れる、茹でると栄養が逃げる。どちらもよく聞きますが、成分表を正しく読むと、大部分は消えます。

しろさけ(さけ・ます類で生と焼きが両方収載されている項目)の可食部100グラムあたりの値です。

生 エネルギー 124キロカロリー、水分 72.3グラム、たんぱく質 22.3グラム、ビタミンD 32.0マイクログラム、ビタミンB6 0.64ミリグラム、カリウム 350ミリグラム

焼き エネルギー 160キロカロリー、水分 64.2グラム、たんぱく質 29.1グラム、ビタミンD 39.0マイクログラム、ビタミンB6 0.57ミリグラム、カリウム 440ミリグラム

100グラムあたりで見ると、焼くとビタミンDもたんぱく質もカリウムも増えているように見えます。これは水分が飛んだだけです。

■ 重量変化率で補正します

しろさけの重量変化率は、水煮で83パーセント、焼きで74パーセントです(文部科学省資料)。生100グラムが焼きで74グラムになりますので、この74グラムに含まれる量を計算し直すと、実際にどれだけ残ったかが分かります。

以下は私の計算です。

たんぱく質 96パーセント、脂質 92パーセント、セレン 98パーセント、ナイアシン 96パーセント、パントテン酸 97パーセント ビタミンD 90パーセント、葉酸 89パーセント、ビタミンB1 84パーセント、カリウム 93パーセント ビタミンB12 75パーセント、ビタミンB6 66パーセント

焼いて実際に失われるのは水溶性ビタミン、とくにB6とB12です。脂溶性のものと無機質はほとんど残ります。

■ 焼きと茹での本質的な違い

養殖魚を茹で、グリル、ローストで比較した2013年の研究では、グリルとローストで脂肪酸もミネラルも保持され、EPAとDHAの分解も起きませんでした。ただし総水銀とメチル水銀もグリルとローストで上昇しています。★2[2]

栄養素が濃縮されるのと同時に、汚染物質も濃縮される。片方だけ取り上げると誤ります。

茹でると水溶性のビタミンB群とカリウムが煮汁に移ります。裏を返せば、煮汁ごと食べれば回収できるということです。石狩鍋や粕汁は、栄養学的には理にかなった食べ方です。

■ 焼きにしか生じない問題

同じ炭で200度で焼いた牛肉とサーモンを比べた研究では、ヘテロサイクリックアミンも多環芳香族炭化水素も、サーモンのほうが高い値でした。滴下した脂が燃えることが生成に寄与していると確認されています。★2[3]

総説でも、炭火焼きでの脂の滴下を避けること、時間と温度を管理することで生成を減らせるとされています。★3[4]

ここは私の推論を含みます。脂質12.8グラムの養殖銀鮭は、4.5グラムの紅鮭より滴下量が多いはずです。ただし上記の研究条件は屋外のバーベキューであって、受け皿のある魚焼きグリルやフライパン、オーブンで切り身を焼く条件とは違います。日本の家庭調理にそのまま当てはめるのは慎重にすべきだと考えています。

■ ビタミンDは調理法をほぼ問いません

タイの淡水魚と海水魚9種を調べた研究では、茹で、揚げ、焼きのいずれもビタミンD含量は生と有意差がありませんでした(一部の魚種を除く)。★2[5]

私の補正計算(焼きで90パーセント残存)とも整合します。

■ まとめると

ビタミンD、たんぱく質、セレンが目的なら、焼いても茹でても大きな差はありません。B6やB12、カリウムを重く見るなら焼きが有利か、煮汁ごと食べる。塩紅鮭なら、茹でれば塩も抜けます。この回の冒頭で書いた「毎日食べるなら食塩が上限を決める」という話に対しては、これが直接の対策になります。

□ アスタキサンチンは、サプリメントの代わりにはなりません

鮭の赤い色はアスタキサンチンという色素です。ここには興味深い矛盾があります。

■ 濃度と、試験管の中での吸収されやすさ

2016年の研究では、天然サーモンのアスタキサンチンは養殖の約10倍で、一般的な調理で天然は48から57パーセント、養殖は35から47パーセントが失われると報告されています。消化を模した実験では、吸収されやすい形に移行する割合が、生の天然で43パーセント、生の養殖で12パーセントでした。★2[6]

ここまでなら「天然のほうが良い」で終わります。

■ ところが、ヒトで試すと逆になります

健常男性28名を対象とした無作為化二重盲検試験では、天然サーモンまたは養殖サーモンを、アスタキサンチン量を1グラムあたり5マイクログラムに揃えたうえで1日250グラム、4週間食べてもらいました。

血漿のアスタキサンチン濃度は、天然が1リットルあたり39ナノモル、養殖が52ナノモル。3日目、6日目、10日目、14日目のいずれも養殖群のほうが有意に高値でした。★3[7]

試験管の中で3倍以上有利だったはずの天然が、ヒトでは負けています。中間の指標と、実際に人の体で起きることが、逆を向いた例です。

■ 桁の話

血漿濃度39から52ナノモルというのは、0.04から0.05マイクロモルです。市販のサプリメントを使った試験で報告される血漿濃度は、桁が二つ上です。

鮭を毎日250グラム食べても、アスタキサンチンのサプリメント試験で使われている曝露量には遠く届きません。加熱で半減するかどうかを気にする以前に、もともと桁が違います。

私はこれを、鮭を否定する話としてではなく、鮭に過剰な期待を載せないための話として書いています。鮭を選ぶ理由は、第1回で見たとおりビタミンDと脂肪酸のほうにあります。

■ 着色料についての、打ち消しの情報

養殖魚の飼料に使われるカンタキサンチンについて、網膜に結晶が沈着した症例報告があります。★2[8]

ただしこれは経口の日焼け剤を高用量で使った人の話です。16年から24年の長期追跡では、無症状で機能障害もなく、結晶は約20年で完全に消失したと報告されています。★2[9]

食用魚に残る量で臨床的な問題になる根拠はありません。1980年代のサプリメントの話が、食品の議論に貼りついたまま残っている例だと考えています。

なお、紅鮭と銀鮭のアスタキサンチン含量を定量比較した査読論文は、探した範囲では見つかりませんでした。「紅鮭はアスタキサンチンが豊富」という言い方には、成分表にも査読文献にも裏づけがありません。

■ 参考文献 [1]Mozaffarian D, Rimm EB. JAMA. 2006;296(15):1885-1899. doi:10.1001/jama.296.15.1885 [2]Costa S, et al. Food Chem Toxicol. 2013;60:277-285. doi:10.1016/j.fct.2013.07.050 [3]Viegas O, et al. Food Chem Toxicol. 2012;50(6):2128-2134. doi:10.1016/j.fct.2012.03.051 [4]Sobral MMC, et al. Compr Rev Food Sci Food Saf. 2018;17(2):309-333. doi:10.1111/1541-4337.12327 [5]Sridonpai P, et al. Foods. 2022;11(6):819. doi:10.3390/foods11060819 [6]Chitchumroonchokchai C, Failla ML. Food Res Int. 2016;99(Pt 2):936-943. doi:10.1016/j.foodres.2016.10.010 [7]Rüfer CE, et al. Br J Nutr. 2008;99(5):1048-1054. doi:10.1017/S0007114507845521 [8]Chang TS, et al. Am J Ophthalmol. 1995;119(6):801-802. doi:10.1016/s0002-9394(14)72791-6 [9]Hueber A, et al. Ophthalmologica. 2011;225(2):108-111. doi:10.1159/000323813

この連載は一般的な情報提供を目的としたもので、特定の食品やサプリメントの効果を保証するものではありません。食事や栄養についてのご相談は、かかりつけの医師や管理栄養士にご相談ください。

院長紹介

院長

Tatsuya Aoyama

皆さま、こんにちは。私たちの歯科医院では、患者さま一人ひとりに寄り添い、最適な治療を提供することを目指しています。
精密な技術と設備を活用し、痛みの少ない治療を心掛けています。また、審美治療やインプラント、メインテナンス、訪問診療、抗加齢医学的栄養療法など、幅広いニーズに対応できる専門的なケアを提供しております。皆さまの笑顔を守り、健康的で美しい歯を維持するお手伝いをさせていただきます。お気軽にご相談ください。

略歴

H6年3月
宮崎県立延岡高校卒業
H12年4月
国立徳島大学 歯学部歯学科卒業
H12年5月
歯科医師免許証取得
H12-15年
インプラントセンター、予防歯科医院など3件で勤務
H15年7月
瑞の木会 ローズタウン歯科入社
H22年2月
ローズタウン歯科クリニック 継承
H31年4月
医療法人 地天泰 理事長 就任

所属

  • 日本歯周病学会(歯周病)
  • 日本口腔インプラント学会(インプラント)
  • 日本顕微鏡歯科学会(マイクロスコープ)
  • International Team for Implantology(ITI) member(インプラント)
  • 日本抗加齢医学会(アンチエイジング)
  • 日本分子状水素医学生物学会(アンチエイジング)
  • 日本アライナー矯正歯科研究会(マウスピース矯正)
  • Er-YAGレーザー臨床研究会(レーザー)
  • 日本口腔検査学会
  • 浦安市歯科医師会
  • 千葉県歯科医師会
  • 日本歯科医師会
  • 学校歯科医会

資格

歯科医師、日本抗加齢医学会専門医、ITIセクションジャパンインプラントスペシャリスト認定医